◆土地描き出す才能に瞠目
東京をスケッチした小説集。だが、凡百の写生小説とはまったく違う。
それから本書では東京の目黒から五反田、品川を徘徊(はいかい)する人と猫が描かれているけれど、彼らがどんな人物で、どんな暮らしをしているかは、ほとんど描かれない。たとえばミュージシャンと主婦とOLとジムに勤める若い男は出会って、事件が起こり、唐突に終わる。周到に描かれるのは、JRの駅周辺の地理。でも、登場人物の会話や挙措から、彼らがとても魅力的であることがわかる。
じつは私は小説に描かれた辺りに住んでいる。目黒の五百羅漢寺から不動尊のあたりを歩き回る話を読みながら、地形が正確に描写されているのに、私の感覚と大きく違うことに驚く。古川の、土地を描き出す才能に瞠目(どうもく)した。まったく、大した才能だ!
【書き手】
陣野 俊史
1961年長崎生まれ。文芸評論家、フランス文学者。
【初出メディア】
日本経済新聞 2005年10月13日
【書誌情報】
LOVE 著者:古川 日出男
出版社:新潮社
装丁:文庫(387ページ)
発売日:2010-03-29
ISBN-10:4101305315
ISBN-13:978-4101305318