90分拡大版だった第5話のファーストカットは、宮沢(役所)とシューフィッターの村野(市川右團次)にランニングシューズ「陸王」についてアドバイスを送る茂木(竹内涼真)。ということは、今回は茂木が鍵を握るエピソードということ。いよいよ開催されるニューイヤー駅伝に、茂木が陸王を履いて出場するかどうかがクライマックスとなる。重厚かつ登場人物も多いストーリーなのに、とてもわかりやすい構造だ。

憎まれ役・大橋を演じた馬場徹に再度注目
さらに第5話には二つの大きなエピソードが内包されていた。一つは、陸王の開発資金について。もう一つは、仕事の継承についてである。
前者は、思わぬアイデアがこはぜ屋を救う。陸王のために開発したソール「シルクレイ」を地下足袋に応用した新商品「足軽大将」が大ヒット。ドラマ開始5分ぐらいでトントンと物事が進む。すさまじくテンポが良い。これまであらゆることに反対していた経理の玄さん(志賀廣太郎)が「やるべきです!」と力強く言うだけでグッときてしまう。
商品がヒットすれば、それはそれで仕入れ代金などのお金が必要となる。いわゆる資金繰りというやつだ。資金繰りが困難になれば、商品が売れていても「黒字倒産」になる。どうしても融資が必要になるわけだが、そこで立ちはだかるのが埼玉中央銀行の大橋(馬場徹)と支店長の家長(桂雀々)だ。
冷酷に「切り捨てろ」と指示する家長だったが、大橋は違った。銀行マンとして今回の融資はアリだと判断したのだ。ところが、社内での稟議が通らない。融資は決まっても、厳しい条件付きだ。不満を言う宮沢らを「ダメなものはダメなんです!」と大声でビクッとさせてから、「私の力不足です。本当に申し訳ありませんでした」と深々と頭を下げる大橋。ああ、これはグッと来る展開ですね……。
「こはぜ屋さんは将来性のある会社だと、銀行員として、そう判断しました」
まったく表情を変えずにいいことを言う大橋。そして立ち去り際、トドメにもう一言。
「新しい陸王、完成したら、私、買います」
こんなのグッと来るに決まっている。大橋の背に「ありがとう!」と叫んで深々と頭を下げる宮沢。前にも書いたが、原作では非常に淡白な人間として描かれていた大橋を、役割としてはまったく同じまま、大変ねちっこい演技でここまで存在感のある役にしたのは馬場徹の功績だろう。さすが「つかこうへい最後の愛弟子」。これで資金繰りの問題は一段落である(本当はあまり解決していないのだが)。
「絶対に代わりがねえのは、物じゃなくて人だ」
もう一つのテーマは「仕事の継承」だ。最年長ながら現場の仕事を引っ張ってきた富久子さん(正司照枝)がぶっ倒れてしまった。そこで白羽の矢が立つのが、若手社員の美咲(吉谷彩子)。これまでどこか自信なさげだった美咲だが、みんなの期待を受けて、「私、やってみます!」と(文字通り)立ち上がる。
その後、「こはぜ屋に入って今が一番充実してる」と語るときの顔が、本当にそれまでとまったく違う顔つきで驚いた。
美咲が立ち上がる様をじっと見つめていたのが、飯山(寺尾聰)の助手としての働きぶりとエプロン姿が板についてきた大地(山崎賢人)だ。大地にも立ち上がるときがやってくる。飯山がかつて借金をしていたシステム金融の暴漢たちに襲われて、大怪我をしてしまったのだ。
自ら立候補して、飯山の代わりにシルクレイの製造を行うと宣言する大地。ところがシルクレイの製造機が不調を起こしてしまう。苦戦する大地に、飯山がシルクレイ製造機の設計図を届ける。以前は「その設計図は俺の魂なんだ」と言って大地にも見せようとしなかったものを「後は頼む」と託したのだ。見事に不調の原因を探し当てる大地。そこへ病院から抜け出した飯山が現れて、部品のありかを伝える。
「部品はしょせん部品だ。
「なんです? ノウハウですか?」
「人だよ。絶対に代わりがねえのは、物じゃなくて人だ」
これが『陸王』全体を貫く根本的な思想だ。人と、人とのつながりを大事にして、前を向いて粘りに粘れば、どんな困難も突破できる。人は、交換可能な部品ではなく人であり、誰かから役立たずだと判断されても、誰かにとってはかけがえのない存在だったりする。それは足袋を製造する古いミシンの部品のことであり、シルクレイ製造機の部品のことであり、この世の中から不要だと烙印を押されつつあったこはぜ屋に集う人々のことであり、視聴者の我々のことでもある。
そして『陸王』全10話のど真ん中に、飯山の次のようなセリフがある。
「なあ、大地。お前っていう人間は、この世にたった一人しかいねえんだぞ。代わりはいねえんだ。だから、もっと自分にプライドを持て。ただの部品にはなるな。会社の大小や肩書なんて、たいした問題じゃねえ。
うーん、いい話。関係ないけど、大地と美咲が良い雰囲気だったようだが、2人は付き合ったりするんだろうか?
松岡修造が来週から参戦! 『陸王』がますます熱くなる!
クライマックスでニューイヤー駅伝に臨む茂木がアトランティスのシューズから陸王に履き変えるシーン(無音になり、リトグリが「♪エビデイ~」と歌い始め、陸王を袋から取り出すときはシュオッ! とすごい音がする)は、「ああ、やっぱりね」と思いつつも力技で感動させられる。それはひとえにそれを見ている役所広司と山崎賢人をはじめとする役者陣のリアクションの良さのおかげだ。と同時に、『陸王』は脚光を浴びるプレイヤーではなく、それを支える人々が主役のドラマなんだと思い知る。視聴者は、「ああ、これは自分たちのドラマだ」と思っているんじゃないだろうか。
さて、阿川佐和子(エッセイスト)、ピエール瀧(ミュージシャン)、小藪千豊(芸人)、市川右團次(歌舞伎役者)と異業種からの出演者を積極的に起用している『陸王』だが(瀧はもう本職と言ってもいいけど)、来週放送の7話からは松岡修造まで参戦! 松岡の連ドラ出演は今回が初めてとなる。
松岡は米国に本社を置く巨大アパレルメーカー「フェリックス」の社長、御薗丈治役。原作を読んでいる人にはわかると思うが、なかなか重要な役どころだ。これまで異業種出演者を次々と当ててきた『陸王』が松岡とどんな化学反応を示すかが楽しみ。
今夜放送の第6話では、いよいよニューイヤー駅伝で茂木が激走! 演出の福澤克雄が得意とする「物量」作戦も爆発するはずだ。一足早いお正月気分を味わおう。
(大山くまお)