『トロンプルイユの星』(集英社)著者:米田 夕歌里Amazon |honto |その他の書店

◆登場人物と作者の距離感 絶妙
第34回すばる文学賞受賞作。新人作家の登場はきらびやかに喧伝(けんでん)されるものだが、米田夕歌里さんの作風はけっして派手ではない。
だが、このデビュー作は、きっちり構成されている。

イベント事務所に勤める主人公、藤田サトミ。大きな成功はないが充実した仕事の感触を覚える毎日。ある日、同僚の久坂から、交差点を観察しに行こうと誘われる。

それ以来、サトミの身辺で不思議な出来事が起こる。いつも会社の机の引き出しに入れていたはずのハッカ飴(あめ)がなくなる。進行中のイベントをめぐって自分と周りの人の間に記憶の食い違いが生まれる。モノや人が姿を消すようになる……。

新人作家を「新たな才能」と形容して送り出すのは簡単だ。だが押した背中が自信なさげだったり、期待に応えようとして力が入りすぎていたりする。米田さんがこの作品の後、どんな作家になるのか、まったくわからないが、ひとつだけ言えることがある。それは、登場人物と作者の間にある距離感が絶妙だということだ。
この距離が破綻なく守られている限り、米田さんは端正な小説を書き続けていくだろうと思う。

【書き手】
陣野 俊史
1961年長崎生まれ。文芸評論家、フランス文学者。ロック、ラップなどの音楽・文化論、現代日本文学をめぐる批評活動を行う。最新作に『戦争へ、文学へ 「その後」の戦争小説論』(集英社)。その他の著書に『フランス暴動 - 移民法とラップ・フランセ』『じゃがたら』(共に河出書房新社)、『フットボール・エクスプロージョン』(白水社)、『フットボール都市論』(青土社)など。

【初出メディア】
日本経済新聞 2011年3月30日

【書誌情報】
トロンプルイユの星著者:米田 夕歌里
出版社:集英社
装丁:単行本(144ページ)
発売日:2011-02-25
ISBN-10:4087713911
ISBN-13:978-4087713916
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