次代を担う逸材たち~アマチュア野球最前線 第4回
日本ウェルネス沖縄・長山武蔵&都城・高田瑛大

 41人の精鋭たちがウォーミングアップする様子を観察していると、隣に立ったプロ球団スカウトがこうつぶやいた。

「いま、突然変異的にいい選手が現れるとしたら、九州か北海道だよ。

都市部の無名校からはびっくりするような選手が出てこないよね」

 4月3日から3日間にわたり実施されたU−18日本代表候補選手強化合宿。全国から41人の代表候補選手が一堂に会し、シート打撃や紅白戦などでプレーを披露した。バックネット裏にはMLB球団を含め、多くのプロスカウトが詰めかけた。

 合宿でアピールに成功した選手は多かったが、なかでも突き抜けた一芸を披露したふたりの野手を紹介したい。いずれも九州の高校に所属する原石だ。

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【ヒットメーカーからスラッガーへ】

 日本ウェルネス沖縄からやってきた長山武蔵は、身長180センチ、体重90キロのたくましい肉体を誇る左の強打者。力感なく構える姿には独特のムードが漂い、雄大なフォロースルーにはロマンがあふれている。高校球児のなかに、ひとりだけマイナーリーガーが混じっているようだった。

 彫りの深い顔立ちも印象的で、父はアメリカ国籍だという。スポーツジムのトレーナーとして働く父の影響で、中学まではトレーニングに精を出していたそうだ。

 長山は昨秋の九州大会準々決勝・熊本工戦で特大本塁打を放ち、脚光を浴びた。しかし、今回の合宿初日、長山は「全国区の洗礼」を浴びている。

「速い球についていけませんでした。

一番速かったのは高岡第一の前田(侑大)くん。振り遅れないように準備していたんですけど、ストレートに手が出なくて。『速いなぁ』と思いました」

 前田は最速150キロをマークする、北信越を代表する好左腕である。シート打撃で前田と対戦した長山は、空振り三振を喫している。この日は豊岡速伍(そうご/神戸国際大付)からも見逃し三振に倒れており、練習後に無念そうにこう語っている。

「緊張して力が入ってしまいました。悔しいです」

 結果が出なかったとはいえ、豪快なスイングだったことを称えると、長山は意外な言葉を返してきた。

「でも、1年生まではヒットを打つのがうまいタイプだったんですよ。2年生になってから長打を狙っていくにつれて、今の自分のスイングになっていきました」

 高校1年時は「先輩がつなぐ意識でやっていたので」とアベレージ重視の打撃スタイルだった。学年が上がって中軸を任されるようになり、「ランナーを還したい」と意識に変化が芽生えた。

 高校通算本塁打数は6本と多くないが、そのうち5本は高校2年秋以降に放ったもの。スラッガーとしては、まさに産声をあげたばかりなのだ。

【投手としても最速143キロ】

 そして、もうひとつ。長山には最速143キロを計測する「投手」としての顔もある。今回の合宿は右ヒジの違和感のため登板を回避したものの、長山は「ピッチングも自信があるし、誰にも負けないつもり」と語る。

 沖縄県内には昨夏の甲子園優勝校、沖縄尚学という高い壁がそびえる。今回の合宿では末吉良丞(すえよし・りょうすけ)、新垣有絃(あらかき・ゆいと)の二枚看板がそろって招集され、高いパフォーマンスを見せつけた。

── 彼らとしのぎを削る長山選手としては、内心面白くないのでは?

 そう尋ねると、長山は人懐っこい笑顔で「面白いです」と答えた。

「今はまだあっちのほうが上ですけど、夏までに追いつき、追い越したいです。夏は自分がチームを引っ張って、勝てたらうれしいです」

 合宿2日目の紅白戦で末吉と対戦した長山は、左翼越えの二塁打を放っている。

 高卒でのプロ志望を表明し、将来の夢は「日本代表とメジャーリーガー」と熱く語るロマン砲。合宿で大きな収穫を手にして、沖縄へ帰っていった。

【高校野球】U−18合宿で異彩を放ったふたりの原石 沖縄のロマン砲・長山武蔵&宮崎の守備職人・高田瑛大とは何者か?
高い守備力を誇る都城の高田瑛大 photo by Takahiro Kikuchi

【大学からプロへ進路を変更】

 一方、守備で株を上げた選手もいる。シートノックから存在感を放ったのは、高田瑛大(えいだい/都城)だ。身長172センチ、体重70キロと、体格的には小柄な部類に入る。チームでは遊撃を守っているが、今回の合宿では二塁の守備位置についた。

 身のこなしは滑らかで、機敏。グラブさばきも柔らかく、難しい打球も包み込む。トリッキーな動きも自在にこなし、本職の二塁手のようだった。菊池涼介(広島)や田中幹也(中日)の系譜に連なる内野手だろう。あるスカウトは「守備はずば抜けているね」と太鼓判を押した。

 高田に守備のこだわりを聞くと、「呼吸を大事にしています」という独特の答えが返ってきた。

「守っていて、焦りたくないので。ピッチャーがボールを離す瞬間には、息を出しきった状態にしています。すると自然に重心も下がって、一歩目をスムーズに切れますから」

 あどけない顔つきだが、言葉からは職人のムードが漂っていた。

 ただし、複数のスカウトから「大学進学と聞いている」という情報を耳にした。進学先と噂された大学は内野手育成に定評があり、堅実な進路選択に思えた。ところが、念のため本人に確認してみると、意外な返答があった。

「じつは今年に入って大学はお断りして、プロに挑戦したいと考えています」

 たとえ育成ドラフト指名でも、プロに進む意向を示している。周囲からは反対の声もあったそうだ。それでも、高田は自分の意志を曲げなかった。

【母校の先輩・山本由伸を超える選手に】

 近年はプロ側の見切りも早くなり、たとえドラフト上位指名を受けても若くして現役引退を余儀なくされる選手も多い。有望な高校生が早々に大学進学を決断するケースも目立っている。そんな潮流に逆らい、プロを目指す理由はどこにあるのか。そう尋ねると、高田はてらうことなく答えた。

「上のレベルで野球がしたいですし、小さい頃からの夢なので。どんな順位で入ろうと、努力次第で変わってくると思います。最終的には山本由伸さん(ドジャース)を超えるような選手になりたいです」

 都城はかつて甲子園を沸かせた古豪というだけでなく、今や世界的野球選手になった山本の母校としても知られる。山本もドラフトの順位は4位と高くはなかった。高田があえて退路を断ったのも、偉大な先人の背中を追いかけたい願望が大きかったのだろう。

 もちろん、課題があることも自覚している。高田は合宿に参加したことで、「自分のレベルがわかった」と明かしている。

「一緒にノックを受けて、池田聖摩(横浜)には安定感があるなと感じました。肩も強いですし、自分とは違うなと。バッティングはいいピッチャーと対戦するなかで、まだ変化球への対応が弱いと感じました。これから磨いていきたいです」

 一方で、スカウトの間からは「もう少し足が速ければ」という声もあった。その点を尋ねると、高田も課題意識があったのだろう。「速くしたいです」と答えたあと、こう続けた。

「今は50メートル走のタイムが6秒2なんですけど、都城OBの父は5秒台だったらしいので。自分も5秒台まで持っていきたいですね」

 長山武蔵と高田瑛大。全国的な知名度は低くとも、それぞれに鋭利な爪を研いでいる。勝負の夏までに、彼らはどこまで進化できるか。

ドラフト戦線は動き出している。

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