12月22日(21日深夜)よりAmazonプライム・ビデオにて独占配信されている『チェイス』。(初回のみ第1話と第2話を同時配信)
Amazonプライム「チェイス」が地上波のタブーに踏み込む衝撃。本田翼が挑むのは「警察」と「国」だ
Amazonプライム・ビデオより

このドラマ、地上波で放送するには難しいであろうテーマにがっつり取り組んでいるのだ。


「BS東都」のAD・相沢麻衣(本田翼)は、企画会議で27年前に起こった未解決の「連続幼女誘拐殺人事件」報道特番を提案。しかし、この案は無下に却下されてしまう。モチベーションの低いスタッフらに「ただでさえ誰も観ないBSで本気で言ってるのか!?」と怒鳴られてしまうのだ。しかし、彼女は尻込みしながら「BSだからこそ……」と小声で主張。
これ、そのまま、同作がAmazonプライムで制作される意義にも当てはまっている。


「BS東都」のAD・相沢麻衣(本田翼)は、企画会議で27年前に起こった未解決の「連続幼女誘拐殺人事件」報道特番を提案。しかし、この案は無下に却下されてしまう。モチベーションの低いスタッフらに「ただでさえ誰も観ないBSで本気で言ってるのか!?」と怒鳴られてしまうのだ。しかし、彼女は尻込みしながら「BSだからこそ……」と小声で主張。
これ、そのまま、同作がAmazonプライムで制作される意義にも当てはまっている。

却下された企画案に唯一興味を持ってくれた上司・長谷川正(岸谷五朗)の後押しで、事件の調査を開始する相沢。こうして、彼女は危険な領域へ踏み込んでいく……。
サイトの説明文には、こう書いてある。
「その真実は警察、科警研、司法、あらゆる国家権力が絡み合う“絶対に触れてはいけない”タブーだった…」
たしかに、スポンサーありきの地上波では難しいテーマだ。「まぐまぐニュース!」のインタビューにて、本田翼は「テレビで出来ることをわざわざAmazonプライム・ビデオでもやる必要ってないですし、新鮮な印象は与えられると思います」と、自信ありげに語っている。

BSに左遷され、絶望する本田翼


それにしても相沢、職場に対するコンプレックスがすごい。一度は地上波「東都テレビ」本社へ入社するも、研修中に不適合とみなされBS局へ左遷された経緯が彼女にはある。出社時に見せる沈んだ表情が尋常じゃないし、もちろんボヤキも入る。
「私だってね、ちゃんとした仕事がしたいんですよ。せっかく東都テレビに入ったのにBSに配属させられて、BSなのにコピー取りばっかり!」
いや、そこまでBSを卑下しないでも……。

でも、BSだからこそゲリラ戦が可能になる。相沢の企画に理解を示した長谷川は、旧知のフリージャーナリスト・三上一樹(大谷亮平)に協力を仰いだ。
「はぁ~? テレビですか!? しかも、BSでしょ?」(三上)
みんな、そんなBSを目の敵にしないでも……。

「報道っていつも真実ばかりが報じられるわけじゃない」(本田翼)


なぜ、相沢が「連続幼女誘拐殺人事件」に興味を抱いたか? この事件には、不可解な点があるのだ。

神奈川県の同じ地域で数年おきに3度起こった幼女誘拐殺人事件。警察は捜査の末、山崎登(平田満)という元保育園用務員の男を逮捕している。
山崎はこの3件について犯行を自供するも、有罪になったのは最後の1件のみであった。前の2件は不起訴で、そちらは犯人が捕まらないまま時効を迎えている。
「前の2件は誰がやったんだ? って話だ」(長谷川)

しかも、三上が独自で調査した結果、似たような事件は3件では収まらず、5件存在することも判明。山崎の逮捕後、同じ地域で似た内容の事件が2件起こっていたのだ。調べるほどに、事件は怪しさを増していく。
「このわずか7km圏内で、こんな事件を起こす変質者が2人も3人もおると思うか?」(三上)
要するに、山崎以外に真犯人が存在するのでは? という疑問が浮かび上がるのだ。しかも、山崎は裁判で無罪を訴え続けていた。最高裁で彼には無期懲役という判決が下され、いまだ刑務所の中。だが、もしかしたら山崎は冤罪かもしれない……。

この疑念を元に、相沢と三上の2人は真実を追及していく。
長谷川 テレビで流せるのか、こんなネタ……?
三上 ヤバすぎて放送できないか、BS東都の大スクープになるか。

ちなみに、長谷川は「業界のタブーに触れてBS局に左遷された」という過去を持っている。

長谷川 ジャーナリストの仕事は、報道することだろ? 冤罪を晴らすことじゃねーぞ。
三上 報道してんですか、テレビは? 新聞も。警察発表をそのまま垂れ流すことを、俺は報道とは認めませんよ。「エクゼクティブプロデューサー」でしたっけ、長谷川さんの今の肩書? でも、地上波で報道やってた頃はもっとトンがってたじゃないですか?
長谷川 そんなことない。
三上 系列新聞のやらせ記事スクープするなんて、普通やりませんよ?
長谷川 その話はいい。

「まぐまぐニュース!」インタビューにて、本田翼はこう語っている。
「メディアはもっと色んな発信の仕方があっても良いのかなと思いました。報道っていつも真実ばかりが報じられるわけじゃないですよね。もちろん真実も報道されるんだけど、中には真実ではないものも沢山あって」

不遜な役柄が相変わらず上手いでんでん


相沢と三上は、当時事件を担当し、山崎逮捕を決行した元刑事・赤坂吾郎(でんでん)に接触。唐突な直撃に当初は拒否反応を示していた赤坂だが、三上から袖の下を受け取ることで態度が軟化、インタビューを受けることを承諾した。そして、山崎逮捕の決め手になったDNA鑑定について振り返る。
「現場にあった子どもの下着に残っていた犯人の体液を調べてくれと、科警研に何度も何度も頼んだんです。でも、向こうが渋りましてね。
水に洗われて、検査できる状態じゃないと」(赤坂)
いや、おかしい。逮捕の決め手はDNA鑑定のはずなのに「検査できる状態じゃない」って……。
「そこは、科警研もがんばってくれたんでしょう」(赤坂)
言ってることが、いちいち苦しい赤坂。相沢と三上は、警察判断への疑念をドンドン深めていく。

「令状を取って踏み込んでみりゃ、山崎の家はロリコンビデオの山だよ! その場で山崎を確保、取り調べであいつは犯行を認めたんだ」(赤坂)
相変わらず、相手に無理解で下品な言葉を吐く男の役がでんでんは上手い。

でんでんの証言がいちいち信用できない


相沢と三上は、「山崎逮捕」という当時の警察の判断を崩す方向で調査を進めることにした。そして早速、警察の調査のほころびが見え始めてしまう。

例えば、当時の山崎の所有物を調べ直すと、たしかに数本のアダルトビデオが発見できたが、そこにあるのは巨乳ものばかり。ロリコンビデオなど、ただの1本もなかった。2人は、赤坂を再直撃する。
相沢 本当に山崎さんの部屋からそんなビデオが押収されたんですか!?
赤坂 いや、だからあったんじゃないか、そういうビデオが。
三上 赤坂さんご自身は見てない?
赤坂 ……人それぞれな、その、なんかこう、分野持ちものがあるんだよ! 総動員して捜査に当たってたんだから! ちょっとやめてくれよ、帰ってくれよ。


こうして、“真実”を報道するために動き出したBS東都。相手は神奈川県警だけでなく、警察庁、検察、裁判所、下手すると国に楯突くことになるかもしれない。

昨今、こと「報道」に関しては地上波への不信感は募る一方である。いや、「バラエティ」や「ドラマ」に関しても同様か。力ある者(権力、スポンサー、視聴者)への忖度で自らの首を絞め、結果的にその態度は“不信感”という印象に着地している。
この題材をAmazonがオリジナルドラマとして制作することに意義があるし、ドラマの舞台がBSになったことも必然。

あと、元刑事を前に妙にびびったり、やる気を見せたと思ったら折れそうになったり(それでも何だかんだでやり切る)、合コン出席を嫌がったり、相沢の感情の揺れ動きは本田翼の素とかなりの部分でリンクしている印象がある。「相沢麻衣」は本田翼史上、最も本人のキャラクターに近い役どころでしょう。
(寺西ジャジューカ)
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