1980年代風のプロマイド撮影
マルベル堂の「プロマイド」をご存知でしょうか? プロマイドとは、スターを販売目的で撮影した写真のこと。昭和の時代、ファンは好きなアイドルの写真を買い集めていたものでした。
その代表ともいえるのが、東京・浅草のマルベル堂のプロマイドです。
http://www.marubell.co.jp/promtop.html
※マルベル堂さんで扱う写真は、頭文字がBの「ブロマイド」ではなく、Pの「プロマイド」と呼ばれています。
浅草の新仲見世通りにあるマルベル堂
マルベル堂の店内。スターのプロマイドがたくさん!
大正10年創業のマルベル堂は、スターのプロマイドを数多く撮影し販売しているお店。普通の写真館と同様に記念撮影もできるのですが、3年前より個人のプロマイド撮影「マルベル80‘s」も行っています。もちろん往年のスター風に仕上がるとのこと! どんな写真ができるか体験してきました。
潜入! これがプロマイドの撮影現場だ!
マルベル堂店長の武田さん
撮影スタジオは、浅草・新仲見世通りの販売店から徒歩数分の立地にあります。カメラマンは店長の武田さん。実はこの「マルベル80‘s」の考案者でもあります。「最初の頃はいろいろ大変だったんですよ」と屈託のない笑顔で、苦労話も楽しく語ってくれました。
まずベースメイク道具があるメイクルームに案内されました。ここでメイクやヘアセットを自分で行います(別途オプションでヘアメイクをお願いすることも可能)。
メイクルーム(画像提供:マルベル堂)
さらに、スタジオにはたくさんの衣装が! 衣装は性別、年齢を問わずさまざまなものが用意され、衣装に合わせる小道具もあります。
さまざまな衣装や小道具(画像提供:マルベル堂)
これだけで撮影が始まるという雰囲気が高まり、ちょっと緊張してきます。
しかし、武田さんはニコニコ。
武田さん「出身どちらなんですか」
武田さん「好きな芸能人っています? あ、高岡早紀でしょ?」(何で決め打ちするの?……好きだけど)
ずっと会話をリードしてくれます。武田さんに伺ったところ、パパッと写真を撮って終わりではなく、このプロマイド撮影という空間・時間を楽しく過ごして欲しい、そしてリラックスして欲しいという思いがあり、急かしたりしないとのこと。学生時代の卒業アルバム撮影と全然違って、不安が消えてきましたよ~。
まずは友人の撮影から。ノープランだったので、武田さんと話しながら決めていくことに。
光GENJI風バンダナもあります
武田さん「こういうポップな感じがいいんじゃないかな?」
友人「年だから恥ずかしい……」
武田さん「何言ってるの! バンダナも巻こうよ」
会話しながらイメージが組み立てられていきます。ちなみにお客さんで多いのは、プロマイド世代の40代~50代よりも、実は20代、次いで30代。インスタグラムなどで写り慣れているのか、女性のほうが多いそうです。
そして撮影本番。この間一緒に来た人は見学自由。さらには自分たちでこの様子を撮影してもOK! できあがったプロマイドと比較すると、実はこうやって撮っていたのか、という再発見ができます。
ポーズについてもアドバイス
ポーズも細かく指示してもらえますが、プロマイドの場合は特有のポーズがあるとか。
「プロマイドって、一見誰にでも撮れそうですが『ファンのためのもの』であるのが第一」と武田さん。
「大好きなスターと目が合えば、ファンはときめきますよね。だから顔は必ず正面を向いて、ファンを見つめているんです。ファンは爪の先まで見たがります。だから指を使うんです。プロマイドはスターとファンを身近に結ぶものなんです」
友人1号、照れながらもアイドル姿に慣れ、その後Gジャンに着替え。武田さんから「ラジカセ持ってきて!」の指示が飛び、スタッフさんがすぐに真っ赤なラジカセを用意。
スタッフさんがすぐさま道具を用意
定番小道具が用意されているのも、プロマイド撮影ならではの魅力。ローラースケート、クリームソーダ、背景に色紙を貼るといった演出で、一層のポップ感が醸し出されます。昭和を思い出すラジカセは、ここで初めて実物を見るという若い子も多いのだとか。なかでもスゴいのが、椅子。
一見普通の椅子ですが、古くは吉永小百合や山口百恵、キャンディーズなど、歴代のアイドルやスターたちが実際に撮影で使用した椅子なんです!
伝説の椅子と一緒に、アロハ姿で撮影
もちろん今回も使用。アロハ姿(フックン風)衣装を身に着けた友人2号撮影の際には、背景も変えて武田さんの指示で椅子を後ろから抱くポーズに。ちなみに撮影は連写せず、そのつどシャッターを切る一発勝負。撮影のたびにその内容を確認することも可能です。
写りを確認。小道具は赤電話(ダイヤル式!)
「難しいことではなく、マルベル堂が長年続けてきた伝統の撮り方を、今の人たちにも合うようにやっているだけ。当たり前のことしかしていません。ただ、プロマイド撮影には全身全霊で挑んでいます」と言う武田さん。逆に、プライベートではカメラは持ってないそうです。うーん、すごいプロ意識!
往年の大映ドラマや「ビー・バップ・ハイスクール」を思い出す学ラン姿
ドキドキ、これが被写体モデルの気持ちなのね……。
そして、いよいよ筆者の番! 事前に「クレイジーキャッツ風が好き」とお伝えしたところ、そのテイストで行きましょうということに。
武田さんの話では、先の友人のように話しながら格好を決めることが多いそうですが、予めプランを決めて、自ら衣装を持ち込む人もいらっしゃるとのこと。
「大人が悪ふざけのできる空間であって欲しい」との思いから、ほとんどの要望には対応するそうです。
スーツ姿だと難しいかもと僕は心配していたのですが、これまで数多のプロマイドに接してきた武田さんの頭の中には、引き出しは多数。
「頭をポリポリかいてみましょうか」
「そうそう! これでいこう! どうだ!!」
どんどんノセられながらポージングしていき、最終的にはものすごくそれっぽい白黒のプロマイドが完成しました!
完成版プロマイド(左)と元の撮影風景(右)
なお、カラーがいいか、白黒がいいかは、カットのたびに武田さんが決めています。最初から全部カラーで、後から編集ソフトで白黒加工する人もいるそうですが、武田さんは撮影時にプロマイドのイメージを描いているといいます。
例えば白黒で撮ろうと決めたら、照明もそれに合わせたライティングになるそうです。実際、今回もあえて一方向からしかライトを当てず、陰影をつけることで、味が生まれた白黒プロマイドもできました。
友人によるスナップ(左)と武田さんのプロマイド(右)
いざ被写体になると、どこを見ていいか緊張するなあと悩んでいると「ファンのために、と思ってレンズを見てください。自然と表情はやさしくなりますよ」と武田さんからアドバイスが。
そういえば最初に「どうして、スターでもない僕たちのプロマイドを撮影していただけるんですか?」と尋ねた際、「マルベル堂に来たお客様は、全てスターだと思っています」と答えてくださったのを思い出しました。
そして「せっかくだから、ビートたけしっぽいのも撮りましょう」ということになり、衣装チェンジ。渡されたのはド派手なセーター。ああ、なんかすごくわかる!
そして実際に着てみると、意外とこういう派手なセーターは普段売られてないことにも気づきます。
「ピースしましょう」「膝曲げたほうが雰囲気でますよ」と、気分は漫才ブーム全盛期!
▼友人によるスナップ(左)と武田さんのプロマイド(右)
たとえ一つの同じ衣装でも、武田さんの中でのイメージは無限大。ド派手セーターのまま、指示通りにサングラスをつけ机の上にひじをつく。すると雰囲気は一転、今度はチンピラ感が増してきました。
サングラスを渡された時は、日活の俳優を意識したんだけどなあ……。ただ、友人からは「昔のバービーボーイズのジャケットにありそう」という、同年代を生きた者同士とてもわかる感想を頂きました(笑)。
仕上げもきっちり、プロマイドの完成!
撮影したプロマイドはスタジオの一画ですぐにプリントが行われます。そして仕上げは、店舗で売られるスターのプロマイド同様、カラー、白黒とそれぞれ専用の「マルベル堂」のロゴの入った透明な袋に入れられます。
できたてのプロマイドを、1枚1枚丁寧に袋へ封入
こうして完成! プロマイドだけでなく、撮影したデータもCDでそのまま頂くことができます。商用利用や二次利用はできませんが、個人でSNSのアイコンなどへの使用は可能ですので、これは嬉しいサービス!
今回の撮影プラン「マルベル80‘s」は、通常1人12,000円(税別)。ただし、人数が増えるほど割引があります。筆者は3人で参加したので23,000円(税別)となり、大変お得。そして、以下の内容が含まれています。
・各人にプロマイド5枚
・CDデータ
・撮影時の衣装レンタル(2着まで無料)
完成したプロマイドの一部
今回のプロマイド体験。自分がスター気分で撮影されるのもよいのですが、友人が撮影されている様子を(時にはチャチャを入れて)眺めるだけでも面白い。さらに、定番の小道具からレアなお宝グッズ、プロマイドならではの手の置き方、全身のポーズなど、当時を知っている人には懐かしく、知らない人には逆に新鮮に感じるであろう楽しみもありました。
そして何よりも、「カメラマンは黒子でないといけないんです」とおっしゃっていた武田さんによるプロマイド愛の深さ。こちらの願望を受け止め、あらゆるプロマイドの構図から、最適なショットを引き出してくれます。
撮影中も、ユーモアたっぷりの会話は止まらず、安心して身を委ね、被写体となる快感を味わえます(さらに、時折ポロっと出るスターたちのマル秘情報も、驚くこと間違いなし)。遊び半分でも、記念の思い出作りでもよし。ぜひ「大人の悪ふざけ」体験してみてはいかがでしょうか?
最後に一番のお気に入りをご紹介します。「コレと一緒に写ると、雰囲気めっちゃ出ますよ」と用意されたのは、創業当時の大正10年から使われていたカメラ(!!)
友人によるスナップ(左)と武田さんのプロマイド(右)
無理しておちゃらけたポーズをしなくても、むしろ昭和の浅草のコメディアンがそっと顔を出している。そんなムードがある意味、一番「プロマイドっぽい」仕上がりになっている。そんな気がしました。
(高柳優/イベニア)
編集部おすすめ