アジア太平洋地域は、世界で最も台風の脅威にさらされている。フィリピンには年間20個前後、中国南部や台湾、日本にも毎年複数の台風が襲い、被害が出ている。
同地域の台風など自然災害による経済損失は深刻だ。国連防災機関(UNDRR)やアジア開発銀行(ADB)の推計では年間損失が約650億ドルにも達するといい、しかも保険でカバーされるのはわずか9%程度。残りは政府、企業、そして個人が直接負担しており、災害は国家財政と社会の安定を揺るがす構造的なリスクとなっている。
こうした中、各国の防災力には大きな差がある。日本は観測網、警報システム、防災教育が世界最高レベルに達し、避難計画も詳細だ。中国は巨額のインフラ投資と強力な国家動員で脆弱(ぜいじゃく)性を低減し、都市部では洪水対策が急速に進んでいる。韓国はITを活用した警報システムが高度で、台湾は住民参加型の防災が浸透している。
一方、フィリピンやベトナムなど台風常襲国では、コミュニティ防災が進むものの、貧困やインフラ不足が大きな制約となっている。警報が届いても避難できない人々が存在し、情報が届かない地域も多い。災害が起きるたびに復旧が遅れ、次の台風が来る前に十分な対策ができず、災害の連鎖が常態化しているのが現実だ。
この各国間での“防災格差”は、アジア全体のリスクを高める要因だ。台風は国境を選ばず、フィリピンで発生した台風が台湾、中国、日本に進むことは珍しくない。ある国の脆弱性は別の国の被害につながるので、地域の安全保障を考えるなら、アジアは防災を国家単位ではなく、共通課題として捉える必要がある。
その中で、最も費用対効果が高い国際協力分野が「早期警戒システム」とされる。衛星データ、レーダー観測、人工知能(AI)による進路予測などを共有することで、人的被害を大幅に減らすことができる。日本の気象衛星「ひまわり」や高性能レーダーは世界トップレベルであり、世界気象機関(WMO)などが共同設立した台風委員会(Typhoon Committee)を通じて域内に展開されている。
しかし、技術だけでは不十分だ。警報が届いても避難できない人々がいる限り、被害の拡大は止まらない。避難所の整備、貧困層への支援など「ラストワンマイル」の課題は国際協力の中でも最も難しい領域だ。ここには資金・人材・制度の支援が不可欠だ。
これらを支える資金面の課題も大きい。アジア太平洋地域の気候変動対策には年間1000億ドル以上が必要とされるが、実際の資金はその3分の1程度にとどまる。
台風は国境を越え、気候変動も国境を越える。だからこそ、アジアの防災は国家の努力ではなく、地域全体の共通問題と捉えて対策を講じることが求められる。
今後10年でアジア各国がどれだけ相互協力できるか、それが将来の被害規模を大きく左右する。災害被害の連鎖に飲み込まれるか、それとも強靭(きょうじん)な連携した地域社会を築けるのか、それは政府や住民の選択にかかっている。











