ソフトバンクは今季も「三軍」を韓国へ送り込んだ。5月19日に出国し、6月1日までKBO(韓国プロ野球)の二軍球団と4カード計12試合(一部雨天中止)の練習試合を行なった。

最初の遠征地は、韓国第3の都市・大邱近郊の慶山(キョンサン)である。今回、そのサムスン・ライオンズの二軍本拠地で行なわれた試合に同行した。

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【ホークス三軍が韓国遠征を続ける理由】

 ソフトバンクの三軍は、球界に先駆けて2011年に設立された。この三軍による韓国遠征は翌2012年から始まり、コロナ禍による中断期間を除いて継続されている。いまやチームの育成システムを支える根幹のひとつとなっている。

 育成出身からスターへと駆け上がった千賀滉大(現・メッツ)や甲斐拓也(現・巨人)、昨季のパ・リーグ首位打者の牧原大成、最多勝のタイトル獲得経験を持つ石川柊太(現・ロッテ)も、この韓国遠征で経験を積んだ選手たちだ。

 支配下ドラフトで入団した選手では、今季4番として活躍する栗原陵矢や、今春のWBCで侍ジャパン入りを果たした松本裕樹にも参加歴がある。さらに、今季すでに先発ローテーションで2勝を挙げている前田悠伍も、プロ初先発のマウンドは韓国だった。

 なぜ、韓国遠征なのか。

 球団フロントの中枢を担う三笠杉彦ゼネラルマネージャー(GM)は、この韓国遠征を毎年のように視察している。その意義について、次のように説明した。

「三軍には、一軍や二軍のようなリーグ戦が存在しないため、球団自ら対戦相手を探し、マッチメイクしなければなりません。若手育成の根幹にあるのは、いかに実戦の場を確保するか。

そのなかで、できるだけレベルの高い相手と対戦させたいと考えています。KBO球団の二軍は非常にレベルが高く、時には一軍級の選手が調整のために出場することもあります。

 さらに、ホークスが本拠地を置く福岡という立地も大きい。韓国はまさに"隣国"で、たとえば釜山なら飛行機で1時間もかかりません。キャンプ地の宮崎へ移動するのと感覚的にはそれほど変わらない。ソウルまでも約1時間半で、飛行時間だけを見れば福岡−羽田間より短いのです」

 一方で、現場の声に耳を傾けると、異国での遠征ならではの苦労も聞こえてくる。食事や宿泊環境、現地での移動などに戸惑う選手も少なくない。なかでも辛い料理が苦手で体調を崩し、お腹を下してしまう選手は毎年のように現れるというが、球団側も可能な限り環境改善に努めながら韓国遠征を継続している。三笠GMがこのような思いも口にする。

「国際経験を積むことで、選手たちの視野は確実に広がります。日本の環境で日本人同士の試合ばかりを続けていると、無意識のうちに『次はこうなるだろう』『こういう展開になるだろう』という予測が働くこともあると思うのです。実際、話を聞くと、ホークスに入ってこの韓国遠征が初めての海外経験だという選手も少なくありません。

日本は昔から野球が盛んで、世界的に見ても高いレベルにあります。その一方で、海外に出て試合をしたり国際大会に参加したりする機会は少ないと思います。

 他競技に目を向けると、若い年代から海外遠征や国際大会を経験するケースは珍しくないですよね。育成選手とはいえ、ドラフトを経てプロ球団に入った選手たちです。そのレベルの選手であれば、他競技なら海外で試合や合宿を経験していても不思議ではありません。若いうちから異国の地で厳しい環境と向き合い、それを乗り越える力を身につける。いわゆる『能力発揮のマネジメント力』を養うことも、この韓国遠征の大きな意義のひとつだと考えています」

【プロ野球】ソフトバンク三軍が韓国で体験した"未来の野球" ロボット審判導入の衝撃と若鷹たちが語る本音
初めてABS、ピッチコム、ピッチクロックを経験したホークスの選手たち photo by Kotaro Tajiri

【選手たちが語ったロボット審判への本音】

 そんな韓国遠征で、今年のソフトバンクナインはこれまでとは異なる"新たな野球"を目の当たりにした。

 遠征初日。慶山にあるサムスンのファーム施設に到着したソフトバンクの野手陣は、バットもグラブも持たずに一か所へ集められた。そして、その前に置かれた身長測定器には長い列ができていた。

 韓国プロ野球では2024年から「ABS」(自動投球判定システム、通称・ロボット審判)が導入されている。身長測定は、その判定に用いるストライクゾーンを設定するために行なわれていた。

 ABSは、選手の身長に応じてストライクゾーンを設定し、投球がその範囲を通過したかどうかを自動で判定するシステムだ。

一般的には高性能カメラの『ホークアイ』や弾道測定器『トラックマン』などを活用し、その結果を球審へ伝達する仕組みとなっている。今回訪れたサムスンの二軍球場では、3台のカメラによって投球を追跡し、ストライク、ボールの判定を行なっていた。

 また、メジャーリーグで試験運用されているABSが選手や監督による「チャレンジ」の際にのみ適用されるのに対し、韓国プロ野球では全投球の判定をABSが担っている点も大きな特徴である。

 さらに、韓国プロ野球で導入されているサイン伝達システム『ピッチコム』、そして投球間の時間を制限するルール『ピッチクロック』を採用のもとで試合が行なわれた。こうした環境でプレーするのは、今回の韓国遠征が初めてだった。

 ピッチクロックについては、日本でも独立リーグで採用されており、そのルールに基づいて試合が行われている。一方、ABSとピッチコムを実際の試合で経験するのはソフトバンクの選手たちにとって初めてのことだった。言い換えれば、NPB球団としてABSとピッチコムを用いた試合に臨んだ初のケースとなったのである。

 ソフトバンク三軍の選手たちからは、概ね前向きな声が寄せられた。

 この日、先発マスクをかぶった大友宗はABSについて、「すごくやりやすかったです。縦にかなり広く感じましたが、審判によってストライクゾーンが変わることがないのでストレスなくプレーできる。際どいコースでもAIが正確に判定しているのだから、と割りきれます」と好意的に語った。

【ロボット審判導入により消える技術】

 ピッチコムについても評価は高く、「改善点があるとすれば、つい同じペースで球種伝達をしてしまうので、投手の間合いが単調になりがちになってしまう。そこは気をつけたい」と大友は話した。

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ピッチコムの機器を見せる2年目の村上泰斗 photo by Kotaro Tajiri
 また、ピッチコムの恩恵を感じていたのは、意外にも内野手たちだった。受信機は投手や捕手だけでなく、ベンチのコーチや二遊間を守る選手も装着する。

 二塁手の中澤恒貴は、その利点についてこう語る。

「けん制球はもちろんですが、球種やコースによってポジショニングを考えるから、全球集中してサインを確認しないといけなかった。守備位置から捕手のサインを毎回見るのは、意外と大変なんです。それが耳で聞こえるのはよかったですね」

 一方で、ABSの導入に複雑な思いを抱く選手もいた。投手の飛田悠成はこう語る。

「ゾーンぎりぎりの、もしかしたらボールかなという球を捕手のフレーミングでストライクと言ってもらえると、僕は気持ちがどんどん乗っていくタイプ。ABSが本格導入されると捕手がフレーミングにこだわることがなくなっちゃうと思うので、そうなれば僕は寂しいかな」

 ストライク、ボールの判定が機械化されることで、捕手の技術のひとつであるフレーミングの価値が薄れていく。飛田はそんな変化にも思いを巡らせていた。

「今春のWBC以降、そうした(機械化の)気運が高まっています。だからこそ、将来的な導入も見据えながら、我々もひと足早く経験しておこうという考えです」(三笠GM)

 実際、ピッチコムについては来季から日本プロ野球でも導入される可能性が高まっている。5月27日に東京都内で行なわれたプロ野球選手会とNPBの事務折衝の場でも、その方向性が確認されたという。

 そうしたなかで、ひと足早くABSやピッチコムを体験できた今回の韓国遠征は、ソフトバンクの選手たちにとって貴重な学びの場となったに違いない。

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