政府が訪日個人客の受け入れ再開を決めるなど、観光リスタート(再起動)の流れが鮮明になりました。日本を訪れる外国人に常に高い関心を呼ぶ鉄道の世界も、西九州新幹線開業をトップに明るいニュースがあふれます。
日本最大、アジアトップクラスの〝観光・旅行見本市〟の東京実開催は2018年以来4年ぶり。出展者は47都道府県すべてと世界78ヵ国・地域、民間1018社・団体。もちろん、鉄道界からも多くのニュースが発信されました。本コラムは会場内で見つけた、鉄道ファンの皆さんに興味を持っていただけそうな話題を、アトランダムに取りあげました。
鉄道会社は地域連携で出展
イントロは、「あらためて観光・旅行見本市」とは? 旅行者を受け入れる地域や企業が、「当地では、こんな魅力的な体験ができます」と一般消費者(旅行者)にPRするイベントです。
ツーリズムEXPOを主催したのは国内地域がメンバーの「日本観光振興協会(日観振)」、旅行会社の業界団体「日本旅行業協会(JATA)」、海外に日本の魅力を発信する「日本政府観光局(JNTO)」の3機関。
鉄道会社の出展形態では、JR東日本が東北観光推進機構、JR北海道が北海道観光振興機構、JR西日本がDISCOVER WEST連携協議会と共同ブースを構えるなど、地域連携型が目立ちました。エリアをつなぐ鉄道は、観光振興でも地域の絆なのでしょう。
「佐賀・長崎には何がある?」
EXPO一番の注目株は、もちろん「西九州新幹線開業」。開業日の2022年9月23日は、ツーリズムEXPOの開催期間に重なりました。
乗り鉄の方はさておき、一般の方の関心は「佐賀・長崎には何がある?」 JR九州は九州7県とともに、〝オール九州〟でブースを構えました(出展者名は「九州」)。
ブースで見つけた佐賀・長崎の観光をワンポイント。
小浜温泉では、Iターン・Uターンの人たちがユニークなアイスクリーム店を開店するなど、新しい魅力を生み出します。西九州新幹線の隠れた開業効果かもしれませんね。
最初は東京―神戸間の客車特急だった「かもめ」
ここで小休止をいただいて、新幹線の列車名になった特急「かもめ」の歴史。古くは戦前の1937年、東京―神戸間のSLけん引「鷗」(当時は旧漢字表記でした)として鉄道史に登場しました。
1961年のいわゆる「サン・ロク・トオ」ダイヤ改正では、京都―長崎・宮崎間のディーゼル特急に。この時、西九州との縁が生まれました。
JR九州は、485系、783系ハイパーサルーン、787系、振り子式885系と、次々に新しい車両を投入。そして今回、外装は赤白のツートンカラー、インテリアは和洋折中、クラシック・モダン、N700Sの新しい「かもめ」が飛び立ちました。
佐賀・長崎の鉄道史に関しては、ほかにも興味深い話を仕入れましたので、機会をあらためて披露します。
JR東日本は東北MaaS「よぶのる角館」
西九州新幹線を〝下車〟した後は、JR東日本と東北観光推進機構の共同ブースへ。JR東日本が売り込むのは、新幹線で出かける東北紀行です。
目にとまったのは、JR東日本が秋田県仙北市と共同で取り組むオンデマンド交通「よぶのる角館」。駅からの二次交通をデジタル化する、JR東日本の「東北MaaS」で、北東北の城下町・角館の観光を快適化します。
スマホに出発地・到着地・乗車希望時刻・人数を入力して予約完了。決済(支払い)は現金やクレジットカードのほか、Suica連動でもOKです。
瀬戸内観光は〝木製旅行かばん〟に乗って
JR西日本は瀬戸内観光をPRしました。瀬戸内を走る観光列車といえば、2016年にデビューした「La Malle de Bois(ラ・マル・ド・ボア)」。列車名はフランス語で「木製の旅行かばん」の意です。
2両編成の213系電車を改造。岡山を中心に、赤穂・山陽線日生―尾道間、瀬戸大橋・宇野・予讃・土讃線岡山―琴平、宇野間を結びます。
JR西日本と共同出展したDISCOVER WEST連携協議会は、同社と岡山、鳥取、広島、島根、山口の中国5県が主な構成メンバー。
撮り鉄ならぬ「鳥鐵」で誘客図る
JRの後は、地方鉄道のブースを訪問しました。鳥取県ブースで見つけたのは「鳥鐵ノススメ」のパンフレット。撮り鉄に引っかけて鳥取の鉄道を売り込む、同県観光連盟が編み出した誘客作戦です。鳥取を走る鉄道は山陰、因美、伯備、境のJR4線と、第三セクターの若桜鉄道、智頭急行です。
若桜鉄道隼駅はライダーの聖地。毎年8月には全国のライダーが集う、「隼駅まつり」が開催されるそう(2020年からはコロナ禍で中止または延期。復活が待たれるところです)。国鉄時代からの木造駅舎は国の登録有形文化財です。
列車へのフラッシュ撮影は厳禁
さて、鳥鐵に注目したのは冊子の巻頭に鉄道ファンのマナーが掲載されていたから。「車内では周辺の乗客に配慮」、「ホームでは黄色い線の外側にはみ出さない」は社会人の常識として、「人物を撮影するときは必ず許可を取って」、「列車へのフラッシュ発光は厳禁」は、撮影に夢中だとなかなか意識できないかもしれません。
撮り鉄の方がSNSにアップした写真を見て、新たなファンが沿線を訪れる。鉄道会社とファンが、そんなWinWinの関係になれば、鳥鐵の目的も十分に果たされるでしょう。
クラファンで「オホーツク鉄道歴史館」開設
続いては、直接の鉄道ではありませんが、北海道北見市に「オホーツク鉄道歴史記念館」開設を目指す、NPO法人・オホーツク鉄道歴史保存会の活動。個人から引き継いだ本物の国鉄車両は、ディーゼル機関車のDD14、ラッセル車のキ754、郵便車(客車)のスユ15、車掌車(貨車)のヨ4674など全部で7両。
NPOは、クラウドファンディングで開設資金を調達・募集。クラファンは数回にわたり実施するそうなので、活動を応援したい方は会のホームページをのぞいてみてください。
日本の鉄道はまだまだ元気いっぱい
ラストは、滋賀県の近江鉄道。西武グループのブースで情報発信されました。同社は米原から多賀大社、近江八幡、貴生川まで琵琶湖東岸が事業エリアで、自転車を持ち込めるサイクルトレインなどで地域観光振興に貢献します。
ツーリズムEXPOの出展者は多数にのぼり、取材したものの本コラムで紹介できなかった鉄道会社が多数あったことをお許しください(一部は写真で紹介させていただきました)。会場で感じたのは、「日本の鉄道はまだまだ元気いっぱい」。本コラム、そしてツーリズムEXPOが、ファンの皆さんの豊かな鉄道ライフにつながることを願ってビッグサイトを後にしました。
記事:上里夏生