『おちょやん』最終週「今日もええ天気や」

最終回〈5月14日(金)放送 作:八津弘幸、演出:梛川善郎〉

『おちょやん』最終回 千代と一平それぞれが人生を出し切った『お家はんと直どん』で大団円
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※本文にネタバレを含みます

よっ、おちょやん!

「生きるっちゅうのはほんまにはしんどうて、おもろいなあ」
終わりよければすべてよし。大団円。貧しい家に生まれ波乱万丈に生きた千代(杉咲花)の物語『おちょやん』がついに千秋楽を迎えた。


【前話レビュー】一平と別れ輝きを増す千代 生きててよかったお茶子らも集まり、いよいよ明日は最終回

ラジオドラマで人気者になった千代が鶴亀新喜劇に凱旋。『お帰り竹井千代 笑って泣いて珠玉の傑作集』のとりの演目『お家はんと直どん』が粛々とはじまる。

因縁の一平(成田凌)とのふたりの場面。若い頃、好き合って駆け落ちまで考えたお家はん(千代)と直どん(一平)が年をとってから再会。あの頃の気持ちを噛みしめる。

「もしあのまま私ら一緒にいてたら、どないな人生があったんやろか」

事前の稽古で千代が提案して付け足したセリフの掛け合いも決まった。ところが、千代はそのあとさらに続ける。

「あんたと別れへんかったら、大切な人たちと出会うこともでけへんかった。あんさんもわたしも 愛する我が子と出会うこともでけへんかった」としみじみ言う千代。それを客席から見ている春子(毎田暖乃)。袖では灯子(小西はる)が新平を抱いて見つめている(急にわんわん泣き出しかねない小さな子を劇場に連れてきているのは心配になるが、ここは許容しよう)。

そのあとも即興は続く。


一平「わしのおかげやな」
千代「ほんに、それ自分で言ってどうしますねん」

・・・

一平「おおきに」
千代「おおきに」

などと言い合うふたり。息の合った掛け合いは、さすが、長年の相方の貫禄である。

意地っ張りなふたりは、普段言葉にできないことを、舞台の上で役を借りるからできる。これは『おちょやん』の初期からずっとそうで、最終回でその究極の形が出来上がったといっていいだろう。

『おちょやん』最終回 千代と一平それぞれが人生を出し切った『お家はんと直どん』で大団円
写真提供/NHK

「生きるっちゅうのはほんまにはしんどうて、おもろいなあ!」

千代が万感の想いを込めて言うと、客席通路にテルヲ(トータス松本)と母・サエ(三戸なつめ)ヨシヲ(倉悠貴)の幻が。「千代〜」「千代〜」「姉やん」……ついぞかなうことのなかった親子3人がそろった最初で最後の3ショット。ここは作り手・渾身の泣きポイント。SNSも沸いた。この場面は何度観ても泣ける。

作り手のすごさといえば、漆原。舞台袖にいるときも、カーテンコールでもずっと顔を隠している。撮影に参加できず代役なのであろう。
顔を出さずともなんとなく成立してしまうことがすごい。

出てこない人もいれば出てきた人もいて。ずっとナレーションをやって来た黒衣(桂吉弥)が舞台袖にいてもらい泣きしている。この人、ずっと劇団の黒衣として働いていたのだろうか。いや、きっと、舞台をずっと見守っている舞台の妖精なのだろう。黒衣は影の存在だけれど、この物語に、お芝居に、あたたかい灯りをともしてくれていた。

千代は芝居で一平に勝った

千代と一平は演劇を通して、自分の人生を肯定した。しんどいことがあっても、失敗しても、前を向くしかなく、そこで出会った人たちや出来事を大切にして生きていく。

あんなにひどいことをした一平を赦した千代は立派である。そうはいっても彼女の赦し方はなかなか手厳しい。『お家はんと直どん』のあの即興場面は俳優として一平に勝負を挑んだ場面と見ることができるからだ。

思い出してみよう。一平は即興をあまり好まない演劇人であったはずである。
演劇を、俳優の面白さとしてきた千之助(星田英利)のようなやり方を好まず、台本のおもしろさで勝負したいと考えていた。それが、今回は千代の即興セリフでリードしていく。もちろん千代の特別出演回だから、彼女を立てて当然なのだけれど、「たとえ1日でもやるからには手ぇ抜けへんで」「望むところだす」と一平と千代は言い合ったのだから。

結果的に、千代のこれまで生きてきた積み重ねをすべて出しきったことがこの芝居の魅力になって、一平との物語もその一部になった。千代は芝居で一平に勝ったといえるだろう。ただ、一平も負けたわけではなくて、『桂春団治』で自分の人生をさらけ出した代表作を作りあげた。つまりそれぞれが人生を出し切った勝負作を作ったということ。

男に裏切られた女性がたくさん出てきた

普段言葉にできないことを、舞台上で役を借りたらできる。もしかしたら、舞台のほうこそ真実で、現実はかりそめかもしれない。そんな舞台の魅力と可能性を描いて来た『おちょやん』にはたくさんの劇中劇があった。

千代が演劇を好きになったきっかけは『人形の家』で、主人公ノラが与えられた妻や母の役割ではない、自分自身の義務を行う決意をする物語は、戦争のとき、千代を励ました。

『おちょやん』最終回 千代と一平それぞれが人生を出し切った『お家はんと直どん』で大団円
写真提供/NHK

舞台のエピソードのひとつとしてもうひとつ印象的なのが、千代の演劇の師匠・山村千鳥(若村麻由美)の十八番『清盛と仏御前』である。平清盛の寵愛を受けた仏御前が彼に捨てられて京都嵯峨野の祇王寺で尼になる物語であった。
だが仏御前は「そうして私はだんだんと上様に捨てられていくのでしょう」と嘆きながら「私はまだ死にませぬ。生き栄えてゆかねばなりませぬ」と前を向く。今思えば、千代の人生を暗示していたようでもあった。千鳥自身も結婚していたが夫が愛人をつくったため離婚して俳優として身を立てていた。

ほかにも鶴亀家庭劇に一時参加していた高峰ルリ子(明日海りお)も婚約者を若い劇団員に奪われ、劇団を追われた。このように、『おちょやん』ではおりにつけ、男性にほかの女性ができて傷ついた女性が登場した。彼女たちは瞬間瞬間、千代に鮮烈な印象を与えて去っていく。

最終回の時点で、千鳥もルリ子も姿を見せない。それが少しさびしい。でもきっと彼女たちは千代のなかで生きていて、男性に裏切られた女性の恨み、辛みを、全部まとめて千代が、『お家はんと直どん』で成仏させたと解釈すればまとまりがいい。『おちょやん』は積年の恨みを抱えた女たちの逆転勝利の物語だったのだ。



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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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