―[すこしドラマになってくれ~いつだってアウェイな東京の歩き方]―

ただ東京で生まれたというだけで何かを期待されるか、どこかを軽蔑されてきた気がする――。そんな小説家カツセマサヒコが“アウェイな東京”に馴染むべくさまざまな店を訪ねては狼狽える冒険エッセイ。
今回は特別編。あるゲストを招いて池袋の中華料理店へ。願いは今日も「すこしドラマになってくれ」

友達は本屋大賞作家【特別編】池袋駅・町田そのこ(小説家)vol.31

「小説家のご友人はいらっしゃいますか?」という質問が嫌いである。いないので。

「またそんなこと言って~。私は友達と思ってますよォ!」と笑いながらフォローしてくれる優しい先輩方の顔が浮かぶが、しかし、何度かお会いしたことがあっても「あの有名作品の著者と私が友人だなんて図々しくない?」と考えてしまって、結果的に答えは「いない」に落ち着く。人生は、傷つかないことが大切である。

 でも、強いて言えば。あの方だったら友達と言っても怒らないでくれるのではないか、と密かに思っている人がいる。『52ヘルツのクジラたち』で本屋大賞を受賞した、町田そのこさんである。

 5年ほど前に対談のお仕事をして以来、町田さんにはとても可愛がってもらっている。ここで言う「可愛がって」とは「上下関係が人間と飼い犬のようにハッキリしている」という意味である。


 町田さんの描く物語は、人の心の奥底にある傷や寂しさをそっと掬って、解放させる。

 人の心の奥底を描けるほどの観察眼を持つ町田さんは、初めての酒の席で、私の扱い方を見抜いた。

「カツセはさあ、書いてるものはいいんだけど、飲んでみるとザ・東京の若い男って感じで、薄っぺらいよね~!」

 爆笑であった。こんなに清々しくイジってくれる人に出会ったのは久しぶりで、しかし、そこに愛があるのは誰が見ても明白なことであった。

「なんすかそれ!」とキレたふりをしながら、私は飼い主を見つけたように尻尾を振ってしまったのだと思う。町田さんと私の覆りようのない関係性が決定した瞬間だった。

 そんな町田さんを当連載のゲストに招いた。指定された店は、池袋の中華料理店「沙漠之月」である。2畳程度のキッチンを囲むようにL字に組まれた6席のカウンター。日本に来て30年がたつという気さくなママさんが、その日にある食材から中国の家庭料理を提供してくれる。今回は麻婆豆腐と干豆腐とエビチリを頼んだ。

 店はたちまち満席になる。


 青島ビールを飲みながら談笑していると、突然、その場の全員が咳き込み始めた。ちょっとしたテロでも起きたかと思ったが、ママさんがエビに大量の香辛料を投下しているところだった。

 出てきた料理はどれも気を抜くと落涙するほど辛いもので、食べるほど酒が進んだ。店から青島ビールがなくなり、エビスビールに切り替えても、まだ飲んだ。2人とも、かなり酔っていた。

 町田さんは’25年だけで6冊もの小説を発表していた。どうしたらそんなに書けるのかと執筆方法を尋ねたり、本屋大賞受賞時の話を聞いたり、若い頃、恋人に決して安くないお金を渡した話などを聞いたりした。

「結果的に小説やエッセイにできるんだから、どんな経験もしていいと思いますよ」と町田さんは言うが、私はエピソードのためにわざわざ身を削りたくないと反論した。人生は、傷つかないことが大切だからだ。

 それを聞いた町田さんは、人の心の奥底を覗くような目で言った。

「カツセさあ」「はい」「だからお前は本屋大賞が取れないんだよ」

 爆笑であった。地球上で二十数人しか使うことのできない、最強の殺し文句だった。


 私は「そのマウント使うのズルいっすよ!」とキレたふりをしながら、やはり尻尾を振っていた。町田さんは「カツセさんにしか言えないからねえ」と慈愛に満ちた声で言った。狙って築ける関係ではない。そうとわかっているから、楽しい。私の友達は、本屋大賞作家である。

友達は本屋大賞作家。池袋の中華料理店で「だからお前は本屋大賞...の画像はこちら >>
<文/カツセマサヒコ 挿絵/小指>

―[すこしドラマになってくれ~いつだってアウェイな東京の歩き方]―

【カツセマサヒコ】
1986年、東京都生まれ。小説家。『明け方の若者たち』(幻冬舎)でデビュー。そのほか著書に『夜行秘密』(双葉社)、『ブルーマリッジ』(新潮社)、『わたしたちは、海』(光文社)などがある。好きなチェーン店は「味の民芸」「てんや」「珈琲館」
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