阪神タイガース原口文仁インタビュー(後編)

 2026年シーズン、阪神は球団初の連覇に向け、巨人、ヤクルトと激しい優勝争いを演じている。育成契約からはい上がり、大腸がんを乗り越えて18年ぶりのリーグ優勝も経験、その半生を新著『道なき道を 大腸がんという宿命を使命に変えて』(集英社)に綴った原口文仁氏は、後輩たちの戦いをどう見ているのか。

主軸の佐藤輝明、森下翔太、大山悠輔の進化、梅野隆太郎と坂本誠志郎の捕手論、そして優勝を引き寄せる「最後のピース」まで、阪神で16年間過ごしたOBならではの視点で、今後の戦いを読み解いてもらった。

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【2026年ペナントレースを展望する】

── 現在、タイガースはジャイアンツ、スワローズと三つ巴の激しい優勝争いを繰り広げています。ひとりのOBとして、ともに戦ってきた後輩たちのペナントレースをどういう思いで見つめていますか。

原口 もちろん、選手個人のポテンシャルを見たら、みんなが期待しているような圧倒的なものを本来は持っているのですが、まだチーム全体としてすごくバイオリズムがいいわけではありません。そのなかでこの上位の位置に踏みとどまれているというのは、やはり「選手層の厚さ」があるからこそだと感じます。

 打線のかみ合わせや先発陣の復調、そして昨年から勤続疲労がある中継ぎ陣のやりくりなど課題はあるけど、これらが改善されれば、本来持っている選手の力が存分に発揮されます。なかなか波に乗りきれない時期でも、これだけ勝てているのは育ってきた選手たちの実力です。ここから役者がそろってかみ合えば、ドーンと一気にいけるチャンスは十分にあると思っています。

── チームの主軸である大山悠輔選手、佐藤輝明選手、森下翔太選手という、生え抜きの日本人クリーンナップはどう見ていますか。

原口 非常にすばらしいですよ。これだけ安定して主軸として成績を残せるというのは、本当に立派なことです。阪神タイガースという球団は、いい意味で「静かに野球をやらせてくれない」環境です。メディアやファンの注目度が桁違いに高い。

これはタイガースの宿命でもあり、同時に大きなやりがいでもあります。

 その環境を意気に感じて、情報の取捨選択をどうするかが大きなポイントですけど、彼らはそれを克服して結果を出し続けている。人間としても野球選手としても、本当に大きな力を蓄えて一人前に成長したなと、後輩ながら頼もしく思っています。

── 佐藤選手や森下選手はタイトル争いにも絡む活躍を見せています。元チームメイトの視点から見て、今年の彼らの技術的な変化やすごみはどこにありますか。

原口 テル(佐藤輝明)に関しては、打率をしっかり残せている点が進化です。本人に聞くと「ポイントを近くして、身体の近くまでボールを呼び込むようにした」と言っていました。ひきつけて打てるようになったことで、外角の球を逆方向にしっかりコンタクトできていますし、甘い球は圧倒的なホームランにする。手先で打つのではなく、体幹や胴体の回転という「軸回転」で力強く振れているので、去年よりもすごみが増していますね。

 翔太にしても、年々キャリアハイを更新していて、今季は前半戦ですでに20本塁打をクリアしました。オフから取り組んでいる体重移動の配分やバットの軌道が、彼自身の感覚として見事にハマっているのだと思います。

── 5番を打つ大山選手の変化はいかがでしょうか。

原口 悠輔に関しては、今年のキャンプで見た時から変化を感じていました。昨年までは、まだ若かったテルや翔太を助けようと、少し制約をかけながら打席に立っている部分がありました。でも、今年はふたりが一人前に育ったことで、悠輔自身が「自分のバッティング」に100%フォーカスできています。

 若い頃のようにしっかりバットを振って遠くに飛ばす、身体全体を使ったスイングがキャンプから戻っていました。今年もクリーンナップの3人全員が打っていますし、それぞれが20本、30本と本塁打をクリアする可能性を持っています。お互いを支え合う時期を乗り越えて、3人がもうひとつ上のレベルに行っているなと感じますね。

【個性が光る強力クリーンナップ】

── 報道を通じて見る姿と、同じユニフォームを着ていたからこそわかる彼らの素顔や性格について教えてください。

原口 悠輔はすべての野球選手、そして子どもたちにとっての最高の見本です。練習に対する姿勢もそうですし、試合でどんな凡打になっても絶対に一塁まで全力疾走する。この143試合ある長いシーズンのなかで、当たり前のことを当たり前に積み重ねられるのが彼のすばらしい性格であり、野球への姿勢です。

 テルは、自分のペースやコンディションをしっかり把握していて、決して流されない強い「個の軸」を持っています。プレッシャーのきついタイガースで活躍するうえで、一番重要な要素を彼は1年目から持っていました。西宮という地元で育った環境も影響しているのかもしれません。

そして翔太は、とにかく天真爛漫(笑)。喜怒哀楽がすべて身体からあふれ出てしまう。メンタル面でもまだ伸びしろがありますから、悠輔やテルの背中を見て、次の世代を引っ張るチームの鏡になっていってほしいです。

── 新刊『道なき道を 大腸がんという宿命を使命に変えて』でも原口さんとの深い絆が描かれていた梅野隆太郎選手、そして坂本誠志郎選手というふたりのキャッチャーについてはどう見ていますか。

原口 僕も一緒に切磋琢磨してきたキャッチャー陣なので、ふたりの特徴や性格はよく知っています。12球団を見渡しても、これほど贅沢なキャッチャー陣はいません。ウメ(梅野隆太郎)、誠志郎、そして伏見(寅威)さんも含めて、3人ともどこの球団に行っても間違いなくレギュラーとして出られるレベルの技術、配球、ピッチャーからの信頼を持ち合わせています。ポジションがひとつしかないので、チームとしては本当に贅沢な悩みですね。藤川球児監督もピッチャーとの相性や勝てるキャッチャーを最優先に、いろいろ頭を悩ませながら起用しているのが見えます。

── 梅野選手と坂本選手、キャッチャーとしてのタイプはどう違うのでしょうか。

原口 誠志郎は「根っからのキャッチャー」というタイプです。視野が広く、周囲への目配りや気配りがものすごくうまい。

グラウンド上で常に冷静で、インサイドワークや配球の組み立てに非常に長けているからこそ、チームのキャプテンもまかされています。

 一方のウメは、「ピッチャーをグイグイ引っ張っていく」キャッチャーです。強い意志で引っ張ってもらいたいタイプの投手には最高の後押しになります。何より、身体能力とキャッチャーとしての技術の高さが群を抜いています。キャッチャー出身の選手はフットワークが少し鈍かったりすることがあるのですが、ウメはノックを見ていても足さばきやグラブさばきが内野手並みにうまい。だからこそ、数々の悪球やワンバウンド処理で、どれだけチームのピンチを救ってきたかわかりません。

 ふたりともゴールデングラブ賞を獲得している高レベルな争いだからこそ、次世代を担う若いキャッチャー陣がこの高い壁をどう脅かしていくかが、今後のタイガースの大きな課題になってくると思います。

【猛暑の夏戦線を勝ち抜く秘策】

── これからいよいよ勝負の夏場を迎えます。タイガースがこの三つ巴の戦いを一歩抜け出すための秘策はどこにあると考えていますか。

原口 キーになるポイントだと感じるのは「下位打線の機能」です。もちろん1番、2番の出塁率が上がれば、翔太、テル、悠輔のクリーンナップは間違いなく生きます。ただ、チームが本当に強い時というのは、例外なく下位打線が活発に機能してチャンスを上位へつないでいるんです。

(前川)右京や(熊谷)敬宥、(髙寺)望夢、(福島)圭音、あるいは立石(正広)など、若手やバイプレーヤーが下位打線にハマって、そこをどう活性化できるか。これが後半戦の大きなカギになります。

── 投手陣に関しては、いかがでしょうか。

原口 ピッチャー陣に関しては、リハビリを乗り越えた(髙橋)遥人が一軍のマウンドで頑張ってくれていることが、現時点でチームにとって計り知れないプラス要素になっています。ここからは、長年ローテーションの軸としてしっかり成績を残してきた(才木)浩人と(村上)頌樹のふたりの「もうひと踏ん張り」に期待したいです。

 現在はなかなかふたりに勝ち星がついていない状況なので、そこをいかに打線がカバーして彼らに白星をつけられるか。浩人と頌樹に勝ち運が乗ってくると、チームとしてはめちゃくちゃ大きいです。

 あとは中継ぎ陣ですね。勝ちパターンの型に、もう一枚新しい名前がガチッとはまって出てきてくれると、後半戦に向けて首脳陣もかなり戦いやすくなるはずです。藤川監督も、起用方法を見ていると必死にそこをつくり、探そうとしている意図が伝わってきます。

── 雨天中止分の振り替えなどもあり、9月にはさらなる過酷な戦いが予想されています。最後の最後までもつれる予感もありますね。

原口 そうですね。このチーム状況で今の位置に踏みとどまれているわけですから、チームの底力は本物です。(近本)光司の復帰は、打って、守って、走れるリード・オフ・マンが帰ってくるということなので、他球団に比べてもアドバンテージは非常に大きいです。

 このまま秋口までかなり競り合うスリリングな予感はしますが、今はとにかく投手陣の再整備と、下位打線の活性化。後輩たちがプレッシャーを跳ね除けて、最高の歓喜をファンの皆さんに届けてくれることを、ひとりのOBとして信じて応援しています。


原口文仁 (はらぐち・ふみひと)/1992年3月3日生まれ。埼玉県出身。帝京高校3年の2009年、夏の甲子園大会出場。同年ドラフト6位で阪神タイガースに入団。ケガの影響で13年から育成契約となったが、16年4月に支配下登録に復帰すると、強打の捕手として活躍。5月には、育成契約を経験した野手では初の月間MVPを受賞。19年1月、大腸がんを公表。同年6月に一軍復帰し、代打サヨナラ安打を放つなど奇跡の復活を遂げると、7月のオールスターゲームでも2試合連続の本塁打を記録。不屈の精神で病を乗り越えた姿は、多くのファンに勇気を与えた。20年からは代打の切り札として勝負強さを発揮し、23年には38年ぶりのチーム日本一に貢献。25年シーズンをもって、16年間の現役生活に幕を下ろした。引退後は、野球界と社会への貢献を軸に、講演活動やメディア出演を行なっている

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