試合後の会見に姿を見せた中谷。その顔つきは複雑を極めていた(C)Takamoto TOKUHARA/CoCoKARAnext

 やはりプロキャリアで初めて喫した“敗戦”のショックは大きかったのか。

井上尚弥(大橋)との世紀の一戦を戦い終えて会見場に姿を見せた中谷潤人(M.T)の表情は、どこか虚ろだった。

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 もちろん、蓄積していたダメージの影響は多分にある。11回に被弾した渾身のフックによって中谷は左の眼底を損傷。主催者曰く「眼窩底骨折の疑いがある」といい、病院でCTスキャンを受けなければならいほどの深手を負っていた。

 しかし、それだけではないように思えるほど中谷の表情は暗く映った。

 5万5000人の観客に加え、PPVチケットを購入した世界中のボクシングマニアたちが固唾をのんで見守った東京ドームでの一大決戦。そこで研究しつくした井上を崩しきれなかった悔しさが増大していたのかもしれない。

 リング上での戦い方に狂いはなかったように見えた。戦前から「ジャンケンで言えば井上選手はグー、チョキ、パーすべて出せる選手。僕もすべて出せるように準備しないといけない」と万全を期していた28歳は、リーチと上背で上回る差を利し、絶妙な間合いをキープ。距離感を図りながら、井上がステップインで飛び込んできた拍子にカウンターを繰り出す策も講じた。

 自らが「苦手」と語る体躯で優る相手との距離を詰めるのに、井上は時間を要していた。

ただ、中谷もそこから不用意に突っ込もうとはしなかった。実際、1から4ラウンドまでスコアカード上は井上が取っている。

 そこにはボクシングIQにも優れる絶対王者に対するリスペクトから来る強い警戒があった。

「井上選手は学ぶ力が凄くあるので。そういった学ばせないっていうところああいう闘いになった。ただ、井上選手のタイミングだったり、駆け引きだったりを楽しみながらやれていたと思います」

 数多の猛者たちをのみ込んできた“モンスター”の吸収力を恐れ、自分の出方や戦術意図を深く探らせないようにした中谷。しかし、他でもない井上が「脳のスタミナがすごく削られた」と表現した試合展開の中で先述のダメージを負った影響は計り知れず。おそらく視界不良に陥ったラスト2ラウンドは劣勢となる場面が散見した。

 もっとも、中谷が完全に劣っていたようには見えない。井上が「気持ちも強い選手でしたし、高度な技術も備えていた」と認め、大橋秀行会長が「恐い」と評した“ビッグバン”は、モンスターに確かな爪痕は残したはずである。

 人生初の敗北という経験をどう生かすのか。シビアだが、次戦は中谷にとって真価が問われるものとなりそうだ。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

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