社会の常識や人々の価値観は、この30年の間に大きく変化した。しかし、それは一夜にして変わったわけではなく、先人たちの積み重ねによって徐々に成し遂げられたものである。
本稿では、過去のテレビドラマを手がかりに、20~30年前における女性の役割意識や、社会規範から外れた女性が直面していた生きづらさについて考える。

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◆セクハラは私語の延長、既婚女性はお荷物だった時代

1996年に放送されたNHK連続テレビ小説『ひまわり』(NHK総合ほか)が、NHK BSで再放送されている。

ヒロイン・南田のぞみ(松嶋菜々子)が勤務する大手食品メーカーでは、職場に男女差別が蔓延している。

電話が鳴ると、男性社員は「誰か女の子。電話鳴ってるぞ」と女性社員を呼ぶ。電話対応が女性の仕事かという以前に、女性社員をひとくくりに「女の子」と呼ぶことに強い違和感を覚える。

さらに驚いたのが、のぞみがお茶を配っていると、中高年の男性社員が「でかいな」と容姿に関する発言を浴びせられる場面だ。この発言をとがめる者は一人もいない。むしろ職場では「セクハラなんて言ってたら、私語なんか一切できん」と、共感し合う男たちばかりだ。

のぞみの職場で活躍している女性といえば、37歳の春日ひとみ (浅野ゆう子)くらいだ。ひとみは仕事に全力を注ぎ、現在の地位を築いたが、後輩の女性社員からは「春日のお局」と陰口をたたかれている。仕事で高く評価されるも、彼女に憧れる後輩はいない。


本作前半では、のぞみが「結婚か仕事か」で揺れる姿が描かれる。当時の女性が、どちらか一方しか選べなかった現実を改めて実感した。

結婚の噂が流れたのぞみは、経営陣から「結婚ボケの姉ちゃん」とまで囁かれていた。さらに、ひとみ(浅野)も、結婚を控えるのぞみに対し「いつ辞めるかわからない爆弾持った人」と率直に述べていた。

なお、松嶋菜々子は本作から約20年後の2016年、『営業部長 吉良奈津子』(フジテレビ系)でキャリアウーマン・吉良奈津子を演じている。奈津子は産休・育休を取得したことで、職場に居場所を失った。今から10年ほど前でも、子どもがいる女性が社内で公然と"お荷物"とされるのは珍しいことではなかった。

◆『シングルス』が描い「規範から外れた女性」の孤立

『ひまわり』の約1年後に放送された『シングルス』(関西テレビ・フジテレビ系)には、社会規範から外れた女性が直面する生きづらさが描かれている。

主人公は30歳の小野寺あさひ(天海祐希)。カメラマンとして活躍するキャリアウーマンだ。

あさひは、妹・若菜(遊井亮子)の恋人・渡辺俊(原田龍二)と恋に落ちた。二人は自然な成り行きで男女の関係を持ち、子を授かる。
彼女はその子を一人で産み育てると決意した。

しかし出産後、あさひは社会の中で次第に孤立していく。例えば、ビジネスの現場で「シングルマザーか。俺ね、そういうの大嫌いなんだ。そういう人とは仕事を組みたくないものだね」と言われることもあった。

また、役所の窓口で「私、未婚で子どもを産むんですけど、実は今、収入ゼロなんですよ。その場合の援助金について伺いたいんですけど」と相談すると、「結婚できないわけがあるんですか? 不倫か何か」「そんな好き勝手に生きてる人に援助しろなんて言われたってね」と、冷たくあしらわれていた。

本作は、シングルマザーだけでなく、子どもがいない女性への偏見も描かれている。「あの20万円の椅子ですけど、どんな人に座ってほしいと思います? 例えば女性なら」と、椅子職人の矢野一志(伊原剛志)は製作した作品についてインタビュアーから質問を受けた。すると彼は「子どもを産んで育てた女性」「それ以外は女性とは言えない。ただのガキだから」と衝撃的な一言を放っている。

"女性は守られる存在"というイメージが世間にはあるが、その対象は若い女性や主婦などに限られていると思う。
社会規範から外れた女性に向けられる世間の視線はついこの前まで厳しいものであった。

◆働く女性の象徴が求められた時代背景

52歳の松嶋菜々子と58歳の天海祐希を同世代にくくっても差し支えないだろう。この世代は、母親世代と比べて明らかに選択肢が多く、男女雇用機会均等法の制定・改正を背景に女性の社会進出が推進される中でキャリアを築いた。加えて、独身女性の割合が増え始めた世代でもある。

2000年代初頭、松嶋と天海はこうした時代の象徴として、数々の魅力的なキャリアウーマンを演じていた。"仕事に誇りを持つ女性"という生き方は、女性視聴者のロールモデルとなった。

『ひまわり』も『シングルス』も現代の視点から見れば、倫理的に問題のある台詞が少なくない。しかし、同時に既存の価値観にとらわれず、自らの道を歩もうとする女性像を提示し、視聴者の背中を押してくれた。30年前に放送されたこれらの作品に、今なお鼓舞される視聴者は多いはずだ。

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