五月病を予防するためにできることは何か。産業医の池井佑丞さんは「五月病の予防で重要なのは、乱れた心身のバランスを日常の中で早めに整え直すことだ。
基本的な生活習慣を整えることに加えて、2つのことを試してほしい」という――。
■深刻化させないことが重要
新年度が始まって約1カ月。
4月は何とか乗り切ったものの、5月に入った途端、「なんとなく調子が悪い」と感じる人は少なくありません。
意欲が湧かない、疲れが抜けない、仕事に集中できない――こうした状態はいわゆる「五月病」として知られています。しかしその背景には、単なる気分の問題ではなく、新しい環境へ適応する過程で生じる心身の負荷が関係しており、場合によっては、適応障害や抑うつ状態へと移行する前段階として位置づけられることもあります。
国内の正社員2万人を対象とした調査では、約5人に1人が「五月病になったことがある」と回答し、そのうちの約2割は五月病が原因で実際に転職をしたとする報告もあります(マイナビ.2026)。つまり、五月病は一時的な不調にとどまらず、キャリア形成にも影響を及ぼし得る問題であることがうかがえます。
注意すべきは、不調のサインを自覚していても、日々の忙しさの中で「いつもの疲れ」と見過ごしてしまい、具体的な対策を打てないまま深刻化させてしまうことです。
そこで今回は、五月病のメカニズムを整理し、日常生活の中で無理なく実践できる予防と対策について考えていきます。
■4月に蓄積したストレスが表面化
いわゆる「五月病」は医学的な正式名称ではありませんが、新年度の緊張が一段落する連休明けに多く見られる、心身の不調を指す言葉として広く使われています。
代表的な症状には、意欲の低下や疲労感、不眠、不安感などがあり、日常生活や仕事のパフォーマンスに影響を及ぼすことも少なくありません(全国健康保険協会.2025)。
実際、五月病に関する調査では、五月病を経験した人の83.3%が「業務に何らかの影響があった」と回答し、約半数の人が「集中力の低下」を自覚しているほかに、「作業スピードが落ちた」(32.7%)、「ミスが増えた」(24.0%)といった内容が報告されています(識学.2022)。

医学的には、このような状態は適応障害や軽い抑うつ状態として捉えられることが多いとされています。背景にあるのは、4月の環境変化に伴う心理的負荷の蓄積です。自覚しないまま蓄積したストレスが、連休明けの5月に表面化すると考えられているのです(Arends et al., 2012)。
■若手社員だけの問題ではない
そして、五月病は若手社員だけの問題ではありません。30代以降の責任を担う世代も、五月病のリスクを抱えている可能性があります。
なぜなら、この世代特有の重層的な環境変化があるからです。自身の昇進や異動といった職場での変化に加え、子どもの進学や家族の生活リズムの変化など、4月はさまざまな環境の変化が重なりやすい時期です。ストレスとは、必ずしもつらい出来事だけを指すのではなく、一見喜ばしいライフイベントであっても、それが環境の変化を伴うものであれば、心理的負荷となり得る可能性があります(Wallace et al., 2023)。
こうした負荷が5月になって症状として表面化する背景には、身体が環境変化に適応しようとするプロセスに伴う、目に見えないコストが関係してきます。
■ライフイベントとうつ病の発症リスクの関係
五月病の背景には、「アロスタティック負荷」と呼ばれる、目に見えないストレスの蓄積コストが関係していると考えられています。
私たちの身体は、環境の変化に応じてホルモン分泌や自律神経の働きを常に調整し、心身のバランスを保とうとする性質を持っています。この調整には一定の負荷を伴いますが、新しい人間関係や業務への適応が続く4月は、この負荷が蓄積しやすい時期といえます。
こうして累積した負荷をアロスタティック負荷といい、その蓄積が個人の対処能力を超えた状態を「アロスタティック過負荷」と呼びます(Guidi et al., 2021)。
アロスタティック過負荷の状態が続くと、疲労感や睡眠障害などの症状が現れ、長期的な心身の健康にも影響を及ぼす可能性が指摘されています。
実際、環境変化を伴うライフイベントは抑うつ症状の発症と関連しており、ライフイベントの内容によっては、うつ病の発症リスクが約3~5倍も上昇することが報告されています(Kendler et al., 1999)。
こうした影響は、4月の環境変化においても例外ではありません。1カ月間、新しい環境に適応しようと頑張り続けた結果、心身の調整機能はストレス処理のキャパシティを超え、結果として倦怠感や気分の落ち込みといった症状が現れる可能性があるのです(McEwen. 2006)。
■「回復と適応のバランス」が崩れた状態
さらに、ゴールデンウィーク中の生活リズムの乱れも影響を及ぼします。連休中に起こりがちな睡眠リズムの乱れは、心身の調整機能を不安定にし、抑うつ症状の発症リスクを約2倍程度高めることが示されており、4月を通じて蓄積してきたアロスタティック負荷と相まって、この乱れが症状を表面化させるきっかけになると考えられます(Walker et al., 2020Breslau et al., 1996)。
このように、五月病とは、4月の過剰な適応ストレスによって積みあがった負荷が、連休による生活リズムの変化をきっかけに表面化する「回復と適応のバランスが崩れた状態」と捉えることができます。だからこそ、五月病を一過性の「気の持ちよう」として見過ごさないことが大切です。早い段階で心身の変化に気づき、適切に対処することが、長期的な不調への移行を防ぐための重要なステップであるといえます(Morgan et al., 2022)。
■脳に「終わりの合図」を送る
五月病の予防で重要なのは、乱れた心身のバランスを日常の中で早めに整え直すことです。ここでは、無理なく実践できるアプローチを紹介します。

まず、土台となるのは、次のような基本的な生活習慣です。
・起床・就寝時間を極端に変動させない

・朝の光を浴びて体内リズムを整える

・週に数回、15分程度の軽い運動を取り入れる
これらを押さえたうえで、今回は取り入れやすい2つのポイントを紹介します。
① 仕事の「終わり」を意図的に作る
業務が終わった後も、頭の中で仕事のことを考え続けてしまう人は多いはずです。ですが、この状態は、想像以上に心身の回復を妨げることになります。
これは、未完了のタスクが脳内に残り続ける「ツァイガルニク効果」と呼ばれる現象で、脳は未完了の情報を優先的に保持しようとする性質があるため、オフの時間も脳内メモリを消費し続け、結果として休息の質の低下を招くと考えられています。
そこで有効なのが、脳に対して意図的に「終わりの合図」を送ることです。脳は区切りが明確になると、その対象を一時的に“完了したもの”として処理しやすくなる性質があるため、仕事の終わりに意図的な区切りを作ることが必要なのです。おすすめは以下のような行動を行うことです。
・仕事の終了時に行う動作を決める(例:PCを閉じる、デスクを整える など)

・終わらなかったタスクを紙やスマホに書き出す
特に「書き出す」行為は、思考を頭の外に出すことで認知的負荷を軽減し、考え続けてしまう状態を抑える効果が報告されています。
こうした“終わりの合図となる習慣”を持つことで、仕事と休息の境界が明確になり、回復がスムーズに進みやすくなります。
■ストレス対処法を「リスト化」しておく
② 「コーピング・リスト」でストレス対処法を見える化する
ストレスを感じている最中の脳は、前頭葉の機能が低下し、適切な対処法を選択する余裕が失われやすくなります。そこで、あらかじめ自分なりのストレス対処法をリスト化しておく「コーピング・リスト」が有効です。

ストレスを感じてから「どうしようか」と悩むこと自体がさらなる負荷となるため、落ち着いている時に選択肢を可視化しておくことが重要です。リストの内容は、自分にとっての「小さな心地よさ」を基準に作成します。例えば、
・お気に入りの豆でコーヒーを淹れる

・お気に入りのプレイリストを聴く

・帰り道に一駅分だけ歩いてみる
などのような内容を、スマートフォンのメモなどに残しておけば、必要なとき迷わず行動に移すことができます。
ストレスの溜まり具合に応じてリストから「選んで実行する」という流れを仕組み化しておくことがポイントになります。
■医療機関への相談が必要な場合もある
ただし、以下の状態が2週間以上続く場合は注意が必要です。
・激しい気分の落ち込み

・十分な睡眠をとっても抜けない強い疲労感

・集中力の低下

・日常生活や仕事に支障が出ている
このような場合は、無理に一人で対処しようとせず、早めに医療機関へ相談することも大切です。
五月病対策の本質は、新しいことを増やすことではなく、日々のリズムの“崩れを小さく保つこと”にあります。
上記で紹介した内容を実践するためには、特別な時間や道具は必要ありません。まずは一つ、今夜の「終わりの合図」を決めることから始めてみましょう。その積み重ねが、これからのコンディションを安定させる土台となります。
■休息は次のパフォーマンスのためのプロセス
五月病は、特別な人にだけ起こるものではありません。むしろ、新しい環境に適応しようと真面目に取り組んだ人ほど起こりやすいものです。

大切なのは、不調を放置せず、心身からのサインとして受け止めることです。
早めにこのサインに気付き、日々の過ごし方を少しだけ意識的に変えることで回復がスムーズに進みやすくなります。
そしてもう一つ重要なのは、「休むこと」に対する捉え方です。休息は単なる消耗の回復ではなく、次のパフォーマンスを支えるための重要なプロセスです。無理にアクセルを踏み続けるよりも、適切に立ち止まって整えることの方が、結果として持続的な成果につながります。
五月病を「乗り越えるべき壁」としてではなく、「心身の状態を見直すサイン」として捉えること。それが、長く健やかに働き続けるための第一歩になるはずです。

※参考文献

・厚生労働省 こころの耳

・Masicampo EJ, Baumeister RF. Consider it done! Plan making can eliminate the cognitive effects of unfulfilled goals. J Pers Soc Psychol. 2011 Oct;101(4):667-83.

・Sonnentag S, Bayer UV. Switching off mentally: predictors and consequences of psychological detachment from work during off-job time. J Occup Health Psychol. 2005 Oct;10(4):393-414.

・de Menezes-Júnior LAA, Sabião TDS, Carraro JCC, Machado-Coelho GLL, Meireles AL. The role of sunlight in sleep regulation: analysis of morning, evening and late exposure. BMC Public Health. 2025 Oct 6;25(1):3362.

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池井 佑丞(いけい・ゆうすけ)

産業医

プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。

労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。

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(産業医 池井 佑丞)
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