テレビで季節の変わり目を感じさせてくれる番組といえばそう、警察24時シリーズだ。
各地で発生する凶悪事件を追う警察官の活躍を特集した、改編期や年末になると各局で放送されるこの番組。
今年の冬も12月4日にTBSで『最前線!密着警察24時』、12月6日に日本テレビで『警察特捜2019 緊急出動!凶悪逃走犯を追え』が放送され、12月29日にはテレビ東京で『激録・警察密着24時!! ~2019冬~』が放送される。

その中で毎回印象に残るのが、警察に追い詰められた犯人の言い分だ。
家族が金を持ってくると言い張る無銭飲食犯。俺が被害者だと言い出す痴漢男など、尻尾をつかまれたも同然なのにあがく犯人たち。彼らは、なぜ見え見えの嘘をつくのか?
警察24時を見たことのある人なら一度は抱くだろう、そんな疑問に答えてくれる一冊がある。

それが本書、『なぜ元公務員はいっぺんにおにぎり35個を万引きしたのか ビジネスマン裁判傍聴記』
ライター・北尾トロによる裁判傍聴記の最新刊にして、『プレジデントオンライン』の連載をまとめた「ビジネスマン向け」というのが異色の一冊だ。
裁判傍聴歴19年のライターは見た『なぜ元公務員はいっぺんにおにぎり35個を万引きしたのか』
『なぜ元公務員はいっぺんにおにぎり35個を万引きしたのか ビジネスマン裁判傍聴記』北尾トロ/プレジデント社

ビジネスマンはどこでしくじったのか?


第1章「ビジネスマン裁判傍聴記」は、主にビジネスマンが被告人となった全19回の裁判傍聴記を、「お金」「女・酒・クスリ」「小事件」「情欲」「被告人を助ける人々」の5つにジャンル分けして収録。
それぞれ事件のあらましが紹介された後、裁判での証人尋問や被告人質問によって、被告人の人物像が明らかとなる。

たとえば、ローンに追われ怪しげな金融業者の融資の誘いに乗ったがために、詐欺等の罪に問われた56歳の営業マン。副業の偽ブランド品販売で商標法違反となった、40代の自動車部品メーカー社員。仕事の理想と現実のギャップに嫌気がさしたことが発端となり、いつしかコンビニでおにぎり35個を万引きするほどの極貧状態に追い込まれた元公務員。

パワハラ常習者だったような被告人もいるが、いかにも悪そうな人は少ない。
大抵が思いもよらぬところで、さまざまな理由で犯罪に手を染めてしまう。
ここまでなら、自分には関係ないと思うビジネスマンもまだいるかもしれない。
ところが……。

ビジネスマンは犯罪を起こしやすい?


著者曰く、〈"ストレスを言い訳にビジネスマンが引き起こす犯罪"は、もはやひとつのジャンルとして定着している〉のだとか。
仕事一筋の完璧主義な人ほど会社でのストレスをうまく解消できずに、犯罪に走ってしまう。

ビジネスマンのしくじりを数多く見てきた著者は、第2章「法廷の人に学ぶビジネスマン処世術」で、〈作られた完璧さは意外にもろい〉と、新たな理想のビジネスマン像を掲げる。
ここでモデルとなるのが、裁判長だ。裁判長=清廉潔白とすぐイメージされるのと同様に、リーダーシップや正直さなど自分のトレードマークとなりそうな、身の丈に合った長所を一つ選ぶ。
その長所を磨き上げて社内の尊敬を集める名物キャラとなることで、欠点も愛嬌に変えてしまうという無理のないキャラ作りが本書では提案される。

それだけではない。被告人の反省の涙に学ぶ、上司が味方になってくれる泣き方。裁判員裁判を教材とした上手な会議の進め方など、裁判から学べることはたくさんある。

裁判での「負け方」から学ぶビジネスの鉄則


中でも、被告人に学ぶ端的な答え方正しい言い訳は、すぐに実践できるのでおススメ。


動かしがたい証拠のある裁判というのは、いうなれば負け試合である。
それにもかかわらず、窃盗について〈気がついたらバッグに品物が入っていまして〉と弁解をする者もいれば、大麻を吸って〈冗談のつもりだった〉とか、人をメッタ刺しにして〈殺す気はなかった〉と言う者もいる。
逮捕される前だけでなく、された後も言い訳をする人は多いのだ。

著者はそんな言い訳する犯人の心理を、「必死」だからだと分析する。
検察に問い詰められた被告人は黙っていると重罪に処されるのではないかとビビり、判断力が鈍った状態で何とかしようとするがために、妙な言い訳をしてしまう。
だがそれに耳を貸す裁判官なんて皆無、〈裁判で被告人の言い訳が功を奏した場面を見たことがない〉。
検察には潔く罪を認め、言いたいことは弁護士質問で無駄なく伝え、挽回を図る。そうした〈寡黙な被告人が、執行猶予を勝ち取る場面はたびたび目にしてきた〉という。

この状況を仕事でのミスの申し開きに置き換えてみると、ビジネスマンに留まらず、あらゆる職業の人にとって裁判が他人事ではなくなるはず。
本書を読んでまずは、〈家でも職場でも一切言い訳しないと決め、一週間それを守る〉から実践開始だ。
(藤井勉)
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