【MLB】「本当に怪物なのか」苦闘する佐々木朗希に現地で広ま...の画像はこちら >>

前編:ドジャース佐々木朗希の不振と再生への道筋

 ロサンゼルス・ドジャースの佐々木朗希が苦しんでいる。昨シーズンは先発として開幕を迎え、終盤のポストシーズンではブルペンに回り見事なピッチングを見せ、期待されて迎えた今季だったが、再び戻った先発で結果を残せずにいる。

 高校時代から佐々木を知るベテラン記者の私見も含め、佐々木の現在地と苦闘の理由を分析する。

【ドジャース先発陣の現状のなかで】

 佐々木朗希が、悔しそうに表情をゆがめ、マウンドを降りた。

 5月11日(日本時間12日)のサンフランシスコ・ジャイアンツ戦。平均97.3マイル(約156.6キロ)、最速99.5マイル(約160.1キロ)の直球を投げ込み、2種類のスプリットも効果的に使い分けながら、5回までは1失点に抑えた。今季の登板のなかでも、内容は確実によかった。だが、6回に連打から逆転打を浴びると、デーブ・ロバーツ監督に交代を告げられた。

 試合後、佐々木は「今シーズンのなかではよかったほうだったと思います」と振り返りながらも、「まだまだ全然。ほど遠いと思います」と、自らが理想とする完成形との距離を口にした。さらに、「時間自体は僕のなかでだいぶかかっているので、ちょっと苦しい状態ではある」ともつけ加えた。今季ここまで7試合に先発し、1勝3敗、防御率5.88である。

 現在、ドジャースのローテーション争いにおいて、佐々木は厳しい立場に置かれている。大谷翔平は6試合に先発して防御率0.97、山本由伸も7試合で防御率3.09と安定した投球を続けている。さらに、サイ・ヤング賞2度の左腕ブレーク・スネルが負傷者リストから復帰。

7試合で防御率2.72だったタイラー・グラスノーは腰痛で15日間の負傷者リスト(IL)入りしたものの、最短復帰が見込まれている。加えて、佐々木とローテーション枠を争うと見られていた左腕ジャスティン・ロブレスキは、7試合で5勝1敗、防御率2.42と結果を残している。

 この状況を踏まえると、グラスノー復帰後、佐々木はエミット・シーハンと6番手争いを強いられる可能性が高い。シーハンは7試合で防御率4.79と数字自体は平凡だが、FIP(守備の影響を除き、投手が直接コントロールしやすい三振、四球、本塁打などで評価する指標)やSO/BB(奪三振数÷与四球数)などの指標では、佐々木を明確に上回っている。

【ベテラン記者が回想する高校時代の衝撃】

 そもそも佐々木は6番手争いをするような投手ではない。本来は、100マイルの直球を武器にMLBを圧倒したジェーコブ・デグロム級とも評された怪物素材である。だが現在の佐々木は、直球の球威低下と制球難に苦しみながら、本来の自分を取り戻そうともがいている。5月2日のセントルイス・カージナルス戦後、ローテーションを守るプレッシャーについて問われると、佐々木はこう語っていた。

「ひとり入れば、誰かひとりが抜ける形になる。ただ、自分のパフォーマンスに集中しなきゃいけないですし、よりよいピッチングをしなきゃいけないというのは、どんな状況でも変わらない。自分のパフォーマンスを出せることに集中して、あとは僕がコントロールできることではないので」

 実際、ドジャースはここまで辛抱強く、佐々木にチャンスを与え続けている。

 そんな佐々木を、一度マイナーに送って土台から作り直すべきだと主張し続けている記者がいる。長年、『ロサンゼルス・タイムズ』紙で健筆をふるい、現在は『カリフォルニア・ポスト』に所属するディラン・ヘルナンデス記者だ。

 彼が初めて佐々木を見たのは、2019年夏の岩手県大会1回戦だった。当時、まだ高校生だった佐々木は、その試合でわずか2イニングしか投げなかった。それでも、ベテラン記者の目には「普通ではない投手」として強烈に焼きついたという。

「スカウトじゃなくてもわかる時があるんです。高校でも大学でも、"あ、これはメジャーリーガーになるタイプだ"って。でも朗希は、そのなかでも明らかに違った」

 最初に目を奪われたのは、豪速球以上に身体の使い方だった。高く上げた左足、崩れないバランス、そして軽く腕を振るだけで150キロ台を連発する異様な出力。その試合はコールドゲームだったが、ヘルナンデス記者の印象に最も残ったのは、実は打席後の走塁だったという。

「二塁打か三塁打を打った時の走りが、本当に美しかった。投手なのに、身体全体の動きが違う。普通の投手じゃないと思った」

 それは、ヘルナンデス記者が初めて大谷を見た時の感覚にも似ていたという。2017年、初めて見た大谷の打席はただのショートゴロだった。

しかし、一塁へ走る姿を見た瞬間、「アスリートとしての格が違う」と直感した。佐々木にも、同じ種類の特別さを感じたのである。

 当時、日本球界に詳しいメジャーリーグのスカウトたちも、その才能に衝撃を受けていた。もしアメリカ人として育っていたなら、MLBドラフト全体1位候補になっていたと見る関係者は少なくなかった。さらに、千葉ロッテで完全試合を達成するなど、圧倒的な投球を見せていた2023年頃の佐々木を見たMLB球団幹部は、「あのストレートはデグロム級」と評した。実際、ドジャースの入団会見でも、球団幹部は佐々木をポール・スキーンズ級の素材として紹介していた。

【球速が上がっても捉えられるデータ的根拠】

 しかし今、米球界では佐々木に対し、「本当に怪物なのか」という見方も徐々に広まりつつある。ヘルナンデス記者は言う。

藤浪晋太郎タイプではないか、誰が佐々木を先発投手になれると思っているんだ、という声も出始めています。でもそれは、本来の佐々木朗希を知らないからなんです」。

 問われているのは、怪物素材である佐々木をどう扱うのかというドジャースの姿勢だ。

 千葉ロッテ最終年の2024年、佐々木は球速低下に悩んでいた。

翌2025年にMLBへ移籍する際、自身を再生させてくれるチームとしてドジャースを選んだ。だが、メジャー1年目は故障もあり、10試合登板、8先発にとどまり、防御率は4.46。それでも、ブルペンが不安定だったチーム事情から一時的なリリーフ転向を受け入れると、ポストシーズンでは9試合に登板し、防御率0.84、3セーブと期待に応えた。その功績もあり、球団は今春のオープン戦で4試合、8回2/3を投げて防御率15.58と苦しんだ佐々木を、開幕ローテーションに入れた。

 だが、開幕後も最初の4試合で5回まで投げたのは1度だけ。防御率は6.11だった。その後は3試合続けて5回以上を投げ、5月2日のカージナルス戦では初めてクオリティースタート(先発投手が6イニング以上を投げ、自責点3以下を記録すること)。改善していると見ることはできる。だが実情は、球速差をつけたスプリットやスライダーで打者をかわしながら、なんとか試合を作っている状態に近い。

 MLBのデータサイト『ベースボール・サバント』を見ると、現状の佐々木の直球が置かれている状況がよくわかる。平均球速は97マイル(156.1キロ)台で、メジャーでもトップクラスだ。しかし、空振り率は14.7%にとどまり、被打率は.375、長打率は.672と厳しい数字が並ぶ。

つまり、よい時の速球の"質"ではない。運悪くヒットになっているのではなく、打者にしっかり捉えられているのである。

 空振りを取れる直球には、いわゆる"伸び"を示す縦変化量、IVBが重要になる。佐々木の直球は15.4インチ(39.1センチ)で、平均比ではマイナス0.7。対照的に、チームメートの救援左腕アレックス・ベシアは21.5インチ(54.6センチ)、平均比プラス5.5を記録している。ベシアの直球の平均球速は91.2マイル(146.7キロ)ながら、空振り率は24.6%。球速だけでは直球の威力を測れないことがわかる。佐々木の直球は、2025年の平均95.9マイル(154.3キロ)から、今季は97マイル台へ上がっている。だが、被打率は前年の.256から.375へ、長打率も.500から.672へ悪化した。

 速くはなっている。だが、打者が差し込まれない。メジャーの打者には捉えられてしまう97マイルなのである。

 そのことは、佐々木本人が一番わかっている。メジャーで理想とする投手像にどれだけ近づいているかを問われると、前述の通り、「ずっと苦しい状態ではある」と語った。単なる結果への不満ではない。もっと根本的な、自分の身体を思うように扱えない苦しみが、そこにはある。

つづく

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