『高い城・文学エッセイ』(国書刊行会)著者:スタニスワフ・レムAmazon |honto |その他の書店

◆自伝的要素織り込み親しみ
スタニスワフ・レムのコレクションが刊行中だ。前回配本された『ソラリス』の新訳も期待に違わぬものだったが、今回の小説は、レムの異質な側面を描いていて、面白い。
まず、これは自伝的要素が強い。

『高い城』という名前のこの小説は、全体の三分の二をレムの記憶の再現に費やしている。生まれ育った街の様子、読んだ本、医師だった父からの影響など。レムはたぶんほとんど虚飾なく、淡々とそれを並べ立てていく。と、突然、自伝だったはずの文章は小説の領域に突入する。

レム少年はギムナジウムで「身分証明書」の作成に勤しむ。あらゆる種類の身分と権限を与える証明書。授業中は、それを作ることに没頭するのだ。王様や文書起草官の身分証明書を作って、記名しなかった。所有者をあえて空欄にすることで、奇妙な職業の奇妙な場所へと架空の旅をすることができたのだ。

レムはこれまで一部の熱狂的なファンにのみ読まれてきた。『完全な真空』のような、架空の本の書評集など、衒学(げんがく)趣味の書物にみえたかもしれない。
だが、この本の中のレムには、最大級の親しみを覚える。沼野充義ほか訳。

【書き手】
陣野 俊史
1961年長崎生まれ。文芸評論家、フランス文学者。ロック、ラップなどの音楽・文化論、現代日本文学をめぐる批評活動を行う。最新作に『戦争へ、文学へ 「その後」の戦争小説論』(集英社)。その他の著書に『フランス暴動 - 移民法とラップ・フランセ』『じゃがたら』(共に河出書房新社)、『フットボール・エクスプロージョン』(白水社)、『フットボール都市論』(青土社)など。

【初出メディア】
日本経済新聞 2005年1月27日

【書誌情報】
高い城・文学エッセイ著者:スタニスワフ・レム
翻訳:沼野 充義,巽 孝之,芝田 文乃
出版社:国書刊行会
装丁:単行本(443ページ)
発売日:2004-12-01
ISBN-10:4336045062
ISBN-13:978-4336045065
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