京都大学iPS細胞研究所(CiRA)名誉所長で京都大学iPS細胞研究財団理事長も務める山中伸弥教授が27日、「iPS細胞論文発表から20年~実用化への歩み~」と題して日本記者クラブで講演。これまでの研究・開発の道のりを振り返るとともに、iPS細胞を用いた薬や医療への応用、今後の展望や課題について率直に語った。
自身が趣味とするマラソンに例え、「ようやく中間地点。ここからが勝負。後半になるほど大変になる」と述べた。米中を含め競争が激しさを増す中で、「京都大学iPS細胞研究所を中核とするオールジャパン体制を維持できるかがポイントだ」と強調。研究成果を患者に届けるには継続的な努力と資金が不可欠で、ゴールに近づくほど困難が増すと語り、研究への支援の継続を訴えた。
山中教授は冒頭、iPS細胞研究20年の歩みと現状について解説した。2006年にマウスの細胞でiPS細胞を作製し発表。2007年にはヒトの細胞でも成功し、功績が認められて2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。
日本国内では15以上の疾患で臨床研究・臨床試験が進行中で、オールジャパン体制での情報共有が研究を支えていると説明した。
2026年3月にiPS細胞を使った再生医療製品を世界で初めて実用化し、研究が実際の医療に届き始めていることを強調した。
80歳の人からiPS細胞を作製した場合でも、細胞は生まれたばかりの状態に戻るため、iPS細胞はあらゆる細胞に成長する「万能性」を持つという。山中教授はiPS細胞について「タイムマシンのような技術だ」と説明した。
応用として期待されている再生医療の研究の現状については、「国の機関や各大学まで日本は『ワンチーム』になれた。オールジャパンで協力できるところは協力してきた」と強調した。山中教授らは細胞を製造・管理する体制を整え、研究者に提供する仕組みを作った。「日本は脳から足まであらゆる種類の疾患を対象にした研究が同時に進んでおり、特徴であり強みだ」と述べた。
オールジャパン体制はCiRAがiPS細胞情報を京大、慶大、東大、阪大、理研などアカデミアと住友ファーマ、武田のほかスタートアップ企業に提供するもので、研究成果が出始めている。
パーキンソン病や心不全向け治療薬が初めて承認
2026年3月には住友ファーマのパーキンソン病治療薬や大阪大学発クオリプスが開発した心不全向けの心筋細胞シートの2製品がiPS細胞を利用した医療製品として世界で初めて承認された。
患者自身の細胞からつくる「マイiPS細胞」にも取り組んでいることを紹介した。細胞の培養コストが課題となっており、自動化などを進める。「一人一人の細胞からつくることを諦めていない」と強調した。
日本におけるiPS細胞を用いた再生医療治療プランとして、パーキンソン病のほか加齢黄斑変性、水疱性角膜症、頭頸部がん、虚血性心筋症、血小板減少症、脊髄損傷、子宮頸がん、膝関節軟膏損傷、I型糖尿病などを列挙した。
米中両国と競うにはオールジャパン体制維持が大切
近年、米国や中国がiPS細胞の研究に注力しており、山中氏は「海外勢の勢いがすごい」と明かし、「後半戦もオールジャパン体制を維持できるかが米中と競うには大切なことだ」と表明した。
講演では、日本の科学研究の構造的課題にも言及。「研究職の多くが有期雇用で不安定で、優秀な若手研究者が定着しにくい」と訴えた。さらに資金獲得の難しさを挙げ、「多くの方にお願いし続ける必要がある」と寄付や支援を訴えた。
また、国際競争力の維持には継続性が鍵とし、「米中と競うには、研究体制を途切れさせないことが最重要だ」と強調した。
揮毫は「初志貫徹」、科学技術立国・日本の構造改革が不可欠
講演後に山中教授が揮毫したのは「初志貫徹」。研究への覚悟と決意を示した。
iPS細胞研究は世界的競争の真っただ中で、日本は初期の優位を保てるかが問われている。日本の科学研究の未来への警鐘と、社会全体への協力要請が込められた講演だった。
研究者の雇用・資金の構造改革が不可欠であり、科学技術立国・日本の岐路となる。国民の理解と支援が研究の持続性を左右することになろう。











