連続テレビ小説「なつぞら」
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~ 再放送 午後11時30分~
◯1週間まとめ放送 土曜9時30分~
「なつぞら」23話。天陽くんの描いた絵はピカソの「ゲルニカ」だ

連続テレビ小説 なつぞら Part1 (NHKドラマ・ガイド)

第4週「なつよ、女優になれ」 23話(4月26日・金 放送 演出・田中正)視聴記録


いよいよ本番
「その家族が争いごとに巻き込まれて命を落すことになったら……」
倉田の演技指導を受けてなつは自分の感情をセリフに重ねて言う。なつの涙ながらの演技は素人の門倉の演技にも影響する。大事なのはここ。
後輩・高木の役を無理やり奪った行為は感心できないとはいえ、魂のある演技ーー心のこもった演技についてここでは問題視しているので、なつの演技が変わったことを、演技に慣れた高木ではなく演技初心者の門倉のリアクション(なつの演技に思わず泣いてしまっている)によっていっそう強調できるのだ。

役を変えられた高木はよっちゃんとふたり、お裁縫(衣裳作り)に精を出す。
はたしてできた衣裳はすばらしいものだった。
「わたしは器量が悪いぶん、手先が器用なんだわ」と言うよっちゃん。器量と器用が韻を踏んでいる。

みんなで円陣を組み掛け声をかける。運動部のような儀式をやっている演劇人も実際にいる。例えば、堤幸彦監督の商業演劇では毎公演やっていると言っていた。それはさておき、このとき、それまでずっとでかい顔をしていた門倉の様子がおかしいところがポイント。

背景画
天陽くん役の吉沢亮は大きなベニヤに筆をいれるところが様になっていた。
天陽くんの描いた背景画は台本では天陽版『ゲルニカ』とありノベライズではそのように記している。「ゲルニカ」とはドイツがスペインを空から攻撃した「ゲルニカ空爆」をテーマにピカソが描いた絵である。
この空爆が行われたのは1937年4月26日。ちょうど「なつぞら」23回の放送日と同じだった。日本の朝の象徴・朝ドラでは時々、終戦の日や震災の日にそれを思わせる描写を入れることがあるがゲルニカ空爆の日に合わせてきたとは。そして「なつぞら」が東京大空襲からはじまっていることを考えるととても感慨深い。「白蛇伝説」も川上と川下の村との争いを描いているとなると、倉田先生は、農協と個人業主(泰樹)のことももちろんながら戦争のことも描いているんじゃないかと想像できる。
北海道に来たなつは傍から見ると恵まれた環境にあり(柴田家は豪農のほうだと思う)、そこでのびのび暮らしている彼女が戦災孤児でああったことをともすると忘れてしまいそうだ。もちろんなつは亡くなった父母のことも行方不明の兄妹のことも忘れたことはないという描写もある。決して忘れずに生きながら彼女も周囲も辛く悲しい出来事を乗り越えようと前を向くしかない。ことさら悲しがったりせずとも戦争がなつだけでなくたくさんの人の人生を変えてしまったという事実は歴然とある。最初は感情を抑えこんで我慢ばかりしていたなつに生き延びてきた大人たちが酪農や演劇の可能性を差し出す。戦争で多くのものを奪われた人たちの代表であるなつを大人も子供たちさえもみんなが慈しむ姿を見ていると涙が出る。

みんなが演劇の準備中のときかかっている、ランランラ〜ン♪という女性の声の入った劇伴に「ナウシカ」の「ランラララ♪」ちょっと思い出した。


ちなみに、天陽くんのモデルである神田日勝の美術館が建つ鹿追町には「白蛇姫物語」という伝承がある。
そもそも鹿追とは、アイヌの人たちが鹿を追い込んで捕らえていた場所という意味なのだと鹿追町のホームページに記されている。「白蛇姫物語」は凶作に苦しむ村人たちが神に祈ったところ白蛇が現れオショロコマの捕れる湖に案内してくれるというもの。毎年7月の第一土曜日には、この伝承にちなんだお祭りが行われているという。「なつぞら」詣でするなら7月かも。

アイスモナカ
雪月のトヨは「平和ってやだねえ。食うや食わずの苦労も忘れて親を邪魔にしだすんだから」という逆説的なことを言う。すると嫁の妙子が「私は平和に感謝しますけど」と嫌味をかわいく言い、姑と嫁の間で雪次郎は頭を抱え、富士子は「なんでも言い合える仲になったんですね」と笑う。
雪月と富士子は子どもたちのためにモナカに入れたアイスをつくって演劇コンクールの会場で無料で配る。

前述した「その家族が争いごとに巻き込まれて命を落すことになったら……」というセリフ。
なつの父母は戦争で亡くなっていて、兄と妹は行方知れず…ということで第五週は「お兄ちゃんはどこに?」。
いよいよお兄ちゃん・岡田将生の登場か。
ちなみに19話のレビューで“演劇エピソードだからか「(牛乳を)これまでどおり独自に売るべきか、それとも農協がまとめて売るべきか、それが問題でした」(ナレーション・内村光良)と、「ハムレット」の「生きるべきか死ぬべきかそれが問題だ(to be or not to be that is a question)」的な言い回しになっていた。”と書いたが、岡田将生、5月9日からシアターコクーン「ハムレット」でタイトルロールを演じることになっている。オフィーリアは黒木華!
柄本佑と演劇家族の映画「柄本家のゴドー」はユーロスペースを経て5月11日から下北沢トリウッドで公開。ほか京都、大阪、長野でも順次公開。

第5週「なつよ、お兄ちゃんはどこに?」(4月29日・月〜 演出・田中正)あらすじ


ある日、東京からひとりの学生が訪ねて来た。なつ(広瀬すず)と生き別れた幼なじみ・佐々岡信哉(工藤阿須加)だった。感動の再会もつかの間、信哉から兄・咲太郎(岡田将生)が新宿で働いているらしいと知らされ、なつは動揺する。そんななつを見ていた富士子(松嶋菜々子)は、一緒に東京に行こうと提案。夏休みを使って、なつは富士子とともに9年ぶりの上京を果たす。東京の目覚ましい復興に圧倒されつつ、なつは新宿の有名店・川村屋を訪ねる。そこの美人マダム・光子(比嘉愛未)から兄について貴重な情報を聞く。

第25回(4月29日・月 放送)あらすじ


なつ(広瀬すず)たちの演劇大会終了後、泰樹(草刈正雄)は、牛乳の販売を農協に託すことを決意。8月、柴田牧場では、恒例の草刈り、干草作りを家族全員で行っていた。ある日、泰樹は天陽(吉沢亮)との関係をなつに問いかける。
突然のことに驚くなつに、泰樹は、自分の思い描く将来の牧場について語りだす。その後、泰樹といっしょに天陽の家を訪れたなつは、東京から送られてきたというあるものを、天陽から手渡される…。

登場人物とキャスト 登場順


奥原なつ 広瀬すず 幼少期 粟野咲莉…主人公。戦争で父母を亡くし、兄と妹と別れ、剛男に連れられて北海道に引き取られてきた。生活を保障してもらう代わりに酪農の手伝いをする。父の描いた家族の絵を大切にもっている。生きるために感情を押し殺してきたが、柴田家、とりわけ泰樹と触れ合うことで、素直に感情を出せるようになっていく。これからは酪農の時代だと考え、十勝農業高校で学んでいる。演劇部に入る。
佐々岡信哉 工藤阿須加 幼少期 三谷麟太郎…空襲のとき、なつを助ける。
柴田剛男 藤木直人…柴田家の婿養子。なつの父の戦友で、戦災孤児となったなつを十勝に連れて来た。
妻を「ふじこちゃん」と呼ぶときがある。1955年時点では音問別農協組合で働いている。
柴田富士子 松嶋菜々子…剛男の妻。開拓で苦労してきたので、ひとに優しい。
柴田照男 清原翔(13 回から) 幼少期 岡島遼太郎…柴田家長男。搾乳をさせてもらえない代わりに薪割りを頑張っていたが、なつが来たことを機にようやく搾乳させてもらえた。
柴田夕見子 福地桃子(13回から)幼少期 荒川梨杏…柴田家長女。牛乳嫌い。同い年のなつに嫉妬を覚えたが、剛男に説得されてなつを受け入れる。勉強ばかりして家の手伝いを全然しない。
柴田明美 平尾菜々花(13回から) 幼少期 吉田萌果…柴田家次女。
柴田泰樹 草刈正雄…柴田家当主。
頑固者で幼いなつにも容赦なく厳しく接するが、意地悪ではなく、彼の人生哲学に基づいたもの。他人に頼らず己の力で人生を切り拓くことを心情としている。甘いものが好き。
奥原咲太郎 幼少期 渡邉蒼…なつの兄。タップダンスが得意で、米兵にかわいがられていた。孤児院にいる。
奥原千遥 幼少期 田中乃愛…なつの妹。親戚に引き取られている。

2回
焼け跡にいたおばあさん北林早苗…情にほだされなつたちに食べ物を分ける。演じている北林は朝ドラ第1作め「娘と私」の娘・麻里の少女時代役を演じた。
戸村悠吉小林隆…柴田牧場で働いている。貧しい開拓団の八男に生まれ、幼い頃に奉公に出され、泰樹に世話になった恩を感じて尽している。
戸村菊介音尾琢真…悠吉の息子。嫁募集中。

4回
小畑とよ 高畑淳子…帯広在住。泰樹の昔なじみ。口の減らない元気な人。
小畑雪之助 安田顕…とよの息子。菓子店・雪月の店主。菓子作りに情熱を注ぐ。
小畑妙子 仙道敦子…雪之助の妻。
小畑雪次郎 山田裕貴(13回から登場) 幼少期 吉成翔太郎…雪之助、妙子の長男。十勝農業高校に通っている。演劇部。

5回
山田天陽 吉沢亮 幼少期 荒井雄斗…音問別小学校でなつと同級生になる。東京からやって来た。馬が好き。農業をしながら絵を描いている。
大作 増田怜雄…音問別小学校の生徒。
実幸 鈴木翼…音問別小学校の生徒。
さち 伍藤はのん…音問別小学校の生徒。
山田正治 戸次重幸…天陽の父。東京から北海道にやって来たが土地が悪く、農業ができず、郵便局で働いている。泰樹の協力を得て、土地を蘇らせる。

8回
山田陽平 市村涼風…天陽の兄。絵がうまい。

9回
なつの父 内村光良…日本橋で料理人をしていた。絵が上手。家族のことを思いながら戦死した。

10回
花村和子 岩崎ひろみ…音問別小学校の教師。 
校長先生 大塚洋…音問別小学校の校長先生。
山田タミ 小林綾子…天陽の母。

13回
居村良子 富田望生…十勝農業高校の生徒。演劇部に入り衣裳を担当する。
村松 近江谷太朗…柴田牧場と長い付き合いのあるメーカーの人物。奥様封筒をもってくる。

倉田隆一 柄本佑…十勝農業高校の国語の先生。

14回
田辺政人 宇梶剛士…音問別農協組合組合長。農協で一手に酪農事業をとりまとめ十勝を酪農王国にしたいと考えている。 


19回
門倉努 板橋駿谷 …十勝農業高校の番長。クマとサケを争った逸話をもつ。演劇部に入り、村長役を略奪する。
高木勇二 重岡漠 …十勝農業高校演劇部。メガネ。門倉に役をとられてしまう。
石川和男 長友郁真…十勝農業高校演劇部。
橋上孝三 山下真人…十勝農業高校演劇部。


21回
太田繁吉 ノブ(千鳥)…十勝農業高校の教師。ヤギのチーズは牛より「クセがすごい」と言う。


脚本:大森寿美男
演出:木村隆文 田中正ほか
音楽:橋本由香利
キャスト:広瀬すず 松嶋菜々子 藤木直人 岡田将生 比嘉愛未 工藤阿須加 吉沢亮 安田顕 仙道敦子 音尾琢真 戸次重幸 山口智子 柄本佑 小林綾子 高畑淳子 草刈正雄ほか
語り:内村光良
主題歌:スピッツ「優しいあの子」
題字:刈谷仁美
タイトルバック:刈谷仁美  舘野仁美 藤野真里 秋山健太郎 今泉ひろみ 泉津井陽一
アニメーション時代考証:小田部羊一 
アニメーション監修:舘野仁美
アニメーション制作:ササユリ 東映アニメーション

制作統括:磯智明 福岡利武
(木俣冬)
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