中国メディアの第一財経日報はこのほど、「撃沈された中国漁船はなぜ、万里も遠しとせずアルゼンチンで漁獲したのか?」と題する記事を掲載した。同記事は、環境破壊と略奪式漁業のために中国近海の水産資源が枯渇したと紹介した。


 アルゼンチンの海上警察は現地時間14日、中国漁船の「魯煙遠漁010」がアルゼンチンの排他的経済水域(EEZ)で違法操業していたばかりか、取り調べに応じず自船をアルゼンチン側の警備艇にぶつけて逃走しようとしたとして、「魯煙遠漁010」に発砲。同船は複数個所に被弾して沈没した。乗組員32人は、船長を含む4人がアルゼンチン側に、残り28人は近くにいた中国漁船に救助され、死傷者は出なかった。

 第一財経日報は、中国の近海では水産資源の減少が深刻と紹介。河北省在住の漁業関係者は「10年、20年前と比べて、捕れる魚やエビは、比較にならないほど少なくなった。しかも小さくて「肥料にしかならない」ものが多いという。


 近海漁業を駄目にした理由が、海岸地域の開発だ。抑制のない埋め立てで海洋生物は産卵場所を失い、食物連鎖も断絶した。そのため、「水産資源の生き残り」も困難になったという。

 加えて、大規模な「略奪式漁業」だ。中国の漁業が大きく発展したとされるのは1960年代だ。しかし漁船数は60年代末でも、1万隻余りに過ぎなかった。
ところが1990年代半ばまでには20万隻を超えた。船の数が増えただけでなく、漁船が大型化し、漁具も現代化した。水産資源を「根こそぎ」という状態になった。

 さらに、河川の汚染が極端化した。渤海湾の中の「三大湾」のひとつとされる莱州湾は、海洋生物の重要な産卵場所であり漁場でもあったが、2006年以降は、莱州湾に流れ込む主要河川の多くで、水質が「劣5類」と、最低ランクになった。莱州湾の30%の海域が、「劣5類」の水の影響を受けており、海洋生物の産卵数は減りつづけているという。


 そのため、漁業関係者は「新天地」を探さざるをえない状態になったという。

 中国の遠洋漁業が「大躍進」期を迎えたのは2011年以降で、2015年までに遠洋漁船は2500隻、総トン数は205万とに達した。

 中国はすでに、40の国と地域と排他的経済圏(EEZ)内での漁獲について協定を結んでおり、太平洋、インド洋、大西洋、南極海域のすべてで、中国漁船が操業しているという。遠洋漁業の発展が最も目覚ましいのは山東省で、2015年6月末現在で、遠洋漁業の資格を持つ企業は31社、保有する遠洋漁船は434隻、総トン数は25万9000トンに達した。

 撃沈された「魯煙遠漁010」も山東省企業の煙台海洋漁業有限公司に所属する遠洋漁船だ。

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◆解説◆
 違法操業の疑いで取締船に自船をぶつけて逃走を図った例として、日本人にとっては2010年に尖閣諸島近海で発生した「中国漁船衝突事件」が記憶に新しい。


 中国が領有権を主張する尖閣諸島周辺海域で発生したために問題が複雑化したが、「違法操業をして処罰を逃れようとした」という行為だけをみても、極めて悪質な事件だった。しかし考えてみれば、同漁船はそれほど大きくなく、船長の個人所有だったとされている。

 小さな漁船の所持者は資金面で綱渡り操業をしている場合が多く、「当て逃げ逃走」が許されないのはもちろんだが、多くの水揚げ量を狙っての侵入と、罰金などを恐れての逃走だとすれば、船長の心情は理解しやすい面があるとも言えるだろう。

 アルゼンチン沖で発生した事件が深刻なのは、企業として組織的運営をしているはずの遠洋漁業船が、「違法操業」をしていた可能性が高いことだ。仮に常態化してたとすれば、中国とEEZ内での操業について協定を結んでいたとしても、現場の漁船が協定を無視して「略奪式漁業」を行う可能性も否定できないことになる。(編集担当:如月隼人)(イメージ写真提供:123RF)


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