次代を担う逸材たち~アマチュア野球最前線 
第9回 埼玉武蔵ヒートベアーズ・坪井壮地

 全国各地でひっそりと熱戦が繰り広げられている日本の独立リーグ(地域リーグ)。そんな独立リーグで、人知れず打ちまくっている打者がいるのをご存知だろうか。

 ルートインBCリーグ・埼玉武蔵ヒートベアーズに所属する坪井壮地(つぼい・そうじ)。まずは、打撃成績を見てもらいたい(2026年5月17日現在)。

19試合 打率.378 8本塁打 19打点 4盗塁 得点圏打率.632 OPS1.195

 シーズンが始まってまだ1カ月半しか経っていないとはいえ、本塁打数は早くも昨季の6本(57試合出場)を上回っている。坪井の覚醒ぶりが伝わるだろう。

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【ネックとなる年齢とポジション】

 チームを指揮する清田育宏に尋ねると、坪井への賛辞が止まらなくなった。

「バッティングに関してはリーグナンバーワンと言っていいくらいです。打球スピードを見ても、ほかの選手とは違いますからね。とくにいいのは、真っすぐに強いところ。レフト方向だけでなく、バックスクリーンにもホームランが出るようになっています」

 清田は現役時代にロッテの外野手として活躍し、2015年には打率.317、15本塁打を記録してベストナインを受賞している。そんな実績の持ち主が、同じ右打者である坪井の力量を認めているのだ。「もし清田監督がNPBスカウトなら、坪井選手を推しますか?」と尋ねると、清田は即答した。

「間違いなくリストアップします。あれだけ打てる選手は二軍にもそういません。

一軍レベルでどうなるかは未知数ですが、試合を見にきてくださるスカウトの方には、坪井のことを伝えています」

 しかし、坪井には大きなネックがある。年齢とポジションである。

 2000年12月10日生まれの坪井は、今年で26歳になる。18~24歳までにドラフト指名を受ける選手がほとんどという事実を考えると、「適齢期」は過ぎている。

 さらに、坪井のメインポジションは一塁である。昨季は左翼を中心に守っていたが、今季は「複数のポジションを守れるほうがいい」という清田の方針で一塁に回った。いずれにしても守備を売りにするタイプではなく、スカウトからの評価を受けにくい属性といえるだろう。

 当然ながら、清田もそんなNPB側の事情は理解したうえで、坪井をプッシュしているのだ。

「確かに年齢は25歳ですが、チャンスはあると思います。昨年のドラフト会議を見ても、『若い選手を獲って育てる』というより、『即戦力を獲る』とシフトチェンジしている球団もあると感じました。坪井は本当によく努力していますし、実力でチャンスをつかんでもらいたいですね」

【浦和学院では背番号13で甲子園出場】

 身長180センチ、体重90キロとたくましい体躯の坪井だが、打席での構えには、スラッガー特有のいかめしさがない。坪井本人に聞くと、それがむしろこだわりなのだという。

「とにかく(打席で)真っすぐ立って、真っすぐ打ちにいきたいんです」

 体を不自然に傾けることなく、地面に対して垂直に立って構える。

それが坪井の打撃の根幹を支えている。

「今年は構えがすごくよくなりました。構えが決まれば自分の間合いで打てますし、体のリズムがよくなるんです」

 驚異的な得点圏打率について触れると、坪井は「チャンスが好きなんで」と笑った。

「チャンスになればなるほど、『ヒーローになれる!』と楽しくなります。なかにはビビッてしまう選手もいると思うんですけど、僕は逆で、チャンスこそがっついていきたいと考えています」

 今季の打撃には、確かな手応えを得ている。坪井は「年齢的にも、今年は結果を出さないといけないですから」と今秋のドラフト指名を狙っている。

 なぜ、これほどの打者が埋もれてきたのか。その球歴をたどってみよう。

 千葉県で生まれ育った坪井は、埼玉の名門・浦和学院に進学している。同期には蛭間拓哉、渡邉勇太朗(ともに西武)がいる粒揃いの学年だった。

 とくに1年時から4番打者を任される蛭間は、「別格でした」と坪井は振り返る。一方の坪井は当時から一塁手で、試合には出たり、出なかったりの脇役だった。

 高校3年夏の南埼玉大会では背番号13をつけ、7打数4安打と活躍。すると、夏の甲子園では初めて1ケタ番号となる背番号3を託された。初戦の仙台育英戦では渡邉の代打として甲子園の打席に立ち、安打を放っている。チームは準々決勝で根尾昂(中日)、藤原恭大(ロッテ)らを擁する大阪桐蔭に2対11で敗退した。

 身近な逸材たちに実力差を見せつけられても、坪井は「負けたくない」と魂の灯を燃やし続けていた。

「高校時代に蛭間を見て『モノが違うな』と思いましたけど、いつか追い越してやると思って野球を続けていました。今は無理かもしれないけど、野球を続けている限りは追い越せるチャンスはあるはずですから」

【社会人時代はフルタイム勤務の過酷な環境】

 高校卒業後は東京新大学リーグの流通経済大に進学。大学2年からレギュラーとしてリーグ戦に出場したが、タイトルとは無縁だった。坪井は「結果も出していないですし、無名の選手でした」と語る。

 大学卒業後は社会人のFedEx(フェデックス)で野球を続けた。FedExは企業登録とはいえ、お世辞にも環境はいいとは言えなかった。

「平日は選手それぞれの勤務地でフルタイムで働き、野球部の活動があるのは土日だけ。

あとは個人が時間を見つけて練習する感じでした。過酷な環境でしたね」

 FedExでは2年間プレーしたが、都市対抗など全国大会への出場は果たせなかった。「スカウトの目に届くところでやりたい」と考えた坪井は、2025年からBCリーグ・埼玉武蔵に入団する。

 野球がやりたくてもできない。そんな時間を経験しただけに、埼玉武蔵で野球に打ち込めるありがたみを痛感したという。

「毎日野球ができるだけで、すごくうれしいんです。日々野球ができることがありがたいですし、楽しくて仕方がないですね」

 だが、時計の針は止まってはくれない。現在25歳。「もう2~3年若ければ......」と思うことはないのか。そう尋ねると、坪井は苦笑交じりに答えた。

「思うこともありますけど、過去には戻れないし、今を生きるしかないです。未来を変えられるのは、自分しかいないですから。

だから結果を出すしかないんです。凡退しても、一塁まで全力で走って、自分にできることをやるしかない。ドラフト当日まで、何が起きるかわからないので、やり切りたいんです」

 25歳という年齢はドラフト候補としては年嵩かもしれないが、プロ野球選手としてはまだ若手の部類ではないか。そう尋ねると、坪井は深くうなずいてこう答えた。

「僕もまだ自分に伸びしろがあると感じています。今シーズンは結果が出ていますけど、まだまだこんなもんじゃないので。改善できるところはありますし、現状で満足したら終わりですから。明日は明日で、もっともっと戦える自分になっていきたいですね」

 2027年からセ・リーグでも指名打者(DH)制度が導入される。打撃優位型の坪井にとっては、強い追い風になるかもしれない。

 今日より明日、明日より明後日。そうして日々を積み重ねた先に、ドラフト会議が待っている。25歳のドラフト候補・坪井壮地は今まさに、旬を迎えようとしている。

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