連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第4週「夢見たい!」第22回4月26日(木)放送より。 
脚本:北川悦吏子 演出:土井祥平

22話はこんな話


鈴愛(永野芽郁)は、律(佐藤健)の提案で、漫画を描き始める。

鈴愛、初恋体験を漫画にする


さっそく漫画を描き始める。
「あしたのジョー」とか秋風羽織の絵とかの模写など、見たものを瞬時に正確に描写する能力がもともとあったから(これは絵を描くときに大事な才能のひとつ)、「いつもポケットにショパン」を参考にして、さくさく描ける。

スクリーントーン(模様が描かれた透明なシート)を手書きで再現しようとする意欲も、鈴愛の可能性を感じさせる。
それの解説のために、大都会東京の秋風羽織(豊川悦司)がアシスタントのボクテ(志尊淳)がスクリーントーンを貼っている様子を褒めている場面を入れる。

物語は、自分の体験談。初恋の辛い記憶にしっかり「オチ」をつけた。

どこまでもつきあってくれる律


夢中で描き続け、朝方、描き終えた鈴愛は、さっそく律に見せに行く。
笛に起こされ窓を開けるが、眠くて、窓辺に座りこんでしまう。

自由な言動に、振り回されてくれる男子は、ほんとうに女子の理想である。
律は、東大合格が危うく、京大に進路変更したところで、悩みがつきないわけだが、それでも、女子につきあってくれる。面倒くさい女子にもつきあえることが男子としての余裕でもある。これが現実の場合、振り回されて男子が疲れてしまうと破局となるが、朝ドラ「半分、青い。」ではそんなことは決してないはず。いつまでもいつまでもきっと、ずっと自由気ままに飛んでいく女子の味方なのだ、律くんは。
「半分、青い。」22話、朝ドラ絵から大出世。鈴愛の劇中漫画を描くなかはら・ももた
『マッサンコミック』扶桑社
朝ドラ「マッサン」を上下巻二冊にわたってコミカライズしたもの。
なかはら・ももたが漫画を描いている。

「あま絵」「マッサン」コミック、そして・・・


鈴愛の漫画の影武者を担当しているのは、なかはら・ももた。
少女漫画雑誌の東大(京大?)ともいえる「ぶーけ」でデビューした才人で、オリジナル作品を多数手がける一方で、「あまちゃん」の「あま絵」や「マッサン」のコミカライズなど、朝ドラとは縁が深い。

今回は、北川悦吏子と古くからの知り合いであったことから白羽の矢が立った。

鈴愛と同世代であることも強みだ。
現在のなかはらの絵を抑制し、昔の少女漫画の雰囲気と初心者のたどたどしさを残して描くのはなかなかの
技術である。
ちなみに、拙著「みんなの朝ドラ」でもなかはらさんの朝ドラ体験を掲載している。

それから忘れてはならないのは、ドラマのなかで、まんがを描いている手タレ的な人物は別に存在すること。
クレジットに出ている漫画指導・川口瑞恵である。

性根の腐った漫画家


「Kiss+πr2」 」をわかりづらいので「年上に胸キュン」というタイトルにしてはどうかと担当編集者に提案されて、却下する秋風。これは当たり前と思う。なんだ「年上に胸キュン」て。でもこういうことって往々にしてある。
センスのない意見をする「ガーベラ」編集長・北野(「おひさま」でオクトパス先生をやっていた近藤芳正)に連絡し、秋風は、出版社を変えると言い出す。
「あんなにスイートな漫画を描くのに性根は腐っていた(あとで「厳しい」と訂正)」とナレーション。
こういう作家もあるあるだ。

現実では、ドラマ登場漫画を描いているくらもちふさこは、「Kiss+πr2」 」を86年から87年にかけて「別冊マーガレット」で連載。
89年当時は「海の天辺」(88年〜90年)を連載中である。編集長いわく重版を続ける「おしゃべり階段」は78年〜79年に「別冊マーガレット」で連載されたもの。

それぞれの進路


律が〈ともしび〉でおみくじを引くと大凶で、待ち人も願望もないないづくし。
そこへブッチャーがやってきて「京都?」(律が京大に進路変更したこと)と大騒ぎ。
凶と京都が頭韻を踏んでいる?
ブッチャーまで京都の大学に行くと言い出す。
「自分のなかで大事なことははっきりしとって、一番は 律といることなんや」
「大学より友達や!」と彼の考えはブレない。
「新しい友達できても、律はひとりや」って、ブッチャー、いいやつ。
律は律で、こういうブッチャーになんだかんだ言って支えられているんだと思う。

夜、晴(松雪泰子)は、「鈴愛、最近、こわい夢見んな。つまらん」と寂しそう。
一緒に寝る機会が減った。こうしてこどもが大人になっていくことを、こういう台詞で描くところが
やっぱりすてきだ。


21話のレビューで佐藤江梨子と永野芽郁は困り顔が似合うと書いたが、松雪泰子も困り顔が似合う。晴は出てきた当時はノーテンキな感じがしたが、出産以降はわりといつも眉間に皺を寄せて、困った顔をしている。もともと持病(腎臓)をもっていたのを無理して産んだし、鈴愛の片耳が失聴したりで、悩み事が多いのかも。一方、宇太郎は変わらずノーテンキで。いつも明るいほうから物事を見ることが、晴を救ってくれる。
宇太郎も、律と同じで、好きな女子を支え続けている男子だ。

鈴愛の農協合格は、仙太郎(中村雅俊)が頼み込んだものだった。
このまま就職してどうなるんだろうと心配する晴に、宇太郎は、鈴愛の将来を「結婚して 子ども産む」と想像する。「かぐや姫みたいに、あっちの王子様 こっち〜の王子さまがくれ〜くれ〜って言ってるうちにくるんやないの」と。
朝ドラの描くヒロインってこんな感じだと思う。それを鈴愛が超えてゆくのか。

漫画に目覚めた鈴愛を見ながら、律は、自分が京都に行ったらもう鈴愛の笛に振り回されることもなくなるとすっきりするような寂しいような気持ちになる。
東大行ってもそうだったと思うけれど。受験の準備の甘さとか、しっかりしているようで意外とツッコミどころのある点も律の魅力となっている。

鈴愛や律の描写を見るにつけ、北川悦吏子は、気に入った人物への愛の注ぎ方はすごいと感じる。
最近の朝ドラは「ひよっこ」を代表に、悪い人が出てこず、悪い役割を背負った人にも事情があるようなことが描かれることが増えた。「わろてんか」の場合は悪行になりそうなところに踏み込まないというスタンスだった。一方、「半分、青い。」は、先生、こばやん、バブル期のインチキ業者、会社のえらい人と、主人公にとってデメリットな人間をさくっと書いて終わらせる。たしか「とと姉ちゃん」がこのパターンだった。
同じ朝ドラでも、主人公の視点で描くか、引いて客観的に見た視点で描くか、視点の違いはいろいろだ。
(木俣冬)
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