「サークルクラッシャー」とは、男子の集団にひとり入りこみ、色恋沙汰を起こして集団を崩壊させる女子のこと。最初に観測されたのは、ゲームセンターの音ゲーの男子コミュニティに入った女子だとか。
それを機に意外といろいろな男子コミュニティに存在することが認識されるようになった。名付け親は評論家の宇野常寛と言われる。
この厄介なサークルクラッシャーをやっていた女性・鶉まどかが、その実体を赤裸々に描いた本が「岡田斗司夫の愛人になった彼女とならなかった私 サークルクラッシャーの恋愛論」だ。鶉はこの本で、今年前半大問題となった岡田斗司夫の愛人事件をとりあげ、それとサークルクラッシャーという現象は地続きであり、深刻な社会問題とも密接に関係していると説く。
いったいどんな関係があるのか? そして、サークルクラッシャーをやる女性とはどんな人なのか? 興味津々で会いに行ってみた。
岡田斗司夫愛人事件とサークルクラッシャーは社会全体の問題である
『岡田斗司夫の愛人になった彼女とならなかった私 サークルクラッシャーの恋愛論』鶉まどか/コア新書

ある高名な先生に誘われて断ったことが著者(元サークルクラッシャー)が、岡田斗司夫愛人事件を客観的に見て、愛人をつくる男、サークルクラッシュする女、それに騙されてしまう男や女、それぞれの立場にたって、なぜこういうことが起るのか考え、派手な恋愛イベントはなくても、ただ相手を思い合う恋愛をする方法を提案する。人気ブログに大幅に加筆、再構成している。

世の中に多く存在する“岡田斗司夫的な男性”について書きました


──この本、タイトルにものすごくインパクトがありますよね。最初、鶉さんも岡田斗司夫の愛人にされそうになったの? と思っちゃいましたが、違うんですよね。
このタイトルを使うのは、ある種の釣りっぽい感じもしますし、これを使うリスクはなかったですか?
 当然リスクもありました。実際、この本の元になっている私のブログは、このタイトルを使っていたため、めちゃめちゃ炎上して、バッシングもすごく受けました。7割は男性でしたね。私はその記事で、世の中に多く存在する“岡田斗司夫的な男性”について書きました。さらに、どう見たって危ない岡田斗司夫的な男の人に、私と同年代の女の子がひょいひょいついていってしまう背景には、同年代の男の子たちの臆病さみたいなものがあるのではないか? といった趣旨のことも書いたんですが、男性から「これだから女は!」みたいな感じでバッシングされました。でも私は、それだけバッシングされるというのは、そこに真実があるからではないかと思ったんですね。
痛いところを突かれたから過剰に反応しているのではないか、と。だから、たしかにリスクはあると思いますが、“岡田斗司夫問題”はそもそも岡田斗司夫と女の子たちのことだけの問題ではなく、社会全体の問題であるということを語るためには、このタイトルが最適だろうと思っています。
──岡田斗司夫個人の問題ではなく、社会的な問題であると。
 私自身がかつてサークルクラッシャーをやって、クラッシャられる男の子たちを何十人も見てきたなかでそう感じました。いま、恋愛したいと思う男の子がすごく減少しているそうです。恋人がいたことがある男の子が、20代だと50%切りつつあって、日本の出生率が下がっている原因のひとつにもなっている。
興味深いのは、恋愛したくないと語る男の子たちがこれだけいる一方で、サークルクラッシャー的な人に引っかかっちゃうひとが後を絶たないことです。その端的な事例が、木嶋佳苗事件です。彼女は決して美人ではないし、傑出した何かがあるわけでもないのに、モテない3、40代の男の人たちからたくさん貢いでもらっていた。それに類似した、出会い系サイトで知り合った男女間における事件というのもよく起きています。そうした事件やトラブルが頻発する理由を考えてみたくてブログを書きはじめました。そうしたら、その記事を読んだ出版社の方に、本にしませんかと声をかけて頂いたんです。

岡田斗司夫愛人事件とサークルクラッシャーは社会全体の問題である
うずら・まどか
1990年東京都生まれ。元サークルクラッシャー。現・OL。大学時代、サークルクラッシャーとして活動、約2年間で5つのサークルを解散させた。ブログ「あの子のことも嫌いです」
http://uzuramadoka.hatenablog.com/entry/2015/01/11/224005
を開設、数ヶ月で 100万PVを集める。

「自分の居場所」をみんな求めている


──現在、OLさんということで、会社の仕事をしたあとにブログをせっせと書いていたのですか?
 はい。昼間働いているのでさすがに毎日更新は厳しくて、せめて週1で更新しようと思って、お休みの日にちょこちょこ書きためたりしていました。でも、もともと文章を書くことは嫌いじゃないので、ぜんぜん苦じゃなかったです。
──それはすごい。
 就活の話もブログに書いています。いま、就活は20代の子たちにとってすごく重要な問題で、これは本書のテーマである恋愛とも無関係ではありません。就職先にしても恋人にしても、「自分の居場所」をみんな求めているんですよね。
就活で失敗し続けると、自分を否定されたような気持ちになってしまうのは、恋愛と同じですよね。
──「居場所」というものをテーマに据えてブログを書いていて、岡田斗司夫問題とサークルクラッシャーもそのひとつであったと。
 そうですね。サークルクラッシャーの私に引っかかる男の子たちは、何を求めていたのだろうと考えたとき、まず「居場所」なんです。自分がつらいときにすがれたり、自分の本心を明らかにしても嫌わないでいてくれたり、自分を受け入れてくれる「居場所」を求めている印象がすごく強かった。逆にいうと、居場所がなくなること、あるいは居場所から拒絶されることをすごく恐れている。
だから、居場所を失うことを意味する失恋が怖くて恋愛に向かえないし、居場所を失うことが怖いから就職した先がブラック企業であったとしても、そこから逃れられないのだと思うんです。
──ちょっと「ありがとう」とか言われただけで、ここが「居場所」とすがってしまうことってありそうです。
 そうなんですよねえ。居場所を求めることだけに捉われていると、それこそ岡田斗司夫的な人やサークルクラッシャー的な、瞬間的に居心地のよさを提供してくれるような存在であったり、ブラック企業のように、やり甲斐や存在価値のようなものを提供してくれる存在に簡単に引っかかってしまって、その結果、苦しい目に遭ってしまう。最初は良くても結果的には自分をより追いつめてしまうんですね。こうした悪循環から楽になってもいいんじゃない? というようなことを発信できたらという思いがありました。

超天然な子も実際いますよ


──鶉さんは「元サークルクラッシャー」ということですが、いまの会社ではサークルクラッシャー的なことはしないんですか?
 してないです。私の会社、7割が女性社員ですし、私の部署の男性は、既婚者ばかりです。それに、サークルクラッシャーとして振る舞うことはすごく疲れるので、もうしたいと思いません。サークルクラッシャーは、自分を抑えて相手の思う通りに振る舞ってあげなくてはいけないんです。言ってしまえば、Googleみたいな検索エンジンです。あれって何度も検索すると、それを参考にして、広告とかに自分が欲しそうなもの出してくるようになるじゃないですか。あれといっしょなんですよ、サークルクラッシャーがやってることは。相手に関する様々なキーワードから、相手が欲しがっている言葉や態度を事前に推測して、それをその通りに提示していく。それはものすごく疲れることです。だからそういうのはもういいかなといまは思っていて、その点、いまの会社はそもそも既婚者の男性と女性ばかりなのでクラッシュのしようもなく、逆にナチュラルでいられるんです。
──会社のひとには無理して好かれようとはしない?
 そうですね。これまでの経験を通して、誰かの理想どおりになって完璧に好かれることなんてできないことに気づいたというのもあります。それに気付くまでに25年もかかりましたが(笑)。
──いまは、渦中でなく余裕な感じなのですね。
 渦中だったら書けなかったと思います。たぶん「サークルクラッシャー」という肩書きで、サークルクラッシャー現象を語れる子はいないですよ。自分がサークルクラッシャーであることを認めたらサークルクラッシャーになれない。そうしたら、みんなに避けられちゃいますからね(笑)。
──「自分を抑えて相手の思う通りに振る舞う」ということで、鶉さんの著書を読むと、相手をリサーチしてその人に会う話題を考えていて、サークルクラッシャーってすごくがんばっているんだと感心しました。私は、サークルクラッシャーとは天然で、何も考えてないのにみんなが寄ってきて大変なことになるのかと思っていたのですが、みんな策士なんですね。
 はははは。そうですね。天然の子ももちろんいます。ぽわーんとしながら、あっちにもこっちにも行ってみんなに好かれて、結果的に、あれー、なんでみんなバラバラになっちゃったの? なんて自分のしたことを理解してない超天然な子も実際いますよ。
──鶉さんは天然ではなく、がんばりやさんですね。
 がんばりやさんです。はは・・・がんばり過ぎました(笑)。
──本を読んでいると、きっと何事にもがんばる人で、たまたまサークルクラッシャーが、がんばりのテーマになったのかなとも思えました。本にはダイエットのことも書いてあって、それもすごくがんばっていて。実際こうしてお会いしてみたら、細いですね。
 いやいやいやいや、そんなそんな(笑)。
──1年で10キロ減でしたっけ。
 はい。昔の写真とか見ると、誰これ? って言われるくらい。卒アルの写真とか別人です(と言って、昔の写真が写ったケータイを見せてくれる)。
──昔の写真を持ち歩いている。
 ちょっと食べ過ぎだなって思ったときは、これを見て、自分に喝を入れています。
──ダイエット本もきっと書けますね。
 第2弾はダイエット本で行きますか?(笑)。
──ふっくらしているけどかわいいじゃないですか。
 いや、これこそ、すれ違い様に「ブス」って言われた頃ですよ(このエピソードも本に収録されている)。

レコーディングダイエットもしていました


──本を読んでいて面白かったのが、ご自身の労力を「カロリー」で表現していて、「カロリー」って言葉がよく出てくる。デートにカロリーを使うとか。やっぱりダイエットしていたから、なんでもカロリーに換算してしまうのでしょうか。
 カロリー気になりますね(笑)。書いてあると必ず見ちゃいます。でも、カロリー高いものって美味しいんですよ、基本的に。ラーメン、焼き肉、お菓子・・・どれも美味しいじゃないですか。その分太っちゃうし、消化にも悪いんですけれど。私の書くカロリーってようは消化するために必要な労力のことです。いま恋愛をしないひとが増えているのは、低カロリーで楽しめるコンテンツが増えたことで、相対的に恋愛のカロリーが高くなってしまっていて、それを消化できないという人が増えているからじゃないかと思ってます。
──細かくカロリー計算をして、ダイエットしていたんですか?
 しましたねー。実は、岡田斗司夫さんの書いていたレコーディングダイエットもしていました(笑)。
──あ、そこに岡田斗司夫さんとの繋がりがあった!
 まさかのそこかよっていう(笑)。あのダイエット本は役に立ちました。だから私は岡田斗司夫さんってすごい人だなーと思っていたんですよ(笑)。

岡田斗司夫を概念的な意味合いで本のタイトルに使った鶉まどか。彼の愛人問題とは直接関係ない彼女ではあったが、極細い繋がりがあった。岡田斗司夫ではないが、鶉は別の大物文化人に愛人関係を持ちかけられた経験があるそうで、ではそのひとは誰だったのか? 後編に続く!