ニンテンドーDSで一月二十日発売の「ぞんびだいすき」は、ぞんびたちが奪われた「だいじなもの」を取り戻すために悪い人間をやっつける「ぞんびぞろぞろアクション」だ。主人公がぞんびのゲームは結構めずらしいが、「ぞんびだいすき」にはもっと珍しいところがある。
ぞんびがすごくかわいいのだ。

プレイヤーはタッチペンをスライドさせて指示を出す。するとぞんびはその方向にとてとてと歩き出す。かわいい。丸で囲むとたくさんのぞんびを一斉に動かせるので、みんなで素直にいうことを聞いてるかんじがしてまたかわいい。だけどひときわかわいいと思うのは、言うことを聞かないときだ。


ぞんびはとてもピュアだ。打算も計画もなくて、目の前のものにまっしぐら。だから人間を襲わせようとしても近くに肉とか宝箱があればそっちにいってしまうことがあるし、近くに何もなければボーっとしてそのうち居眠りしてしまう。だから「もーダメだよー」と世話を焼いてるうちに、どんどんかわいくなっていく。

プレイヤーは指示を出すだけで、直接ぞんびを十字キーで操作できるわけじゃない。だから「あーなんでそっちいっちゃうの」とまどろっこしく思うこともある。
だけど100%言うとおりに動いたら多分かわいいとは思わないだろう。自分がぞんびになった気分がするだけだ。かわいいとは世話を焼きたくなるってことで、世話を焼くプレイヤーがいて、世話を焼かれるぞんびがいなくちゃいけない。

それはプレイヤーとぞんびの間に距離があるってことだ。プレイヤーはぞんびにはなれないから、ぞんび同士が一緒に座り込んだりかけ回ったりビンタし合ったりして楽しそうに遊んでるのを見ると、ちょっとさびしくなることもある。だけど、距離があるからこそ気づいたこともある。


ある日ぞんびに宝箱探しをやらせてたら、人間が近くを通りかかってぞんびたちが一斉に襲いかかっていった。「おいおい宝探しさせときたいのに、なんでわざわざこっちに来るんだよ」と思って、ふと映画のワンシーンを思い出した。映画「ゾンビ」で、主人公たちのたてこもるショッピングモールにどうしてゾンビたちが集まるのかを語る有名なシーンだ。厳重にロックされた自動ドアを諦めずに叩いているゾンビたちを見ながら一人の男がいう。「俺達を狙ってるんだ」もう一人の男がいう。「それは違う。
かつての習慣でここに来る」。襲われた本人はゾンビが自分めがけてやってきたと思っていたが、ゾンビはただ生前の記憶をたどってショッピングモールに来て、たまたまそこに人間がいただけだった。

今回も同じだ。他のものを探してて、たまたま人間が近くに来たから襲いかかった。もしかしたら、いままで映画やゲームでゾンビに襲われてたときも、たまたま人間が通りかかったから反射的に襲っただけで悪気はなかったのかもしれない。

そう思ってぞんびの何も考えてなさそうな顔を見ると、なんだか切なくなってくる。
それはきっと自分ではどうしようもないものに対する切なさで、でもそこそこ歳を重ねると「どうしようもないっす」とはなかなか言えなくて、だからときどきゾンビがうらやましくなるのかな、とそんなことも考えた。(tk_zombie)