高市政権の「サナエノミクス」はどのような結果になるのか。弁護士の明石順平氏は「『サナエノミクス』は『アベノミクス』の“負の遺産”を引き継いでいる。
この先に起こるのは、日本円の通貨崩壊に他ならない」という――。
※本稿は、明石順平『サナエノミクスによろしく』(集英社インターナショナル新書)の一部を再編集したものです。
■アベノミクスを継承した「サナエノミクス」
2012年(平成24年)から始まった、「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」の「3本の矢」を柱とする政策「アベノミクス」。このアベノミクスを継承・発展させた「サナエノミクス」を実行しようとしているのが、高市早苗首相だ。
しかし現在の経済環境下でサナエノミクスを発動すると、非常に大きな問題が発生する。その理由を、金利と国債発行の観点から説明する。
まず、日本の市場金利と普通国債の残高、そして国債の利払費の推移から見ていきたい。日銀が長らく金利を抑えつけていたため、国債残高の増大にもかかわらず利払費は横ばいであった。
金利が上昇した場合、利払費は急増する。「利払費と金利の推移」のグラフを見ると、利払費は2024(令和6)年度の8.2兆円から2025(令和7)年度の10.5兆円と、約30%増加した。
ここまでは誰もが指摘することなのだが、「その利払費をどうやって調達するのか」について説明されることはほとんどない。日本はプライマリーバランス(社会保障や公共事業といった行政サービスを提供するための経費を、税収などで賄えているかを示す指標)が赤字であり、1年間の政策的経費ですら、自前の収入で賄うことができていない。

したがって、借金の元本と利息は、新たな借金で返済している。すなわち、利払費が増えた場合、その費用は国債増発によって賄うことになる。
■財政的に信頼できない国の金利が上昇すると
国債発行額が増えれば、日本の財政の持続可能性に疑問がもたれるため、日本国債の人気が下がる。つまり、国債の価格が下がるので、流通市場における金利が上がる。
金利が上がれば、それに合わせて新たな国債の表面利率を上げざるを得ないので、利払費が増える。利払費が増えれば、国債の発行額が増える……このように終わらない金利上昇スパイラルが発生するだろう。こんな状態になった国の通貨の信用が保てるとは思えない。
通常、金利が上がれば通貨高になる。しかし、財政への信頼喪失を原因とする金利上昇は違う。金利が上がっているのに通貨安が止まらない、という異常事態になる。
もう、その事態は始まっている。現在、金利が上昇し、他国との金利差も縮まっているにもかかわらず、大きく円高になる動きはない。
円は安いままである。
金利が上がると起きることをまとめると次のとおりである。
■今の円安は「アベノミクスの副作用」
①日銀が「実質債務超過」及び「日銀会計上も債務超過」になる可能性がある。

②国債を保有する民間金融機関に莫大な国債評価損が発生する。

③国債増発による金利上昇スパイラルが発生する可能性がある。
特に①と③は円の信用につながる。③が一番大きい。「金利を上げているのに円安が止まらない」という状況が発生する。もうそれは始まっている。
では、日銀が国債買入額を再び増額し、金利を抑制したらどうなるのか。それは為替市場へ「通貨安を放置する」という明確なサインを送ることになるので、やはり円安が進んでしまう。
「結局どちらの道を選んでも、円安が止まらないではないか」と思ったかもしれない。
そのとおりである。これが、「アベノミクスに出口はない」と言われ続けた理由である。こうなった原因は日銀の国債爆買いであり、それはアベノミクスそのものである。だから、今の円安は「アベノミクスの副作用」なのである。
■今「積極財政」を行ってはいけない理由
この状況で「サナエノミクス」、すなわち積極財政を行うとどうなるのか。積極財政は財政支出の拡大を意味するため、当然、国債を増発する必要がある。つまり、「お金が増える」ので、円の価値は当然落ちる上、日本財政への信頼も落ちる。
要するに、ただでさえ円の価値が危険に晒(さら)されている状況が、もっと悪化する。高熱を出している人を、水風呂に入れるようなものである。専門的知識を持つ人からすれば、絶対にやってはいけない誤った政策である。だから高市氏の総裁選勝利後、急激に円安が進んだと言える。
なお、消費税減税も、市場に与える影響は「積極財政」と同様である。
減税したら穴埋めのために国債を増発しなければならない。そうすると、ただでさえ危うい状況にある日本財政への信頼がさらに落ち、金利上昇と円安が悪化する。
物価は上昇し続けるため、消費税減税による物価下落は、円安による物価上昇によってすぐに打ち消され、生活はより苦しくなる。「消費税の代わりに、もっと恐ろしいインフレ税が来る」だけなのである。うまい話はない。
総選挙の前に公表された2026年度当初予算案は、史上最大の122兆円を超え、国債発行額も約30兆円と前年度当初予算を超えた。ただ、これでも想像よりは抑制されていると受け止められたようである。
しかし、例年通りであれば、年度中に補正予算を組んで追加支出をするであろう。その時、市場がどう反応するか。円安が悪化する可能性は高い。今までは為替介入で無理やり抑え込んできたが、それが今後も通用する保証はない。
■円安が悪化した日本の未来
通貨崩壊は急激なインフレーションを引き起こす。
日本の食料自給率は、カロリーベースで40%程度しかない。この自給率について、種や肥料まで輸入に頼っていることを考慮に入れた場合、10%前後になると主張する者もいる。いずれにせよ、食料の多くを輸入に頼っている日本において急激なインフレーションが発生した場合、食糧難になるのは確実である。
さらに、日本のエネルギー自給率は10%程度しかない。円安によって化石燃料の輸入が困難になれば、発電・輸送などあらゆる分野に影響し、経済が壊滅的な打撃を受ける。なお、石油がなければ農業機械も動かせなくなるので、食料自給率にも当然影響する。
日本は人手不足を外国人労働者によって補ってきたが、その外国人労働者も日本を出てしまうだろう。通貨の安い国で働き続ける理由はないからである。海外に行く意思と能力のある日本人労働者は、海外へ出るだろう。つまり、現在の人手不足に拍車がかかり、多くの日本企業の事業継続が不可能となるだろう。
医療も大打撃を受ける。医薬品を十分に輸入できなくなる上、人手を確保できないからである。
年金はインフレーションに追いつかず、高齢者は困窮するだろう。
■通貨崩壊で起こりうる「エネルギー問題」
さらに、日本特有のリスクとして、原発の存在も忘れてはならない。2011~20年の10年間において、世界で発生したマグニチュード6.0以上の地震の17.9%が日本周辺で発生している。これは日本が4つのプレートの集まる場所に位置しているからである。
このような世界有数の地震大国に、50基以上の原子炉が存在している。そのうち、2026年2月現在で稼働しているのは15基である(なお、24基はすでに廃炉が決定している)。福島第一原子力発電所の事故の発生を受けて新規制基準が策定され、それを満たさないと稼働ができない状況となっているため、稼働している原子炉は15基にとどまっている。
通貨崩壊が起きた場合、日本は化石燃料を輸入に依存しているため、電気代が急騰するだろう。2023年度、日本の発電における化石燃料の割合は約70%であり、原子力は約7%に過ぎなかった。化石燃料の輸入が困難になれば、発電すらできなくなる可能性もある。したがって原発再稼働を望む声は強まるだろう。
しかし、原発を安全に運転するためには、莫大な金と人材が必要である。通貨の力を失い、急激に人口が減少する国家が、この世界有数の地震多発地帯において安全に原発の運転を継続することが可能であろうか。しかも現在、日本国内にある原発は老朽化が進んでいる。したがって、地震の有無にかかわらず、事故の危険性は時間の経過とともに高まっていく。
■税への不満を煽り続けた“功罪”
人類は何度も通貨崩壊を経験しているが、これほど少子化と高齢化が進み、かつ、食料自給率とエネルギー自給率が著しく低い状況で通貨崩壊が起きたことはない。通貨崩壊を防ぐには財政再建を行い、市場の信頼を回復するしかないが、不可能である。
財政再建は、具体的にいえば歳出の大幅カットと大増税を意味する。しかし、国民が受け入れるはずがない。
日本は、ほんのわずかな期間を除き、自民党がずっと政権与党であった。野党は市場に責任を持つ必要がないので、税への憎悪を煽(あお)ることで目先の人気を獲得しようとした。もしも政権交代が定期的に発生する状況であれば、このような選挙対策は取られなかったであろう。税への憎悪を煽ると、いざ自分たちが政権与党になった際に、自らの首を絞めるからである。
消費税増税をしないと公約したにもかかわらず、政権与党になったら増税を決めた民主党が好例である。未だに民主党が憎まれている理由の一つに、公約破りの消費税の増税を決定したことがあるのは間違いないだろう。
しかし、その失敗に学ばず、野党は選挙になると、どの政党も減税で人気取りに走る。以前よりもさらに過激になったように見える。そして2026年の総選挙では、自民党まで消費税減税を唱えるに至った。誰も現実を見ていない。このような状況で財政再建を唱える政治家を誰も支持しないであろう。
したがって、通貨崩壊は避けられないと私は思っている。「サナエノミクス」は、その通貨崩壊の到来を早めるものである。

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明石 順平(あかし・じゅんぺい)

弁護士

1984年、和歌山県生まれ、栃木県育ち。弁護士。東京都立大学法学部、法政大学法科大学院を卒業。主に労働事件、消費者被害事件を担当。ブラック企業被害対策弁護団所属。著書に、『アベノミクスによろしく』『データが語る日本財政の未来』(集英社インターナショナル新書)などがある。

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(弁護士 明石 順平)
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