アニメ『ゴールデンカムイ』(→公式サイト)。
「第十九話 カムイホプニレ」は今日11月19日(月)23:00より、TOKYO MXほかで放送。
オンライン配信はFOD独占配信中
第二の主人公ともいえる谷垣源次郎の、どうにもならなかった、かつての出来事を丁寧に描いた回。当時の風習や戦争の様子まできっちり描いた、力の入った回だ。
「ゴールデンカムイ」原作のあのパートがカットされた!SNSに衝撃と「そりゃそうだ」コメントの嵐18話
十八話は、谷垣のやりきれない過去を描いた回。

谷垣の過去のあらまし


かつてマタギとして秋田で生きていた谷垣源次郎。彼には賢吉という親友がいた。
賢吉は谷垣の妹・フミと結婚。2人は集落から離れた場所で暮らしはじめた。

ところがある日、賢吉の家は全焼、フミの焼死体には賢吉の小刀で刺した傷があった。
賢吉が妹を殺したことに谷垣は怒り狂う。復讐のため彼を追うように屯田兵に入隊。その後軍隊として戦争に参加。賢吉を見つけて、どさくさに紛れて殺そうと企む。

203高地で戦闘中、谷垣たちに向かってロシア人兵士が爆弾を持って特攻してきた。
咄嗟に飛び出して押し返し、爆発に巻き込まれた男がいた。賢吉だった。
目も耳も潰れた賢吉。近くにいるのが谷垣だと知らず、自分が疱瘡(天然痘)になったフミに殺してほしいと言われて刺し殺し、家ごと燃やしたこと、谷垣家を苦しめてしまったことを口から漏らす。
全てを理解した谷垣は、賢吉の口に秋田のカネ餅を入れる。その味で、賢吉は谷垣がそばにいることに気づき、息を引き取った。


天然痘と集落


何もかもが、どうしようもない話。
事実を伝えようにも、天然痘が絡むと人間関係が無駄にこじれてしまう。フミはそれだけはどうしても避けたかったのだ。
(なおフミの声優・浅野真澄は秋田出身)

日露戦争の203高地の話が出ているので、おそらく賢吉とフミの結婚の話が出たのは1904年よりも前。
1885年、1892年、1896年(明治18年から30年の間)など数回に渡って天然痘が大流行。5千から2万人の死者を出した。
その後しばらくして第二次大戦後の1946年に入ってなお、1万8千人が罹患し、3千人近くが死亡している。

(資料・国立感染症研究所日本医史学雑誌 第 60 巻第 3 号

この時期は、種痘により免疫をつける動き自体はすでにあった。
だが秋田の山奥で、予防接種的なものはまずしていないだろう。
ある程度の知識があればなんとかなったのかもしれない。けれども致死率も計り知れない、見た目の切なさが辛い、感染率が異常に高い病気となると、当時の村では隔離するしかない。

賢吉「山で家族が疱瘡にかかれば、感染を恐れ小屋に置き去りにしますが、自分にはできなかった。置き去りにされた小屋に獣が入り込み病人が抵抗もできずに食われた話を聞いたことがあります」「谷垣家の人間から疱瘡が出たとわかれば、村の人間は誰も近付かなくなるし、他のマタギはみんな父や兄達と巻き狩りをしなくなる」

谷垣と賢吉がいた集落は、描写を見る限り平和な環境だった様子。
だが感染者がいる一族から、みんな距離を置いてしまうくらいのことはどうしてもあった様子。
特に複数人で行う巻き狩りからは置いていかれてしまう。一族にとって致命的な話だ。

とはいえフミ本人は、病を恨むのではなく「自分の生命を何に使うか」を考えた。
フミ「もし感染してなければ、その命をどうやって使うか、自分の役目を探しなさい」

生命をどこに使うか


17話ラストで、杉元が鹿を撃ち殺して腹の中に入り、生き延びたシーンがあった。「生命」を受け取ったことで、鹿には生きていた価値がある。その恩恵は受け取っていい、というアシリパから学んだ自然への考え方だ。

白石をかばって杉元が銃弾に撃たれるシーンもあった。自分が死んでも、アシリパを網走に連れて行けと白石に告げている。自分の生命を、アシリパの目的のために使う覚悟ができている表現だ。

今回、悩み続けて兵隊になった賢吉は、特攻兵を命がけで押しのけ、仲間の生命を救った。
賢吉は毎日苦しみ続けて、どうやって残った命を使うか考え続けていた。
どうしようもない中でとった「生命の使いみち」が、本当に正しかったのかどうかは誰にもわからない。
ただ、奇しくも谷垣に今際の際で出会い、自身と谷垣の苦悩を救ったことには、間違いなくつながっている。

妹を失い、親友を失い、母も心労で失った谷垣。復讐に燃えていた空虚さに襲われ続けていたのが、アニメ初期の彼。
しかし自然と命がけで戦うマタギの二瓶鉄造との出会いで魂を取り戻し、アイヌの人々とふれあうことで、改めて自然の中で生きる人間のあり方を取り戻し始めた。
今回のラストで杉元やアシリパと合流することになるが、谷垣の顔は憑き物が落ちたように晴れやかだ。

鶴見中尉、そして消えたウコチャヌプコロ


過去編で谷垣の話を聞き終わったあとの、鶴見中尉のセリフが非常に粋。
鶴見「谷垣、私にはお前が必要だ。まずは私の為に、くるみ入りのカネ餅を作ってくれないか」

谷垣が賢吉に食べさせた、オリジナルのくるみ入りカネ餅。生命を何に使うべきか悩む谷垣に、あえて「軍で働け」とかではなく、心の中で大事にしているものをわけてほしいというこの発言、人たらしすぎてキュンとくる。
鶴見中尉のこの発言は少々かっこよすぎて、どこまで本心かわからない部分がある。
もっともそこは詮索しないのが、視聴者に問われる粋の部分なのだろう。人心掌握術に長けている鶴見の一面を見ることができる場面だ。

今回ラストで谷垣が合流したことで、原作でトップクラスの変態・姉畑支遁のパートがカットされたことが判明。ファンからは、激しいショック&「そりゃそうだ」コメントの嵐。
姉畑支遁は動物が好きな学者。好きすぎてあらゆる動物とウコチャヌプコロ(性交に近い意味のアイヌ語)したあげく惨殺するという、自然の理に反しまくった囚人の1人。
アイヌは動物たちが無差別に死んでいるのを見て激怒し、勘違いで谷垣を捕まえていた、という流れだった。

その前の稲妻強盗などもカットされているので、二期は刺青の囚人話はほぼ全部カットという感じなんだろう。
削ったことでテーマを絞り、「生命の流れ・使い方」を人間・自然両面で描こうとする意気込みを感じる。
とはいえ、姉畑は漫画史通じても多くないであろう珍キャラ。なんとかOVAで再現してはくれまいか…!
(たまごまご)