西部謙司が考察 サッカースターのセオリー
最終回 リオネル・メッシ
日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司氏が考察します。
ワールドカップで連覇を狙うアルゼンチン代表の中心は、大会中に39歳になるリオネル・メッシ。前回、このエースが極端に走らない、守らないスタイルで優勝を手にしたのが今回も通用するのか、世界中の注目を集めています。
【アルゼンチンのメッシ・システム】
北中米ワールドカップに向けてのアルゼンチン代表メンバーが発表されている。といっても、55人の予備メンバーであり正式には6月2日のFIFAによる26人の確定発表を待つわけだが、前回の優勝メンバーはほぼそのまま残っていて彼らが主力になるのも確実だ。
リオネル・メッシも当然入っている。南米予選では欠場した試合もあったが8ゴールで得点王になっていて、今回もメッシ中心の編成になりそうだ。前回大会優勝のアルゼンチンは、メッシ+9人のフィールドプレーヤーという1+9の構造だった。
メッシにはほとんど守備のタスクを負わせず、そのぶんを残りの選手が負担する。攻守をメッシ抜きでも成立させられる体制を作り、メッシは攻撃の仕上げのところでの決定的仕事に専念させる。簡単に言えばそういうスタイルだった。
アルゼンチンには伝統的にこうした「10番」を王様化したプレースタイルがあり、1986年メキシコW杯のディエゴ・マラドーナはこの典型だった。マラドーナをトップに置き、ホルヘ・ブルチャガとホルヘ・バルダーノがサポートした。ブルチャガとバルダーノはマラドーナより下がって守備を行ない、攻撃ではマラドーナからのパスを受けるべく追い越していく。
メッシのポジションは右ウイングが基本だが、これはあってないようなもの。右のハーフスペースを中心に自由に動く。守備ではMFロドリゴ・デ・パウルが本来メッシのいるべき右サイドをカバー。MFエンソ・フェルナンデス、MFアレクシス・マック・アリスターが右方向へスライドし、逆サイドの左は左ウイングのフリアン・アルバレスがMFのラインに入って4-4-2のブロックを作る。必要があれば次に下りるのはトップのラウタロ・マルティネスで、最後に守るのがメッシだ。
この方式はバルセロナでの「MSN」時代と同じ。ルイス・スアレスがラウタロ、ネイマールがアルバレスと考えればMSNのコピーと言っていい。
【39歳のスーパースター】
かつてはサッカー選手のピークは27~30歳くらいだった。ワールドカップは4年に1回。ちょうどそのタイミングにピークを迎えられるかどうか。そうしたタイミング問題があったわけだが、現在は選手寿命が延びている。
メッシが初めてトロフィーを掲げた前回は35歳だった。
W杯史上、39歳で活躍した例はほとんどない。1990年イタリアW杯でスーパーサブとして重要な得点をあげたロジェ・ミラ(カメルーン)は当時38歳。4年後も出場して得点もしているが、大活躍したのは38歳の時だ。
ディノ・ゾフ(イタリア)は、40歳でイタリアのキャプテンとして1982年スペインW杯優勝に貢献。ピーター・シルトン(イングランド)は40歳(1990年イタリアW杯)、パット・ジェニングス(北アイルランド)も41歳(1986年メキシコW杯)で中心選手だったが、彼らはGKだ。
しかし、2022年カタールW杯ではペペ(ポルトガル)、ダニエウ・アウベス(ブラジル)がフィールドプレーヤーとして活躍している。当時39歳。
メッシはおそらく先発で出る。かつてのミラのようなスーパーサブとしての起用も考えられるが、メッシはキックオフから戦況を分析して最適解をはじき出すプレースタイルでこれまでやってきている。
バルセロナでの全盛期でも90分間の走行距離がGK以下という試合があったほど走らない。
もともと極端に走らない選手であり、チームとしてもそれを納得したうえでの起用なのでメッシ本人に問題はない。ただし、彼を支える9人も4つ歳を重ねている。「1」を支える側が4年前と同じ強度を維持できるかどうかが問われる。
25歳のエンソ、27歳のマック・アリスターはともかく、5月24日で32歳になるデ・パウルがどうか。メッシの守備を直接的に肩代わりし、メッシにボールを供給するデ・パウルは精神的にもメッシを支えている存在で、いわばメッシ専用機。デ・パウルのコンディションは1+9システムのポイントになりそうだ。
【代表チームのスタンダード】
ルカ・モドリッチ(クロアチア)は40歳、クリスティアーノ・ロナウド(ポルトガル)は41歳でのW杯となる。選手寿命の延びとともに、こうしたケースは今後も増えていくと考えられる。
かつての40歳と比べればはるかに動けるとはいえ、運動量の減少は否めない。そのかわりほかの選手にはない技術や経験を持っている。
10人のプレッシングが常態化してきた現代サッカーにおいて、1+9は時流に逆行しているようだが、代表チームに関してはこちらがスタンダードになっていくかもしれない。
その点で、このスタイルの先駆で完成形とも言えるアルゼンチンが北中米大会でどんなプレーを見せるかは、W杯におけるチームのあり方を占う試金石になる。
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