倉本聰・脚本「やすらぎの刻~道」(テレビ朝日系・月~金11時30分~)第45週。

孤独死と認知症という、本作の2大テーマが絡むエピソードが登場。


老夫婦の白骨死体が……明日は我が身


根来公平(橋爪功)の孫・翔(菅谷哲也)と恋人・木宮詩子(渡辺早織)の結婚が決まり、鉄兵の住んでいた家を自分たちの手で改築して、そこをふたりの新居にしようと考えているようだ。

お金をかけないため、近所の空き家を勝手に解体して資材を頂戴しようという、なかなかヤバイ窃盗計画を立てている模様。

限界集落の空き家とはいえ、勝手にぶっ壊していいわけじゃないと思うけど……。村における数少ない若者・翔夫婦のやることだからオールオッケーなのだろうか?

色んな家を(最近死んだばかりのハゲの家まで!)物色する中、ある家で老夫婦が白骨死体化しているのを発見してしまう。

老人たちが死んでいったり、長年住み慣れた家を捨てて村を出て行ったりと衰退の一途をたどる小野ヶ沢だけに、死んでから随分経つまで発見されないということも起こり得るだろう。

老老介護の末の悲劇だったようだが、明日は我が身。公平と幼なじみ・ニキビは(山本圭)は、

「昔はこんなことが起こることはなかった。戦後になり、互いの暮らしに干渉しなくなり、村の秩序は崩れた。崩したのは自分たち老人かもしれない」

と落ち込むのだった。

そんなニキビも子どもたちに押し切られ、小野ヶ沢から出ていくことになる。

「俺は家族の大荷物になったようだ」

心配してくれる子どもがいるだけ、まだ幸せとも言えるが……。

倉本聰が前作「やすらぎの郷」を書くきっかけのひとつには、大原麗子の孤独死があったと言われている。

あれだけの大女優ですら、老後には孤独死してしまうという状況を憂えて、芸能界に貢献した者だけが入れる老人ホーム「やすらぎの郷」を構想したわけだ。


ただ、限界集落で白骨化した老夫婦のエピソードを見せられちゃうと、「芸能人はいいよなー、そういう老人ホームに入れて」という気持ちの方が強くなってしまうけど。
「やすらぎの刻~道」限界集落で老夫婦が白骨化した死体が発見される…「明日は我が身…」第45週
イラストと文/北村ヂン

柳生博の最後の演技が圧巻


小野ヶ沢の衰退っぷりが露わになった今週だが、中でもショッキングだったのは荒木(柳生博)の壊れっぷりだ。

「道」パート昭和編の時から、権力者におもねり、目下の者には威張り散らし、しかも金に汚いという典型的嫌われ者キャラだった荒木。

平成編に入ってからも高速道路が通るだの、ゴルフ場ができるだのと、怪しい話に乗っかって土地を買い漁ったり、相変わらずの銭ゲバっぷりを見せつけていた。

しかし最近は認知症が悪化して、毎日のように徘徊しているという。

戦前、女郎屋に売り払ってしまった娘・おりんちゃんのことが心の傷になっているようで、「おりんは おらんか!? おりんは来とらんか?」と他人の家にまで上がり込んでいるようだ。

「バブルっちゅうのはすごいね。うちの原野と山林が1億5000万で売れちゃったよ! 億万長者じゃ! このオイラがよ!」

この発言自体が現実なのか妄想なのか分からないが、ようやく大金を手にした荒木は「今なら何でも好きなもの買うてやれる」とおりんちゃんを探し続ける。

露骨な悪役だったので感情移入する余地は皆無だった荒木だが、ここにきてグッと心をつかまれるとは。

あれだけ悪役に徹していたのは、女郎屋に売った娘への罪悪感からだったのかも知れない。

とにかく柳生博の演技が圧巻。

平成編に入り、ヤング・荒木から柳生博にチェンジした際、「100万円クイズハンター」を見ていた世代としては、荒木の……というか柳生博の老けっぷりにショックを受けたものだが、認知症になった哀れな演技をするに当たっては、この老けっぷりが効果的。

現在、認知症の妻を介護しつつ、“最後の仕事”として本作に出演しているという柳生博。


野際陽子や梅宮辰夫など、本作が最後の仕事になった役者たちは多いが、長年の役者人生をぶつけた凄みのある演技には本当に引き込まれる。

結局荒木は、子どもたちによって鉄格子のある病院に入れられてしまったというのがまたえげつない……。

「やすらぎの刻」で安らぐ時が来るとは……


孤独死をしたり、認知症でぶっ壊れたりと、悲しい出来事が続く小野ヶ沢の中で、正月のたびに子ども&孫たちが勢揃いする根来家はメチャクチャ恵まれている。

みんなで大掃除し、歌って踊って初詣に行くなんて、視聴者のおじいちゃん、おばあちゃんがウットリしてしまうような光景だ。

そんな根来家にもトラブルの火種はちょこちょこある。中でもデカそうなのは、長男・剛(田中哲司)の父親問題だ。

視聴者的にはお馴染みのこの秘密。終戦からこれだけ経ってもバレてなかったのか……。

しの(風吹ジュン)は、剛の本当の父親である三平の霊(?)をたびたび見ているようで、こちらの認知症の心配もある。

……というところで、再び「やすらぎの刻」パートに。

こちらでもマロ(ミッキー・カーチス)が倒れたりと死のニオイが漂ってはいるが、老女たちは半ボケになりつつも、シルバーヨガのインストラクターに夢中になってアピール合戦を繰り広げるなど、元気いっぱい。

「“やすらぎ”って言ってるけど、全然安らげねぇ〜!」と言い続けてきた「やすらぎの刻」パートだが、悲しいエピソードが続く「道」パートの後だと、元気な老人たちに癒される……!
(イラストと文/北村ヂン)

【配信サイト】
Tver

『やすらぎの刻〜道』(テレビ朝日)
作: 倉本聰
演出:藤田明二、阿部雄一、池添博、唐木希浩
主題歌: 中島みゆき「進化樹」「離郷の歌」「慕情」「終り初物」「観音橋」
音楽:島健
チーフプロデューサー:五十嵐文郎(テレビ朝日)
プロデューサー:中込卓也(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)、山形亮介(角川大映スタジオ)
制作協力:角川大映スタジオ
制作著作:テレビ朝日
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