『エール』第21週「夢のつづきに」 103回〈11月4日(水) 放送 作:清水友佳子、演出:橋爪紳一朗、小林直穀〉

『エール』またも劇団四季出身者が登場 伊藤(海宝直人)の相手役に音が選ばれたのは「不正」だった悲しみ
イラスト/おうか

「ほんとに私でいいのかしら」

『おはよう日本』関東版の高瀬アナが、今年の紅白を「朝ドラ紅白」と言っていた。昨日の当レビューの前文と内容がかぶる。高瀬アナと着眼点が同じのときはうれしい。


【前話レビュー】娘の華を悩ませる音 なぜこういうキャラになったのか、最近の音を考察

『紅白歌合戦』の紅組司会に選ばれた二階堂ふみは暮れの晴れ舞台を控え、演じる音は帝都劇場の『ラ・ボエーム』が控える。「ほんとに私でいいのかしら」と二階堂ふみが紅白司会に選ばれたときそう言ったかは定かでないが、音は『ラ・ボエーム』の審査合格を聞き、そう言いながら床に倒れ込む。

残念、音の合格は裕一のおかげだった

晴れて『ラ・ボエーム』のヒロイン・ミミの役を射止めた音。いざ稽古をはじめると、ほかのキャストは生え抜きぞろい。音だけ音楽学校中退でなんの経験もない。相手役の伊藤幸造(海宝直人)からは注意されてばかりで悩み始める。

じつは、最終審査で審査員は音に一票も入れていなかったにもかかわらず、主催の会社の脇坂常務(橋爪淳)が古山裕一の妻であることが話題になるからという理由で起用された。正確には「出来レース」ではない、後から決まった話だが、出来レースみたいなもの。要するに、みんな大嫌い「不正」である。

音楽学校時代から誇り高かった千鶴子(小南満祐子)は、毅然と「お言葉ですが、それではなんのためのオーディションだったのでしょう」ともの申したが、受け入れられることはなかった。

駒込英治(橋本じゅん)池田(北村有起哉)いわく「調子のいいやつ」で、常務の言いなり(このときの「そっか…駒込か。へえ〜」の言い方に含みがたっぷりだった)。

審査状況は内密だろうけれど、キャストやスタッフは実力が明らかに不足している音が選ばれたことを疑問に思っているだろう。
現場の空気が悪くなるのも無理はない。

以前、レビューで、『エール』の良さのひとつに、裕一の身内贔屓によって音が歌を歌ったりしない清潔感を挙げた。学生時代『椿姫』の主役を射止めながら妊娠し、苦しんでいるとき、裕一は冷静に音の歌の欠点を指摘した(50回)。そのときの裕一の音楽家としての客観的な態度は好ましかった。

そのうえ「音は何ひとつ、何ひとつ諦める必要はないんだから。そのために僕はいんだから」と最高のフォローをして、いつか「僕の作った曲で、君がおっきな舞台で歌う」という夢を掲げたことで、彼の株が上がった。

以後、音は専業主婦になり、裕一は夢を忘れてはいないながら、決して自分の仕事に妻を越境させてくることはなかった。今回は、音の歌に指摘せず、応援している裕一。長年、忍耐していた音を自由にさせてあげたい気持ちが先に立っているのかなという印象だ。

『エール』またも劇団四季出身者が登場 伊藤(海宝直人)の相手役に音が選ばれたのは「不正」だった悲しみ
写真提供/NHK

もうひとり、劇団四季出身者が登場

音に厳しい伊藤役の海宝直人は、11月3日(火)に故・三浦春馬が主演予定だった『The Illusionist -イリュージョニスト-』に主演することも発表されたばかりの、期待のミュージカル俳優。劇団四季出身。先日、ウエンツ瑛士の取材をしたとき、こどものとき劇団四季で海宝と一緒だったという話を聞いた。

『エール』には四季出身者が、藤丸役の井上希美、岩城役の吉村光夫や、藤堂の妻・昌子役の堀内敬子、歌手・山藤役の柿澤勇人など多数いる。
海宝は四季で『ライオンキング』のシンバ役、東宝ミュージカル『レ・ミゼラブル』のマリウスなどを演じている。草なぎ剛主演の音楽劇『道』にも出演。

八田武を演じる田中俊太郎は、芸大出身で数多くのオペラに出演している。公式サイトによると『ラ・ボエーム』のショナールを演じたことがあるようだが、ドラマではマルチェッロ役を演じる役。

窪田正孝のまぶたの演技

母・音(二階堂ふみ)への反抗から叔母・吟(松井玲奈)の家に泊まっていた華(古川琴音)裕一(窪田正孝)が迎えに来た。戻りがけに聖マリア教会の前を通る。ケンの仲間たち――戦災孤児がたくさんいる。

教会の飯塚佐代(黒川智花)から「最低限の衣食住は満たされても、本当に大変なのはこれからなんですけどね」と聞いた裕一の表情は曇る。裕一の戦争に関する悩みがすっかり晴れたかと思いきや、そんなことはない。そんな表情がいくぶん目を細める表情から伝わってきた。

この教会にいる子たちは、彼の歌で戦場に行って散った親をもつ子どもたちかもしれない。それは生涯、背負っていくものなのだ。モデルの古関裕而がどう思っていたかはさておき、このドラマにおける裕一においては、これまでの流れから見たら、そうでないとならないだろう。
そこをきちんと書いた誠実さを評価したい。

橋本じゅんの二役

12週の特別編「父、帰る。」で音の父・安隆(光石研)を地上に戻した閻魔役だった橋本じゅんが、『ラ・ボエーム』の演出家役で再登場。元・閻魔だけあって(?)、長いものにまかれる調子のいい人物であった。これが、千鶴子さんのように誇り高き潔癖な役柄だったら、前の役と違いすぎて戸惑うが、小悪党的な役回りだったので、違和感なかった。

同じ番組で違う役をやることは滅多にないが、朝ドラだと、主人公の子役が、後半、別の子役として再登場することはある。人気者、功労者のアンコール登場である。
(木俣冬)

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『エール』またも劇団四季出身者が登場 伊藤(海宝直人)の相手役に音が選ばれたのは「不正」だった悲しみ
写真提供/NHK

番組情報

連続テレビ小説「エール」 

【放送予定】
2020年3月30日(月)~11月28日(土)

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

原作・原案:林宏司
脚本・作:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
主演: 窪田正孝 二階堂ふみ
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和
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