■AI株と半導体株のおかげで「史上最高値」
日経平均株価が5月14日、一時6万3700円台の史上最高値を記録した。一方、市場全体の動きを反映しやすい東証株価指数は、2月につけた高値を抜けていない。

その背景には、AI関連の一部の値嵩株が買い上げられたことがある。日経平均は単純平均なため、どうしても値段の高い、いわゆる値嵩株が買われると日経平均株価は上昇しやすい。
多くの投資家の買いが、一部のAIや半導体などの銘柄に集中したため、こうした一種の歪みが発生したのである。そうした動きはわが国に限らず、米国などでも顕著にみられる傾向だ。大手投資家は、積極的に主要半導体メーカー、製造装置、関連部材などの株を買いに回った。個人など他の投資家は、AI関連の銘柄を追いかけて買った。
■もしAI企業が期待に応えられなかったら…
恐らく、これから世界経済の中心の命題は、間違いなくAIになるだろう。そうした銘柄が注目されるのは当然のことなのだが、一方で、AI一極集中には危うさもある。AIへの期待が先行している分、その期待が裏切られた場合の失望は大きいだろう。また、実際問題として、AI企業がクリアしなければならない、資金調達やデータセンター建設などのハードルは残っている。
何かのきっかけで、AI関連分野の成長期待が萎むことも考えられる。中東情勢の緊迫化、それによる物流の目詰まりなどで、半導体供給が不安定化するリスクもある。
それに加え、イラン戦争の影響などで物価上昇の懸念があるかもしれない。
米国などで金利が上昇すると、データセンター向けの融資の焦げ付きや、IT先端企業の業績、財務内容の悪化要因にもなりうる。株価が勢い良く上昇しているときこそ、先行きは慎重に考えたほうがよいかもしれない。
■日本、韓国、台湾で株価が急上昇した理由
4月以降、世界的にAI関連銘柄主導で株価は堅調な展開を示している。特に、半導体の部材や電線などAI関連企業が多い、日本や韓国、台湾の株価上昇は顕著だ。
日経平均上昇の中身(構成銘柄の値動き)を見ると、キオクシアなど一株当たりの価格が大きい銘柄(値嵩株)に資金が流れ込み、数銘柄でインデックス全体を押し上げた。“AI一極集中相場”というべき危うさがそこにある。
年初から5月上旬の間、世界の株式市場は8%程度上昇した。株価の動きを国と地域別に見ると、韓国、台湾、そして日本の株価上昇が突出して高かった。その間、日経平均株価は20%超上昇した。IT先端銘柄の組み入れが多い、米ナスダック総合指数の上昇率を上回った。
日韓台に共通するのは、先端レベルの半導体の製造、それに必要な企業、産業が集積していることである。

4月末、韓国サムスン電子の1~3月期決算で、半導体部門の営業利益は53兆7000億ウォン(約5兆7000億円)、四半期で過去最高になった。前年同期比では48.8倍だ。韓国のSKハイニックス、米サンディスクなど半導体メモリーメーカーの株価も上昇した。
■半導体に強いキオクシアが大躍進
日本の連休中、米国では、大手半導体設計開発企業のアドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)が1~3月期の決算を発表した。純利益は前年同期比95%増、こちらも高い増益率を記録した。
連休明けの7日、わが国ではキオクシア(旧、東芝メモリ)の株価が急伸した。同日、制限値幅の上限(ストップ高水準)の前営業日比7000円(19%)高で取引を終えた。世界の主要な半導体関連銘柄が急騰したのは、AIの開発、学習、利用の加速に伴い、より多くの半導体が必要になったからだ。
演算装置の需要増加によって、NAND型フラッシュメモリーなどデータセンターなどで使うメモリーの需要も急増するとみられる。その中でも、AIに対応のソリッド・ステート・ドライブ(SSD)で、競争力が高いキオクシアの業績期待は一段と高まった。
それと同時に、7日、イビデン、アドバンテスト、ソフトバンクグループ(SBG)など、AI関連の銘柄にも投資資金は殺到した。値嵩株のアドバンテスト、SBGだけで日経平均株価は1260円程度押し上げられた。

■冷静な人は「NT倍率」を確認している
5月7日、日経平均株価とTOPIXの比率である、NT倍率(日経平均株価÷TOPIX)は16倍を超えた。これは、長期の平均(約12.6倍)から大きく乖離している。先行き強気になった投資家が多いだけに、リスク要因について冷静に頭に入れておくことは重要だ。
現在、AIの成長について、やや期待先行気味の部分もある。世界最大の資金運用会社、米ブラックロックのラリー・フィンク最高経営責任者(CEO)は、「AIバブルは存在しない。実際は逆で需給逼迫が起きている」と喝破した。
AIチップなどの成長期待は膨張し、“神話”のような強気論が市場を覆いつつある。たしかに、中長期的にAIの成長期待は高いが、毎年、AI関連企業の収益が倍増する状況が永久に続くとは考えにくい。株価上昇があまりに急である分、何かのきっかけで、相場が急速に調整することも想定される。
■原油高だけではない、中東情勢の影響
世界的に建設事業が急増している。AIデータセンターの運営にも懸念がある。オラクルなど大手企業でさえ、データセンター投資の急増によって財務悪化懸念は高まっている。

プライベート・クレジットと呼ばれる、ノンバンク融資がデータセンター建設に多用された点も懸念材料の一つだ。融資が焦げ付くのではないかという懸念から、資金の引き出し増加に直面するファンドがあるようだ。
データセンターの収益化に、想定以上の時間がかかることも懸念される。その場合、プライベート・クレジット・ファンドの解約はさらに増えるだろう。それが、金融機関の業績悪化につながるリスクは軽視できない。
半導体の供給が、予定通りに進まないリスクもある。イラン戦争は、世界の半導体サプライチェーンにも潜在的な打撃になりうる。カタールの石油化学プラントが攻撃されたことで、半導体製造工程の冷却に使うヘリウムの供給は減少した。
特に、回路線幅10ナノメートル(ナノは10億分の1)以下の先端チップで、ヘリウムの消費量は多いといわれている。代替も難しいようだ。エネルギー資源価格上昇による台湾などでの電力不足も、半導体供給の制約につながり、AIチップ供給が伸び悩み、成長期待が崩れる恐れもある。
■自動車関連株のほうが実態に近い
足元の状況を考えると、当面、株価の堅調な展開は続くだろう。
ただ、今後の株価動向には、慎重なリスクの分析が必要になるだろう。
今後、イラン戦争の影響などで、先行きの経済成長率は鈍化すると懸念される。それは、企業の業績にマイナスだ。年初来、世界的に小売りや自動車関連の銘柄が売られた。AI関連銘柄と好対照だ。在来分野の株価の推移のほうが、世界経済の実態を冷静に反映しているように見える。
自動車、住宅などの業績懸念を高めた要因として、資材の不足に加え、金利上昇リスクの高まりも大きい。特に、米国の金融政策が引き締め気味に変わるかもしれない。4月の連邦公開市場委員会(FOMC)では、3名の参加者が現状維持は賛成としつつも、緩和的な金融政策を継続するスタンスに反対した。
2021年秋から2022年春にも、米国の金融政策は重要な転換点を迎えた。コロナショック対策としての財政支出の増加により、世界全体で需要は上振れた。さらに、2022年春のウクライナ戦争で、インフレは加速し、米FRBは急速に利上げを実行した。
金利上昇によって当時、世界のデジタル化は鈍化し、半導体の需給バランスは急速に緩んだ。
■「AIは成長し続ける」は本当か?
イラン戦争で、世界的に景気減速と物価上昇が進む恐れもある。FRBやECBなどが金融引き締めを志向すると、世界的に金利上昇は鮮明になるだろう。
それは、消費者、企業、政府の借り入れコストの上昇、財務・財政の悪化要因になる。景気が後退すると、個人や企業のAI利用需要は減少し、AIチップ供給は過剰になることも考えられる。
足元の株式市場参加者は、「AI関連分野の成長は加速する」と都合のよい前提に集中しているようだ。株式アナリストの業績予想も、株価上昇をある意味で正当化するかのように、かなり楽観的な内容に傾いている可能性は高い。
確かに、目先、わが国のAI関連銘柄など、強気な相場展開が続く可能性はある。しかし、いつまでも相場が上昇し続けることは考えづらい。株価がしっかり上昇しているときこそ、株式市場の先行きは冷静に考えたほうがよいだろう。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)

多摩大学特別招聘教授

1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)
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