中国の造船業といえば、巨大コンテナ船や大型タンカー、豪華客船など、世界最大級の船を次々と建造する姿を思い浮かべる人も多いだろう。しかし、江蘇省鎮江市にある江蘇省鎮江船廠(集団)は、あえて別の道を選んでいる。

「誰よりも大きな船を造る」のではなく、「他社が簡単には造れない特殊な船を造る」ことで、国際市場で存在感を高めている。

1日午前、同社の埠頭(ふとう)では、全長約40メートル、重量575トンの「多機能全旋回作業船」がゆっくりと長江へつり下ろされた。寧波港向けに建造された船で、一見すると大型コンテナ船やクルーズ船ほどの迫力はない。だが、港湾にとっては欠かせない存在だ。

大型船は船体が巨大で慣性も強いため、港に入ってから自力で細かく方向を変えたり、安全に接岸したりするのは容易ではない。そこで活躍するのが、こうした作業船だ。全旋回式のプロペラを備えており、360度自由に方向を変えることができる。大型船の船首や船尾、側面に回り込み、押したり引いたりしながら、巨大船の進行方向を調整し、減速させ、安全な接岸をサポートする。

超大型船が港に入る際には、通常4~6隻が連携して作業する。強風が吹いていたり、水路が狭かったりする場合には、6~8隻が投入されることもあるという。しかも、仕事は大型船の「押し役」だけではない。

火災が発生すれば船上の設備を使って放水・消火し、海上で油が流出した場合にはオイルフェンスを設置して油を回収する。

さらに、航路標識の修理、水中設備のつり上げ、海難救助、故障船のえい航など、港湾や海上で幅広い役割を担っている。

「大きさ」ではなく「技術力」で勝負

こうした特殊船の大きな特徴は、顧客の要望に合わせて1隻ごとに設計できることだ。港によって水深や航路、気候、風や波の条件は異なる。そのため、動力システムや船体構造、設備の配置まで、用途に応じて細かく設計し直す必要がある。鎮江船廠が力を入れているのも、まさにこの分野だ。

同社関係者は、「標準化された大型船は生産能力が勝負になるが、特殊船では職人の技術とイノベーションが重要になる」と説明する。特殊船は、単純に同じ船を大量生産することが難しい。1隻ごとに顧客の要求が異なるため、新たな設計を行い、試験を重ね、実際の運用を想定しながら何度も改良していかなければならない。その分、造船所には高い設計力と技術力が求められる。

「最大」ではなく「特殊」で勝つ、中国の造船所が日韓との競争で見つけた突破口

鎮江船廠は長年の取り組みを通じ、多機能全旋回作業船、多用途海洋工事船、公務船などの製品群を構築してきた。独自に設計した船型は70種類を超え、100件以上の特許技術も保有しているという。現在では、中国沿海部の港湾だけでなく、アジア、アフリカ、欧州、米州など20以上の国・地域に船を輸出している。

「ニッチ市場」が海外市場への突破口に

特殊船に特化する戦略は、実際の受注にもつながっている。

2026年上半期には、シンガポール向けに建造した全長85メートルの海洋メンテナンス作業船を引き渡したほか、アラブ首長国連邦(UAE)向けで、設計にも参加した1万トン級の硫黄運搬船の建造も正式にスタートした。

同社によると、現在の受注は29年まで埋まっており、輸出案件が全体のおよそ7割を占める。

中国の造船業界では、韓国や日本などとの競争も含め、「どれだけ大きな船を、どれだけ効率よく造れるか」が注目されがちだ。しかし鎮江船廠の事例が示しているのは、別の競争軸である。

「最大」ではなく「特殊」で勝つ、中国の造船所が日韓との競争で見つけた突破口

巨大船の建造競争に正面から挑むのではなく、特殊な需要に目を向け、顧客ごとに異なる課題を解決する。市場規模だけを追うのではなく、「他社が簡単には参入できない分野」を掘り下げることで、海外市場への突破口を開く。造船の世界では、必ずしも「大きいこと」が強さを意味するわけではない。時には、誰もが進みたがる大海原ではなく、狭く複雑な航路にこそ、ビジネスチャンスが潜んでいるのかもしれない。(翻訳・編集/RR)

編集部おすすめ