それが今年は一味違う。
500年を超える祭の歴史で初めて、全世界にネット中継されるのだ。午後3時から中継開始、少年の部、太鼓の演奏などのあと、一番の見所は午後10時。勇猛果敢な裸祭りのクライマックスが自宅で見届けられる。
クライマックスとは
平たく言えば、群衆の中に投げ込まれた木の棒(宝木)2本を力づくで奪い合う「福」強奪合戦だ。宝木を取った男は1年間「福男」となり、福がもたらされるという。だから、必死で奪い合う。「宝木投下」に参加できるのは男性のみ、全員、裸(ふんどしのみ)だ。地元では一年かけて準備をする人もいるらしい。
「福」のためというよりその「栄誉」が大きいのだろう。古のころも、その盛り上がりは瀬戸内海を超えて四国まで届いたという。
どうやって探し出すのか
参加者、つまり裸の男だけで9000人。対して、宝木と呼ばるターゲット2本、うまい棒をやや大きくした程度の棒だ。
そんな小さなものを投げ込まれて、男たちはどうやって探し出すのか。
宝木にはたっぷりとお香の香りが染み込ませてある。手掛かりはそれだけ、ドーベルマン向けのヒントだ。その日、鼻がつまっていたら終わりな気もする。
「香り以外に、人の渦の具合に目星をつけ突進する」
と何度も「福男」になっている達人は言っていた(テレビで)。
宝木投下から福男決定まで
西大寺の本堂の大床(メインステージ)上に集まる裸の男たち。「蜘蛛の糸」に群がる亡者のごとくぎちぎちに身を寄せ、いまかいまかと目を光らせる。本堂の中は裸からたちこめる湯気でサウナのよう。そして10時、「御福窓」と呼ばれる天井付近の小窓が開く。照明は落とされるから真っ暗だ。取材のストロボが何度もほとばしる。
2004年の日本テレビ系「スーパーテレビ情報最前線」でその一部始終が放送された。
宝木が投下される直前、100本もの「串牛玉(くしご)」と呼ばれる宝木より細い木が投げ込まれる。メインより劣るとはいえこれにも福があるとされている。
人間が熱湯のごとく沸騰しきったことろで、ようやくメインの宝木が投げ込まれる。
地獄絵図。
裸の男たち全員が「攻撃色の王蟲」のような状態といえばいいのか。
毎年、エキサイトしすぎたゆえの揉めごとや、それによるケガや流血が続出するそうだ。
今年はこの場面を生中継するというから怖ろしい(見たい)
門(仁王門)を抜け境内から出ると、宝木を奪っていけないというルールになっている。
外にある宝木収納所に駆け込み一升枡に盛られた米に宝木を突き刺したらゴールだ。
達人の必勝法
宝木を手にしてもあわてて抜け出すと、それを察知した連中がすぐに襲いかかってくる。どう守るのか。 「スーパーテレビ」の取材で明かされた方法はシンプル。
隠すのだ。
「ふんどし」の中にブツを隠し、気配を消してそっと抜け出す。
神聖なる「宝木」を股間に? 勝新太郎じゃないんだから。
だが、実はこれがメジャーな「必勝法」で、何度もこの方法で福男が誕生している。ある達人は、足で踏んで隠すんだと仲間にレクチャーしていた。バチが当たらないか心配だ。
しかし、そうでもしないと「修羅の群れ」からの脱出は不可能なのだろう。
西大寺のHPには、「伝統的な行事で神聖なもの」「スポーツではありません」と注意事項が示されているのだが、「スーパーテレビ」では、達人らは仲間とスクラムを組み、手にした宝木を股間の下から次々と後ろの仲間にパスで回すという練習を繰り返していた。もはやアメフトだ。
「日本三大奇祭」とは
「日本の祭り歳時記」(講談社)によると、
・なまはげ紫灯(せど)まつ(秋田) 神事「柴灯祭」と伝統行事「ナマハゲ」を組み合わせた観光行事。なまはげが山から松明をもって下山する姿は幻想的。
・吉田の火祭り(山梨) 街のいたるところ、3.3メートルの大松明70本に火が。「御山さん」とよばれる富士山を模した神輿も。
・西大寺会陽の裸祭り(岡山)
以上を、三大奇祭としているが、巷間では、三大候補の祭りは数多く存在する。有名どころをざっとあげてみる。
・黒石寺蘇民祭(岩手県)
数年前、裸の男が蘇民袋に入った小間木を奪い合う。胸毛男ポスターをJRが拒否し話題に。
・吉祥山普光寺の浦佐毘沙門堂裸押合大祭(新潟県)
「サンヨ サンヨ」の掛け声とともに、男たちが毘沙門天を近くで参拝しようと読んで字のごとく裸で押し合う。
・浅間温泉の松明祭(長野県)
最大直径3メートルにもなる大小50ほどの松明を担いで練り歩く。炎と煙に包まれてすすまみれになることも。最後はかついだ松明を投げ入れる。
・諏訪の御柱祭(長野県)
命がけの大木運び。7年に一度。致死率ナンバー1。三大奇祭といえばこれを思い浮かべるひとは多いだろう。
・島田の帯祭り(静岡県)
両脇にさした木太刀に丸帯を下げ、蛇の目傘をさし練り歩く。
・国府宮のはだか祭り(愛知県)
福をもたらす神男に触ろうと裸男たちが群がる。
・古戸花祭り(愛知県)
40数種の「舞」が夜を徹して行われる。
・古川祭り(岐阜県)
ユネスコ無形文化遺産。裸で太鼓にぶつかり合う勇ましい起こし太鼓と、絢爛豪華な屋台の曳揃え。大ヒット映画「君の名は。」でもイメージとしてこのエリアが登場。
・鍋冠祭り(滋賀県)
数え年8つの女の子8人が、張子の鍋をかぶって、約300名の行列と共に練り歩く。
・宇治のあがた祭り(京都府)
別名「暗闇の奇祭」。深夜に沿道や家の灯火を消し梵天とよばれる神輿をぶんまわす。そもそもは、暗闇の中集まった見知らぬ男女が交わることで子どもを授かる目的が。神社同士の対立で分裂の危機に。
・太泰牛祭(京都府)
松明を持った四天王を従えた、白い摩陀羅(まだら)神の面をつけた僧が牛に乗り一巡。参拝者が悪口雑言を浴びせる。
・四天王寺どやどや(大阪府)
ふんどし一丁で御札を奪い合う。
・大避神社の牛祭(兵庫県)
お面をつけ牛に乗った摩陀羅(まだら)神が赤鬼青鬼とともに境内へ。参拝者からヤジが飛ぶなど京都の太泰牛祭と似ている。
・蛸舞式神事(鳥取県)
丸梁とよばれる丸太に、蛸役の男が張り付き、梁を回す神事。祭神が蛸に助けられた感謝を表現。
・御田祭(高知県)
有名なのが演目「酒絞り」。神の子の木偶を子宝を望む女性が奪いあう。
・大山祗神社おしろい祭(福岡県)
新米を粉にして水に溶き、顔に塗り、来年の作柄を占う。たくさんつくほど豊作。
・泥打ち祭り(福岡県)
道祖神までの道すがら人々が代宮司に泥を投げつけ、その年の豊凶を占う。泥がつくほど豊作とのこと。
……などなど。ほとんどが「裸」か「火」だ。
ちなみに、日本「三大祭り」は、京都「祇園祭」、大阪「天神祭」がほぼ固定で、3つ目は東京「神田祭」が有力だが、東北「ねぶた祭」、福岡「博多どんたく」、長崎「長崎くんち」を入れる人もいる。とにかく、「三大~」の選定はあいまいなのだ。
(アライユキコ)