成功を収めるために必要なのは、人並み外れた知能や身体能力なのか。スポーツ心理学者の児玉光雄さんは「ウイスコンシン大学が約8000人の天才を調査した結果、その共通点は能力の高さだけではなく、性格特性にあった」という――。
(第3回)
※本稿は、児玉光雄『大谷翔平の思考法 「できない」を「できる」に変える』(アスコム)の一部を再編集したものです。
■挑戦を止めない限り「失敗」ではない
大谷選手のような成功者たちの共通点は、徹底して量をこなしている、ということ。
「成功確率は理屈抜きに試行回数で決まる」と、私は考えています。自分が定めた成功というゴールにたどり着きたかったら、目の前の作業における試行回数を増やすしかないのです。
たとえば、ここに「成功率が1%」の困難な作業があったと仮定します。この作業を2回繰り返すと、成功率は約2%に増加〔100%-(99%×99%)=1.99%〕します。その後も試行を繰り返せば、成功確率は着実に増えていき、試行回数が100回のときは、63%を超え、459回繰り返すと、99%にまで到達するのです。
これはあくまでも理論上の数値ですが、試行回数を増やすことが成功に着実に近づく強力な要素であるとわかるはずです。そのことについて、大谷選手はこう語っています。
「やればやるだけ洗練されていくものだと思うので……そこは数をこなしていくのが大事なのではなくて、数をこなす分、よかった、悪かった、の回数が増えていくことで、それがより洗練されていくことにつながっていくんだと思います。
数が決まっているとそこまで辿りつけなかったり、自分が思うスイングができなかったりということが出てきてしまいますから……」(『雑誌ナンバー2019.6.27号』文藝春秋)
■約8000人の天才を調べて判明した共通点
あなたの人生の中で、成功した回数ではなく、実行した行動の数を誇ってください。
人生における夢の実現は、「描いた夢の数ではなく、あなたの行動の数で決まる」のです。
成功確率の低い夢でも、単純に行動の数を増やせば、いずれ夢にたどり着けるのです。
2021年、ウイスコンシン大学の研究者を中心にした研究グループが、天才のパーソナリティについて調査しました。研究チームは、過去に実施された天才に関する複数の調査から約8000人のデータを調べたそうです。
この調査が定義した「天才」とは、同世代の人間よりも知性が突出した人たちを指します。ジャンルは、数学や語学の成績はもちろん、芸術的な分野における想像力、哲学的な思考の深さなど、さまざまな知的ジャンルに及びました。
その結果判明した彼らの共通点は「開放性の高さ」でした。
■天才の正体は「好奇心」の塊
開放性という言葉は、パーソナリティ研究の用語であり、未知のテーマにポジティブな興味を持ち、それに対して具体的な行動を起こせるかどうかを示す性格を意味します。その開放性を示す大谷選手の言葉があります。
「ピッチャーだけをしていたら、ピッチングでしか経験できない発見があるわけですけど、ピッチングをやってバッティングをしていれば、楽しい瞬間はいっぱいあるんです。そういう瞬間が訪れるたびに、僕は投打両方をやっていて『よかったなあ』と思うんじゃないですか」(『道ひらく、海わたる 大谷翔平の素顔』扶桑社)
つまり、天才とはイコール「好奇心」に溢れた人間なのです。私たちが成功にたどり着くための2つ目の要素は、「多様」です。いくら試行回数を増やしても、同じことを繰り返すだけでは成功にはたどり着けません。
チャレンジの多様化が必須要素なのです。
しかし、それではまだ「さまざまに試行しているだけ」に過ぎません。行動の量を効率よく成功に導くには、3つ目の要素である「察知力」が必要となります。
察知力とは、自分の身の回りの小さな変化を見逃さないスキルです。大谷選手は、バットのスイングにおいて並のバッターが気づかないようなほんのわずかな違いを察知するスキルを日々の鍛錬によって身につけています。
■閃きの源泉は身近な違和感
実はイノベーションを起こす人間ほど観察に時間を費やすことが判明しています。
つまり、優れたイノベーターたちほど、仕事上の小さな変化を敏感に察知し、それによって誰も真似できないアイデアを生み出しているのです。これも好奇心なくしては、不可能な作業であると言えます。パリの警察学校の壁には1世紀以上前から1つの警句が掲げられています。
「脳は外界の特異なものを見つけ出す。しかし、それはすでに脳に存在しているものだ!」
前例のないアイデアを創造する人間ほど、身の回りの特異なものを察知する能力が高いのです。
成功にたどり着くには、まず好奇心を膨らませて試行回数を増やしていくだけでなく、試行するテーマに多様性を持たせることも必須なのです。

■好奇心を膨らませる特効薬
それでは好奇心を膨らませる具体策は何でしょう?
マインドセット研究で有名なキャロル・ドゥエック博士のグループは、864人の男女を集め、全員に「普段からどれだけ自問しながら生活しているか?」という質問に答えさせました。
たとえば、何かに行き詰まって袋小路に入ってしまったとき、「自分にできることは何か?」「もっとうまくやるには?」と自問したり、学習に進歩がないと感じたときに「もっといい方法はないか?」「先に進むために何ができるか?」と自問自答しているかどうかを調査したのです。
その結果、日頃から自問を繰り返す人ほど学校の成績が良かっただけでなく、健康、貯金などの目標の達成率も高く、実験室で行われた認知テストの結果も優れていたのです。
自問自答を習慣化することにより、私たちは2つの重要なスキルを獲得する可能性が高まります。
まず1つ目はメタ認知(自分が認知していることを客観的に把握し、制御すること)による視野の拡大です。
■大谷翔平が最も大切にしている視点
自分のキャリアを通してやるべきことについて、大谷翔平選手はこう語っています。
「『自分はこういうものを築いてきたというものが最後にある』ということを一番大事にしたいと考えています。変な話、100勝して何もないより、最後に1勝して、そのときにすごいものを発見できたほうが嬉しいのかなと思うので……プロ野球選手にとって勝ち続けることは大事ですけど、それとは別に、自分の中に何かを残すことはそれ以上に大事なのかなと思っているんです。
それが何なのかは終わってみなければわからない部分ですけど、やっぱり最後に満足して終わりたい。終わって何も残らなかったというのが一番、悲しいですからね」(『大谷翔平 野球翔年I日本編2013~2018』文藝春秋)
自問自答によりメタ認知能力を高めると、広い視野で物事を考えるスキルが養われます。
ちょうど上空から獲物を狙う鷹の目のように、物事を捉えることができるのです。当然ながら、地上を動いて獲物を探すよりも、上空から獲物を見つけるほうが有利であることは言うまでもありません。

■1つの問いが新たな発見を連れてくる
そしてもう1つの自問自答のメリットは、問いの連鎖により好奇心が強化されるということです。これにより、視野が一層広がり、直感やひらめきが生まれやすくなります。自問自答について、大谷選手はこう語っています。
「無駄な試合とか、無駄な練習っていうのはないかなと思っているので、頑張って何年続けても結果が出ないという練習の仕方っていうのは確実にあると思うんですけど、それを失敗だと気づいて違うことに取り組めば、そこで1個発見があって、それがどんどん成功につながっていくのかなと思うので、僕自身まだ成功したとは思ってないですし、むしろ失敗と成功を繰り返している段階なんです」(日本スポーツ振興センターアスリート育成パスウェイ)
1つの問いから違う問いが生まれることで、世の中への関心が広がり、それゆえに周囲の小さな変化に注意を向けさせる効果があります。問いが問いを生む体験を積み重ねることで、私たちの脳は身の回りの小さな変化に気づくことができ、結果察知力も高まるのです。
■最強の味方はもう一人の自分
心理学では、自分自身に話しかけることを「セルフ・トーク」と呼んでいますが、メンタルが強い人の共通点の1つは、セルフ・トークがうまいことです。
フロリダ州立大学の心理学者コリー・シャファー博士は、陸上やバスケットボールなど、さまざまな分野の大学のスポーツ選手68名に、ゲームのときにどのような作戦をとっているのかを語らせました。
その結果、彼らが試合のときによく使っている作戦は、「セルフ・トーク」であることがわかりました。
メンタルが弱いという自覚があるのなら、自分自身との会話が足りないのです。自信満々なもう一人の自分にセルフトークを通じて励ましてもらったり、勇気づけてもらったりすればいいのです。
大谷選手にしても、心の中で自問自答を繰り返しながら自らのパフォーマンスを洗練させてきたことから、着実に成果を挙げることができたのです。

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児玉 光雄(こだま・みつお)

スポーツ心理学者

追手門学院大学スポーツ研究センター特別顧問。
京都大学工学部卒業後、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)工学修士。『逆境を突破する技術』『上達の技術』『一流の本質』など著書多数。

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(スポーツ心理学者 児玉 光雄)
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