決勝2本目、石焼き芋を売りながら「芋神様」になったとろサーモン久保田は、震える手でM-1優勝を神に感謝した。『M-1グランプリ2017』(テレビ朝日系列)、エントリー数4094組から漫才日本一の座に輝いたのはとろサーモン! 準決勝進出9回を経て今回初の決勝進出、15年目のラストイヤーでようやくつかんだ栄光だ。
「笑神籤(えみくじ)」の功罪
今回のM-1グランプリは、煽りVTRの復活や7人体制の審査員、客席の芸能人観覧(銀シャリとトレンディエンジェル)と、2010年以前の演出を再び取り入れていたように見えた。さらに新たに付け加えられたのが「笑神籤(えみくじ)」という新ルールだ。ネタ順を事前に決定せず、1本ごとにMCがくじで引き当てたコンビがネタを披露する。誰がいつネタを披露するかわからない。
このルールで最も影響を受けるのは「敗者復活組」だろう。例年、敗者復活組は出番が最後になるため、暖まりきった会場でネタを披露する=有利と言われてきた。「笑神籤(えみくじ)」導入により、敗者復活組もくじに含む必要があるため、番組中盤に発表されていた敗者復活組は冒頭に発表されることになったのだ。出順によるアドバンテージは効かなくなった。
ただ、この演出による思わぬ効果もあった。先に敗者復活組の発表を行ったため、中継で三四郎が「松ちゃん待っててね〜」と呼びかけたり、天竺鼠川原がポケットに手を入れたまま応対していたり、敗者復活を果たしたスーパーマラドーナがファミチキ先輩に見送られたりなど、和やかな時間を過ごしてる間にスタジオの空気はどんどん緩くなっていった。
結果、1組目のゆにばーすがネタを披露したのは番組開始から30分以上経った19時35分のこと。昨年は審査員登場と共にピリッとした空気を「これはヤバい」とコメントしていた松本人志が、今年は逆に「お客さんの反応が良すぎる」と不安視するほどに。客席の大きな笑いは、審査員の点数にも反映されたように思う。
審査員2名プラスの影響は?
前回は初の審査員5人体制(松本人志、上沼恵美子、博多大吉、中川家礼二、オール巨人)だったが、今回は新たに2人(渡辺正行、春風亭小朝)が加わり7人体制になった。ここで全ての採点を表にまとめてみよう。赤字が審査員の最高点、青字が最低点となる。審査員ごと、ファイナリストごとに平均点と標準偏差(点数のバラつき)も併せて算出した。
審査員の平均点は全員90点オーバー。合計点数は全組600点以上。高い得点水準で採点が行われた大会だったことがわかる。意外にも、優勝したとろサーモンに最高点を付けている審査員はゼロ。ファーストステージ3位通過で優勝したコンビはこれまでいなかったので、大逆転とも言えるだろう。
審査員の標準偏差(点数のばらつき)を見ると、3点台と比較的ばらつきのある松本・上沼・巨人に対し、大吉・小朝・礼二が1点台と低い。特に小朝は89点から94点まで1点刻みで採点しており、基準点からの相対で点数を付けているように見える。
ファイナリストごとの標準偏差では、和牛が1.030と最も低く、審査員全員の評価が最も一致していたと言える。逆に標準偏差の値が大きい=評価が割れたのはマヂカルラブリー(2.250)やジャルジャル(2.231)。特にジャルジャルは、最高点の95点をつけた松本が「評価が分かれる」と評した通りの数字に。敗退が決まり、今にも泣き崩れそうな福徳の隣で、審査員相手に「背筋伸びてる!」「ピン!」のやりとりを仕掛ける後藤。「おまえ……ようボケれるな今……」と息も絶え絶えにつぶやく福徳に、コンビの深い関係性を見た。
ファイナルステージはとろサーモン、ミキ、和牛の3組による最終決戦。とろサーモンに4票、和牛に3票が入った。今年審査員に加わった渡辺正行と春風亭小朝が揃ってとろサーモンに票を入れているため、去年の審査員5人体制のままだったら、とろサーモン2票、和牛3票で、和牛が優勝していたかもしれない。
去年の審査員5人体制は吉本4:非吉本1というバランスで、その偏りに懸念の声もあった。ここに渡辺と小朝が加わったことで、吉本4:非吉本3となり、関東関西のバランスも含めて調整された印象がある。ボケの手数など技術力の高い漫才と、人間そのもののおかしみが強い漫才、どちらも最高に面白いが、今回の審査では後者のとろサーモンが選ばれたという結果になった(もちろん、大吉先生が「ツカミが一番早かった」と評したように、とろサーモンも技術点は高いですよ……!)
番組ラスト10秒、「明日が楽しみです」とコメントした久保田。
(井上マサキ)