近年、高額な報酬と引き換えに詐欺・強盗といった犯罪行為の実行役を募集する「闇バイト」が社会問題となっている。「闇バイト」という言葉が広く認知されるきっかけとなったのが、2022年から2023年にかけて日本各地で発生した同一グループによる「広域連続強盗事件」だろう。

 同事件では、人気少年漫画『ONE PIECE』のキャラクター名である「ルフィ」を名乗る4人の指示役と実行役の44人が逮捕され、事件の規模の大きさに世間は騒然となった。『「ルフィ」の子どもたち』(扶桑社)は、44人の実行役のうちの9人と類似犯3人、そして指示役1人の人生に焦点を当てたルポルタージュだ。

 闇バイトの恐ろしさは、幅広い世代にとって欠かせない情報ツールとなったSNSなどを通じて、どんな人間でも簡単に裏の世界に引きずり込んでしまう点にある。逮捕された「ルフィの子どもたち」の中に現役自衛官が含まれていたというニュースは、世に大きな驚きをもって受け止められた。

 自衛官の名前は、中桐海知。千葉県大網白里市で起きたリサイクルショップの強盗致傷事件で、実行犯たちの運転役を務めた人物だ。当時の中桐は陸上自衛隊に所属する3等陸曹だった。平均年収は360万円程度で、努力すれば幹部に昇進する可能性もあった。

 しかし、ギャンブルなどでつくった約430万円の借金が上官に発覚したことをきっかけに、中桐は自衛隊の所属部隊から無断離脱。SNSで闇バイトを検索した彼は、ルフィの一人とみられる指示役と接触し、後の強盗致傷事件への関与につながった。

 やりきれないのは、中桐だけでなく彼の家族も責めを負ったことだ。事件で被害に遭ったリサイクルショップの店主は語る。

「ご両親と2人の弁護士がこの店を訪ねてきて。両親は平身低頭で『申し訳ありません、申し訳ありません』と何度もお詫びをしていかれた。ただ、彼(中桐)本人からは、8月の判決後もなんの連絡もありません。手紙なんかも来てないですね」(本書より)

 現役自衛官ということで「ルフィの子どもたち」の中でも特に注目を集めた中桐。それとはまた違う理由で注目を集めた「子ども」もいた。ルフィグループの幹部たちと同様に、フィリピンで犯罪行為に関与していた寺島春奈と熊井ひとみである。この2人の女性は漫画『ONE PIECE』に登場するキャラクター「ナミ」になぞらえられ、ネット上で面白おかしく囃し立てられた。

 寺島と熊井はどちらも騙されてルフィたちと関わりを持ち、フィリピンで「かけ子」の役割を担わされた。熊井のケースでは、キャッチをしていたSから「テレフォンアポインター」の仕事を紹介され、フィリピンへ渡航したという。

 騙されたことに気づいた熊井はささやかな抵抗を試みたものの、ルフィグループ幹部の脅しに屈した。これだけ聞くと被害者に思えるが、熊井は逃げ出す手段と機会に恵まれていたため同情はできない。スマホを取り上げられていなかったので母親とは定期的に連絡が取れたし、グループの拠点が現地警察に摘発されたことで幹部の恐怖や脅しによる支配も遠のいたのだ。

「このタイミングで現地の警察に出頭するという選択肢もあったはずだが、熊井が選んだのは、かけ子を続けることだった」(本書より)

 熊井を繋ぎ止めたのは、かけ子グループのリーダーだった藤田海里の存在だ。藤田も「高額バイト」の誘いによりフィリピンに渡航しており、似た境遇の2人は自然と男女の仲になった。熊井と藤田は子どもをもうけており、罪を償ったあとは親子3人での生活を希望しているという。

 フィリピン当局に拘束されながらも、看守たちを買収して収容所内でも特殊詐欺を続けていたルフィグループ。しかし日本では特殊詐欺対策が進み、収益が減少したことで、ルフィグループは強盗という強硬手段に打って出る。

「暗黙の了解として人を殺めてしまったら、警察が一気に動く。世間が許さないからだ。その結果、自分で自分の首を絞めてしまう。(中略)強盗というのは頭の悪い、下の下がやることだよ」(本書より)

 取材でそう語ったのは、かつて裏社会に身を置いていた経験のある男性だ。

 なぜルフィグループは収容所内でも特殊詐欺を続け、強盗へと踏み込むほど追い詰められたのか。ルフィらは多くの「子どもたち」の人生を破壊したが、彼ら自身もまた、より大きな犯罪組織の捨て駒に過ぎない可能性が高いという。ルフィグループは、大きな犯罪組織の中の特殊詐欺を担当する一部隊とも言われているのだ。

 真の黒幕は、今も虎視眈々と新たなルフィと子どもたちを生み出そうと目論んでいるかもしれない。自分や大切な人を守るためにも、本書を通じて「闇バイト」の危険性を正しく理解してほしい。

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