馬トク報知で過去の名勝負を当時の記事から振り返る【競走伝】。今回はシーザリオが勝った05年のオークスを取り上げる。

エピファネイア、リオンディーズ、サートゥルナーリアを送り出した名牝として知られるが、現役時代に国内では唯一のG1勝利。苦闘の末につかんだビッグタイトルだった。

 

 絶対絶命だった。後方5、6番手から直線に向いた福永とシーザリオにはゴールが見えなかった。超スローで一団となった馬群の中で前、後ろ、外が壁。行き場がない。スタンドの歓声が悲鳴に変わった。しかし、ここから驚異の末脚を絞り出す。こん身のムチを受けた青毛はたて髪をふるわせ、弾丸のような速さで加速する。ラスト3ハロンは驚異的な33秒3で、測ったように2着のエアメサイアを首差だけ差し切った。オークスの歴史に伝説が誕生した。

 薄氷の勝利。

福永の顔は敗者のように青ざめていた。「馬に負担をかける乗り方をしてしまったから。きょうは馬に勝たせてもらいました」。発馬でダッシュがつかず、横にいた武豊とエアメサイアに前へ入られた。道中は後方からの追走。「焦っても仕方ない。ほかの馬にぶつからないようにしよう」。超スローペースでも腹をくくったが、3コーナーでもまだ15番手。まさかの展開に詰めかけたファンのどよめきが場内を包んだ。

 しかし、とんでもない末脚でつかんだ初のビッグタイトル。福永はゴール板を過ぎてから、小さく右手でガッツポーズをするだけだった。レース後はエアメサイアの武豊から「完全な負けパターンだったのにな」と辛口の祝福。

無言でうなずいたあと、声を絞り出した。「今日は馬に勝たせてもらった。いい騎乗ではなかった」。昨年のダイワエルシエーロに続いての連覇、GⅠ通算10勝目達成も素直に喜べなかった。

 本来なら桜花賞を勝ったラインクラフトで牝馬2冠に挑むところだが、同馬は距離適性も考慮されてNHKマイルCへ矛先を変えた。そしてフラワーC以来、2戦ぶりに戻ってきた手綱。何としてもシーザリオをオークス馬に導く責任があった。「本当に頭が下がるくらい頑張った。たいした馬です」と繰り返した。

 角居調教師にとっては、昨年の菊花賞(デルタブルース)に続くG1・2勝目。「桜花賞(2着)の時の力を出してくれたら、いい結果が出ると思っていた」と振り返りつつ、「こんなに強い馬だったのか」と愛馬に脱帽した。表彰式が終わった後、トレーナーからは飛び出したのは海外G1挑戦のプラン。

「(馬主と)相談してからだが、アメリカン・オークス(7月3日、米ハリウッドパーク競馬場)に出したい」。苦闘の末に勝利をつかんだ福永の視線も海の向こうを見据えていた。「海外に行っても通用する素質を持った馬だと思うし、状態さえ整えばぜひ行くべき馬だと思う。そこに僕が乗れるならうれしいです」。

 その言葉は現実となった。続くアメリカンオークスでは2着に4馬身差をつける圧勝で、父内国産の日本調教馬では初の海外G1制覇を果たした。しかし、帰国後に右前脚の外側繋靱帯(けいじんたい)炎を発症していることが判明。2006年4月に現役引退が発表され、わずか6戦で底を見せないまま、短すぎる競走生活を終えた。

 ただ、引退後に輝きはさらに増すことになる。ノーザンファームで繁殖入りすると、3番子のエピファネイアが菊花賞とジャパンC、6番子のリオンディーズが朝日杯FS、9番子のサートゥルナーリアがホープフルSと皐月賞を勝利。この3頭は種牡馬としても次々と活躍馬を送り出している。2021年に19歳で天国へと旅立ったが、その血脈は今や日本競馬の中心を担っている。

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