◇<1>近藤 滋『エッシャー完全解読―なぜ不可能が可能に見えるのか』(みすず書房)
◇<2>D・A・ミラー、佐藤 元状訳『ヒッチコックをさがせ!―超近接的映画鑑賞(トゥークロース・ビューイング)のすすめ』(慶應義塾大学出版会)
◇<3>柴崎 友香『帰れない探偵』(講談社)
<1>は、「なぜ不可能が可能に見えるのか」という謎を文字どおりに解いている点で、巷(ちまた)にあふれる謎解き本とは一線を画している。とりわけ、主題とは無関係に見える細部にも注目しているのは、小説を読み解くような感触がある。
十年以上も前のこと、来日した文学研究者からぜひ読めとすすめられたのがD・A・ミラーの『見知らぬ乗客』論だった。そのヒッチコック論をまとめたのが、やはり著者の異様な情熱を感じる<2>で、「遠読」に対抗するような「超近読」には大いに驚かされること請け合い。
小説の中では<3>を推す。近未来小説の形を借りながら、過去、現在、未来をひとつの視野に収める、小説の大胆な冒険として読んだ。
『エッシャー完全解読――なぜ不可能が可能に見えるのか』(みすず書房)著者:近藤滋Amazon |honto |その他の書店
【書き手】
若島 正
1952年京都市生れ。京都大学名誉教授。『乱視読者の帰還』で本格ミステリ大賞、『乱視読者の英米短篇講義』で読売文学賞を受賞。主な訳書にナボコフ『透明な対象』、『ディフェンス』、『ナボコフ短篇全集』(共訳)、リチャード・パワーズ『ガラテイア2.2』など。
【初出メディア】
毎日新聞 2025年12月20日