Netflix「オーロラの空の下で」でサーフィン馬鹿の生き様を見よ。どう考えても変人なのに羨ましい
どうもみなさまこんにちは。細々とライターなどやっております、しげるでございます。配信中毒18回。ここではネットフリックスやアマゾンプライムビデオなど、各種配信サービスにて見られるドキュメンタリーを中心に、ちょっと変わった見どころなんかを紹介できればと思っております。みなさま何卒よろしくどうぞ。

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今回紹介するのは、ネットフリックスにて配信中の『オーロラの空の下で』である。サーフィンのドキュメンタリー、それも冬の嵐真っ只中のアイスランドでのサーフィンに挑んだサーファーたちのお話だ。


北極海でサーフィン……そんなこと、できるんですか!?


素人考えでサーフィンといえば、なんとなく南の島のものという感じがする。ハワイとかグアムとかサイパンみたいなあったかいところで、燦々と降り注ぐ太陽の下でやるもの……というイメージの方が強いと思う。しかし、世の中にはコールドウォーターサーフィンというジャンルがあるという。寒くて荒れた、前人未到のスポットでドライスーツに身を包んで波に乗るという、「なんでそんなことを……?」と疑問が浮かぶようなスタイルのサーフィンだ。

『オーロラの空の下で』は、このコールドウォーターサーフィンのドキュメンタリーである。オーロラの空の下でやるのは、とどのつまりサーフィンなのだ。とにかく北に向かい、真冬のアイスランドの荒波の中でサーフィンをやる。
そんなどう考えてもやめた方がよさそうな目的のために、ジャスティン、サム、ティミーらアメリカ人トップサーファーたちが空路でレイキャビクへと向かうところから映画はスタートする。

アイスランドでインゴ、エリら地元のサーファー(アイスランドにもサーファーがいるのだ!)と落ち合った彼らは、沖合へと向かう船をチャーターしてレイキャビクからさらに西のフィヨルドへと車を走らせる。なんせ冬のアイスランドなので、日の出が11時で日の入りが15時、24時間のほとんどが真っ暗だ。おまけに気温は零下12度程度、横殴りに雪が降り、車のライトはかろうじて前を走る車の後ろを照らす程度しか視界がきかない。窓だってすぐにガチガチに凍り付いてしまう。そんな環境にも関わらず、ワイワイと騒ぎながらサーファーたちは海を目指す。


なんせ全員サーファーなので、道中の寄り道だってサーフィンだ。途中海岸沿いを走っているときにいい感じに波が出ていると、早速車を止めてドライスーツに着替え、「ヤッター!」と海へと駆け出す。しかしその海は、10分潜っていたら低体温症で死ぬのである。何回か波に乗ったあと「足の感覚がない!!」とか言いながら爆笑するサーファーたち。く、狂っている……!

そんな寄り道もしつつ、港にたどり着いたサーファーたち。意気揚々と船に乗ったものの、あいにく天気はサーフィンどころではない大時化になりつつあった。
過去25年間で最大級の嵐が、アイスランドに近づいていたのである。ちょっと沖まで出たところで、「さすがにこれは危ないわ」と港に帰ることを決定する船長。その後マジで天気が悪くなり、サーファーたちはサーフィンはおろか外に出ることすら危険なレベルの悪天候に苦しめられる。果たして彼らは、無事にアイスランドの海でサーフィンすることができるのか。

目的もサーフィン、寄り道もサーフィン! サーフィン馬鹿の生き様を見よ


この映画に出てくるサーファーたちは生粋のサーフィン馬鹿、サーフィンさえできればあとは割とどうでもいい、という人たちである。先ほども書いたように、道中の寄り道がまずサーフィンなのだ。
波があればもう大人しくしていられない。ちょっとでも海を見つけると「いけそうかな」とソワソワし、地図を見ては「この地形だったらめっちゃ波立ってそう」「わかる~」「それな~」と話す。前人未到の場所で波に乗ることが最大の関心事であり、それ以外は二の次だ。

特に狂気を感じるのは、悪天候でサーフィンが無理っぽくなってきたときの彼らの行動である。なぜか泊まっているコテージでドライスーツに着替え、建物の前にある雪まみれの斜面にサーフボードを置いてスノボのようにザーッと滑り降りるのだ。大丈夫だろうか。
そんなに乗りたいのか、波に……!

ただ、彼らがやっているのはただ単にサーフィンというわけではなく、ほとんど冒険旅行である。波に乗るだけではなくて、誰も知らないような場所で自分たちにしかできないことをする。その高揚感が彼らをめちゃくちゃな行動に駆り立てているような気もする。彼らは劇中で「サーフィンは誰もが知っている場所で、何もかもお膳立てされてやるようなものじゃない」というようなことを口にする。たとえ普通の人間に理解できないようなことでも、自分だけにしかできないようなことを自分で探してやるということの盛り上がりが、じわじわと伝わってくる。

とは言ったものの、「単純に死ぬほどサーフィンが好きな変人の集団を映した映像」というふうに見えなくもないのがこのドキュメンタリーの面白いところである。
何が楽しいのか理屈で説明できるようなことではないから、とにかく板を持って海に行ってみるしかない。だいたい、極寒の海でサーフィンをやるなどという理解に苦しむ行為をやるのは、それが圧倒的に楽しいからだろう。どう考えても変人の集団なのに、妙にかっこいい。悔しい。

もちろん、劇中に挟まれるアイスランドの風景はめちゃくちゃ綺麗である。映像と音楽とのマッチングもよくできているので、環境ビデオとしても優秀。付けっ放しにしておくだけでも、「なんとなく雄大ですごいものを見たな!」という気分になれるはずだ。また、40分と短めでサクッと見られるのもありがたい。サーフィン馬鹿たちのドタバタを眺めつつ、ここまで必死になれるものごとがある羨ましさを噛み締めたい一作である。
Netflix「オーロラの空の下で」でサーフィン馬鹿の生き様を見よ。どう考えても変人なのに羨ましい

(文と作図/しげる タイトルデザイン/まつもとりえこ)