12月10日(日)放送 第49回「本能寺が変」 演出:藤並英樹

パブリックビューイングにぴったりの愉快な、劇団家康回
最終回の1話前(最終回イブ)とは思えない軽いノリの「本能寺が変」を、彦根、井伊直政の菩提寺・清凉寺
のパブリックビューイングで見た。
イベントにも使用される禅堂(来年「西郷どん」で井伊直弼を演じる佐野史郎が朗読イベントも行ったことがある)にて、5時30分からシークレットゲストの菅田将暉が登場し、30分間のトークを行ったのち、6時からのBSプレミアムでの放送を、一般観覧者228人(応募者は1000人を超えた)が一緒に楽しむ趣向(菅田は退席)。
音響がめちゃめちゃいいわけではないとはいえ、やっぱり大きなスピーカーから音が出て、しかも大画面なので、盛り上がる。
なにせ、内容が、本能寺の変から伊賀超えに至る緊迫感のなかでの、劇団徳川のエチュード(即興芝居)。チーム徳川(阿部サダヲ、菅田将暉、尾美としのり、みのすけ、高嶋政宏、中村織央)が何かにつけて、目をカッと見開き、音楽が大きく鳴ると、客席は湧いた。
もう一方のドラマ・直虎(柴咲コウ)が堺に出向き、龍雲丸(柳楽優弥)と再会するも、甘い感傷がなく、事務的で、龍雲丸ががっかりするみたいなエピソードにも笑いが漏れた。
放送前の30分、菅田将暉が場をあたためにあたためまくっていたので、いっそう愉快に見られたと思う。
関西出身であり、漫才師の映画「火花」にも主演しているだけはあり、菅田将暉のトークは自然と随所に笑いが付加されていた。
このトークショーに関することは後述するとして、まずはいつもの振り返りを。
劇団徳川、即興芝居は、たぬき家康の誕生でもある
ときに、天正十年5月15日から6月2日(本能寺の変の日)。
明智光秀(光石研)による織田信長(市川海老蔵)暗殺計画に乗っかることにしたチーム徳川(阿部サダヲほか)。
信長に誘いに乗ったふりをして安土城に出向き、緊張のなか、接待を受ける。
だが途中、中国にいる羽柴から援軍がほしいと連絡が来て、助けにいけと信長が命じ、金柑(光秀)が出かけてしまった。暗殺首謀者がいなくなって、不安ななか、信長が自ら食事を出してくるものだから、毒が入っているんじゃないかと、どきどきするチーム徳川。
家康は、信長の様子から、心配ないのではないかと考え、このまま京に向かい、本能寺で茶を飲もうと決意するが、光秀が、愛宕神社で、3回もおみくじを引いて、ついに大吉が出たことにより、「敵は本能寺にあり!」と信長を急襲(本能寺の変)。
道中、その報を受けたチーム家康は、穴山信君(田中要次)の監視を逃れ、命からがら逃げ出すことに成功する(伊賀超え)。
菅田将暉がトークショーで、「劇団徳川と言われていて」と言っていたシーンがここである。
直虎に言われて助けに来た龍雲丸が、「京で謀反があった」と嘘を行って、京に行かないようにさせようとしていると、茶屋四郎次郎(京大出身で京ことばが自然な気がする辰巳琢郎) がやって来て、ほんとうに謀反があったことを報告。
刻一刻と変化する空気を読みまくり、自分たちに都合いいふうにことがすすむように、即興芝居をはじめる家康たち。
大人計画の阿部サダヲに、ナイロン100℃のみのすけ、ミュージカルでも大活躍、現在、大人計画の長坂まき子プロデューサーのプロデュース舞台「クラウドナイン」(木野花演出)にも出ている高嶋政宏、「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」に生田斗真と主演したばかりの菅田将暉、宮藤官九郎の芝居によく出ている尾美としのりと、芝居のできるひとたちばかりで、その即興芝居ふう(目線の動かし方や間合い)は、見ごたえがあった。
さらに、しばらくなりを潜めていた本多正信(六角精児)も登場し、穴山の処分に大活躍。
「野武士に襲われたりせねばいいのですが」「野武士に襲われたりせねばいいのですが」と2回繰り返し、
「野武士」と「信」とを掛詞にして穴山のことを匂わせるというニクイ展開は、視聴者を喜ばせた。
六角精児は、劇団・扉座の俳優。まさに、演劇人が集結したからこその、言葉にせずとも話が進んでいく
小気味いいシークエンスとなった。
みのすけの事務所MASHの社長から、彼が起用された意味があとでわかるというような意味深なことを以前聞いていたのだが、このエピソードのことを意味していたのかもしれない。
家康と正信がにやにやと今後の悪だくみをして、劇団員たち(家臣)もにやにやしている感じに、徳川家康が「たぬき」(ひとを化かす、欺く)と呼ばれるようになる所以を、ここ(伊賀超え)にあったと描いているようで、森下佳子のユーモアあふれるアイデアが冴えた。
それまで、阿部サダヲの家康はいい人過ぎて、狸親父感がないなあと思っていたら、家康の人生にとって、ひじょうに大変だった局面を超えたことで、家康が武将として成長した姿を、コント仕立てに見せながらしっかり描くとは、森下こそ策士である。
ついでに言えば、皆が、忖度しまくっていた信長自体は、じつは、家康に対して悪いことを考えてなかったらしいという種明かしもあって、近年数多くつくられている裏を読み合う心理戦ドラマのアンチテーゼにもなったように思う。

後方の山のほうに、直政のお墓がある
徹底して、菅田将暉をシークレットに
そんなシアトリカルな回を、パブリックビューイングで見せるという企画を立てた人もすばらしい(たまたまかもしれないが)。イベントは、(公社)彦根観光協会、NHK大津放送局、彦根市の共催で、ゲストを、出てくるまで秘密にしていたことも、なかなかない企画だったのではないか。
お寺の関係者に聞いたところ、菅田将暉が、トークに出る前に、本堂にある寂光堂(非公開)という名の位牌堂のお参りなどをしている最中も、「菅田さん」と名前を出すことすら禁じていたそうだ。名前を出すと、どこで漏れるかわからないから。
とにかく、5時30分まで、「菅田将暉」の名前は徹底的に秘されたものだから、5時30分になって、菅田将暉が禅堂に登場したときは、大歓声で迎えられたのだ。
ドラマもイベントも、サプライズ色の強いエンターテインメントになっていた「おんな城主 直虎」。
いよいよ、12月17日(日)、最終回を迎える。
49回の雰囲気では、どんなふうに終わるかまったく先が読めないが、最後まで楽しませてくれるに違いない。
(木俣冬)