お目当ての選手は別にいた。だが現場で取材をしていると、時として別の選手に心を奪われることがある。
今季から独立リーグのルートインBCリーグに参戦する千葉スカイセイラーズに入団した松村だが、昨年まではまったく無名の存在だった。それどころか、数年前までは「プロ野球選手なんて考えたこともありませんでした」と語るほど、プロを現実的な目標として捉えていなかった。
そんな無名かつ無欲だった選手が、今では盗塁をいとも簡単に決め、土のグラウンドで一塁到達3秒81を記録するまでになるのだから、人生は面白い。
【サラリーマンを辞め野球に専念】
松村は2002年7月14日に生まれ、静岡県静岡市で育った。高校は「(野球や資格が目的ではなく)家から近かったので」と県立科学技術高校へ進学した。
高校時代は2年夏に県大会4回戦(ベスト16)まで進出。しかし、自身は8番・二塁手として出場し、敗れた試合でも2打数無安打に終わった。秋の地区予選では0対12の大敗を喫し、さらに3年時は新型コロナウイルスの影響で春夏の大会が中止に。代替の独自大会こそ開催されたものの、2回戦で東海大静岡翔洋に1対11で敗れた。
もともと足の速さには定評があったというが、アピールする機会は限られ、大学からのオファーもなく、高校卒業後は「求人が出ていたので、特にこだわりなく決めました」と、電気機器メーカーの明電舎に就職。沼津工場で変圧器の組み立ての仕事をしていた。
だが、高校野球で完全燃焼できなかったことが、松村を再び野球へ向かわせた。「誘われたこともあったし、どうせ週末も暇だからやろうかなって思いました」と、クラブチームの静岡硬式野球倶楽部で野球を再開した。
ただ、ここまで書いてきたように、決して強い意志で道を切り開いてきたタイプではない。そんな松村に大きな転機が訪れたのは、2年前のことだった。
「あの人のせいです(笑)」
そう言って松村が指を差した先にいたのは、この日の対戦相手である福島レッドホープスの右腕・島田辰徳だった。
東海大海洋学部から静岡硬式野球倶楽部に入部した島田は、コンビニエンスストアで働きながら、「本気でNPBを目指す」と公言してはばからなかった。そんな島田の姿勢に刺激を受けた松村は、「もう一度、本気で野球をやってみようかなと思いました」と、次第に目の色を変えていった。
そして昨年、トライアウト受験を決意。チームや会社の同僚も温かく、「不合格なら来年はまたウチでやればいいよ」と背中を押してくれた。
【周東佑京の自主トレに参加】
NPBのファームに参戦するハヤテベンチャーズ静岡は受からなかったものの、ルートインBCリーグのトライアウトで千葉スカイセイラーズの青野毅監督(元ロッテ)ら関係者の目に留まり、声がかかった。
NPBにより近い環境で夢を追いかけるため、松村は自らの武器にさらに磨きをかけようと、積極的に動き始めた。
まず松村は、男子400メートルハードルの現役選手でありながら、パーソナル指導も行なっている山本武さんをSNSで見つけ、自ら連絡を取って走り方の指導を受けた。
さらに、千葉スカイセイラーズのスポンサーを務めるソフトバンク・近藤健介との縁もあり、同じくソフトバンクの周東佑京の自主トレにも参加。「刺激的でした。タイプも似ているので」と振り返るなど、充実した時間を過ごした。
年間を通して戦い抜くための体づくりや、ランニング、体幹トレーニングの重要性、さらに走塁面でも、「ベースランニングでまったく膨らまない回り方や、盗塁時の重心の使い方、体重移動を教えてもらいました」と、世界レベルの俊足を誇る"韋駄天"の技術と考え方を、松村は貪欲に吸収していった。
打撃についても、「自信を持って振りにいけています」と手応えを口にする。守備でも「ファーストミットも持ってきていますし、内外野問わずどこでもやるつもりです」と意欲的だ。
そんな姿勢に、青野監督も「練習も一生懸命ですし、とにかく貪欲。『勝負しに来ている』という気持ちが伝わってくる選手です」と目を細める。
人生は何が起こるかわからない──。そんな言葉を体現するかのようなシンデレラストーリーを歩んでいるのが松村だ。
風を切り裂くようなスピードでダイヤモンドを駆け巡り、攻守で存在感を示す。そのアピールを積み重ねながら、無名だった男は今、そのスピードを武器に、スターダムへと駆け上がろうとしている。










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