新監督は優勝する──西武には連綿とつながる"吉兆"がある。1982年の広岡達朗から2017年の辻発彦まで8人の監督が指揮を執ったが、そのうち5人が監督就任1年目で優勝を成し遂げている。

はたして、今季から西武の指揮を執る松井稼頭央監督はどうなのか? 過去を振り返りながら、今季の西武を占ってみたい。

松井稼頭央は踏襲できるか 西武の新監督に「脈々と受け継がれる...の画像はこちら >>

今季から西武の指揮を執る松井稼頭央

【徹底した管理野球で19年ぶり制覇】

 ライオンズはクラウンライターから1978年に西武へと親会社が代わり、本拠地を福岡から埼玉に移転。初代監督・根本陸夫は新生・西武の礎を築き、82年に広岡達朗へとバトンをつないだ。

 広岡は78年にヤクルトの監督としてセ・リーグを制し、日本一にも輝いた名将である。徹底した"管理野球"と"守備重視"の野球で、当時"前・後期制"だったパ・リーグでいきなり前期の優勝を飾った。さらに後期優勝の日本ハムをプレーオフで下し、前身の西鉄ライオンズが優勝した63年以来、じつに19年ぶりにパ・リーグを制した。

 投手陣では東尾修、松沼博久、松沼雅之、森繁和と4人の10勝投手が誕生。

打撃陣では田淵幸一、大田卓司、山崎裕之のベテランと、2年目の石毛宏典がうまく噛み合った結果だった。

【ルーキー清原和博を4番に抜擢】

 ヤクルト・西武時代に広岡達朗の参謀として支えた森祇晶は、86年に西武の監督に就任。この年はPL学園の4番として甲子園のスターだった清原和博が入団。

 清原は開幕2戦目、プロ2打席目に初安打を本塁打で飾った。その後も快打を連発し、最終的に打率.304、31本塁打、78打点をマーク。森は「育てながら勝つ」という球団の方針を見事に実現してみせた。

 野手は清原のほかにも、石毛宏典、伊東勤、辻発彦、秋山幸二といった選手が円熟味を増し、長きに渡りチームを牽引。

 投手陣は、12勝の東尾、11勝の工藤公康、16勝(最多勝)の渡辺久信の先発三本柱が安定した実力を発揮。

 87年以降もこれらのメンバーに加え、外国人のオレステス・デストラーデやトレードで平野謙を補強。さらに田辺徳雄などの新戦力も育ち、森監督が在任した9年間でじつに8度のリーグ優勝を遂げるなど、黄金時代を築いた。

【1点にこだわり2位に大差の圧勝】

 森祇晶監督時代、三塁コーチャーとして「1点をもぎとる野球」に徹した伊原春樹は2002年に西武の監督に就任。

 松井稼頭央を1番に固定し、4番はアレックス・カブレラ、さらに捕手だった和田一浩をレフトにコンバートして5番で起用。投手陣は、森慎二が最優秀中継ぎ、豊田清が最多セーブのタイトルを獲得するなど、救援陣が奮闘し「1点を防ぐ野球」を実践。

 現有戦力を適材適所に配置することで、前年3位だったチームを躍進させ、2位に16.5ゲーム差をつける圧勝でペナントを制した。

 ちなみに、2度目の監督就任となった2014年は5位と振るわず、1年で解任となった。

【現役引退から即監督で日本一】

 伊東勤は2003年に現役を引退すると、翌年から西武の指揮を執った。ユニフォームを脱いで即監督に就任したのは、伊東を含め8人いる。

1955年 国鉄(現ヤクルト)/藤田宗一/5位
1970年 西鉄(現西武)/稲尾和久/6位
1975年 巨人/長嶋茂雄 6位
1978年 南海(現ソフトバンク)/広瀬叔功/6位
1987年 ロッテ/有藤通世/5位
2004年 西武/伊東勤/1位(2位)
2016年 巨人/高橋由伸/2位2018年 ロッテ/井口資仁/5位

 2004年、伊東率いる西武はシーズン2位ながらプレーオフで日本ハム、ダイエー(現ソフトバンク)を下し、日本シリーズでも落合博満監督の中日を破り、12年ぶりの日本一を果たした。

 この年の西武は、伊東の引退をはじめ、松井稼頭央のメジャー移籍、アレックス・カブレラの死球による長期離脱など戦力的に厳しいと見られていたが、細川亨が正捕手に成長し、高卒4年目の中島裕之(=宏之/現巨人)がショートのレギュラーを獲得、ホセ・フェルナンデスがカブレラの穴を埋めた。

 また、エース・松坂大輔は10勝をマーク、4番・和田一浩が打率.320、30本塁打と投打の軸も機能。伊東監督のやりくりのうまさが光った。

【寛容力で前年Bクラスから日本一】

 かつて西武のエースとして活躍した渡辺久信だったが、現役晩年はヤクルト、台湾球界でプレー。そうした経験が指導者として役に立ったと語り、選手たちにはのびのびとプレーさせることにこだわった。

 渡辺監督就任1年目の2008年、片岡易之(=保幸)が最多安打と盗塁王、栗山巧が最多安打、中島宏之が最高出塁率、中村剛也が本塁打王に輝く活躍。投手陣も涌井秀章、帆足和幸、岸孝之の三本柱が10勝をマークするなど、指揮官の思惑どおり若手が躍動した。

 日本シリーズでも4勝3敗で巨人を下し日本一。新監督が前年Bクラスのチームをレギュラーシーズン優勝に導き、日本シリーズまで制したのは史上初の偉業だった。

【東尾修と辻発彦はリーグ連覇】

 そのほかにも、監督就任1年目こそ優勝できなかったが、東尾修は3年目の1997年からリーグ連覇を達成し、辻発彦も2年目の2018年からリーグ連覇を成し遂げた。

 さて松井監督率いる今年の西武だが、源田壮亮山川穂高という主力をケガで欠きながらも、4月27日現在、12勝9敗でパ・リーグ3位につけている。高橋光成、今井達也、平良海馬らを筆頭とした先発陣が着実に力をつけ、チーム防御率2.49はリーグトップ。かつては"山賊"の異名をとった強力打線がウリだったが、昨年あたりから投手陣を中心とした守りの野球に方向転換。

 そして今年、松井監督が掲げたスローガンは「走魂」である。投手力と打力が拮抗した場面で、均衡を破るのは走力だ。現役時代、3度の盗塁王に輝いた松井監督らしい戦いで頂点を目指す。

はたして、松井監督は吉兆を踏襲できるのか。その戦いから目が離せない。