8月22日放送の第8話は、急展開に次ぐ急展開、登場人物の置かれた状況とその際とる行動が、見る者の予想を裏切って、どんどん変化、進展していった。
放送はあと2回。29日の第9話を前に、8話を振り返っておこう。
まずは、氷崎游子(松雪泰子)を執拗に怨んでいる、アルコール依存症の駒田(岡田浩暉)が、ついに游子とその家族を狩ってやる!と家に忍び込む。が、認知症のお父さん・清太郎(井上真樹夫)にやりこめられて逃亡。その果てに、死体となって発見される。当初、自殺と思われたが、他殺かもしれないという謎を残すのだった。
このエピソードの中に、逆転がいくつも入っている。やられたーと思う逆転の最たるものは、認知症のお父さんの奮闘だが、駒田が遺書にダイイングメッセージ的なもの残しているところも競っている。
お父さんも駒田も社会的には打ち捨てられそうな弱者と見られているわけだが、彼らはしぶといのだということが描かれていることは喜ばしい。
次に、刑事・馬見原(遠藤憲一)。ヤクザの油井(谷田歩)に罠を仕掛けられ、殺人犯にさせられてしまう。しかも、やけに手回しのいい流れは、警察も関わっているためらしく・・・。
油井に追いかけられている元妻・冬島綾女(水野美紀)は、息子・研司(須田瑛斗)に重傷を負わされ、ついに油井を殺そうとするが、相手は男だし、ヤクザ。女の力及ぶところではない(水野美紀自身はアクションできる強いひとだけど、綾女はそういう設定ではないので)。
そこへ、馬見原の容疑をはらそうと、部下の椎村栄作(平岡祐太)がやってきて、油井と椎村の対決のどさくさに紛れて、ついに綾女は油井を仕留める。
皮肉にも、綾女を異常なまでに愛している油井の死に様(死んだよね?)が壮絶にロマンチック。
このとき、主題歌の「息がつまるよ、息がつまるよ」のフレーズがかぶるが、間違った愛情によって崩壊していく人間たちの姿に、ほんとに息苦しくなった。
「家族狩り」の優秀助演男優賞は、岡田浩暉と谷田歩の一騎打ちだと思う。ふたりとも、制御不能の人間の業を全身で演じていた。あ、でも、井上真樹夫も捨てがたい。
そして、椎村、上司思いのいいやつだった(死んだのかな、死んでないのかな?)。前回レビューで疑ってすまん。でも、まだ、油井と警察との関係の謎が残っているし・・・。
そして、なんといっても、游子の相談相手であり、児童心理司仲間の山賀葉子(財前直見)の秘密を、游子が知ってしまうところが、8話のハイライト。
携帯電話という小道具を使って、事件現場に游子の使っているシャンプーの香りが残っていたわけも、葉子とシロアリ駆除業者の大野(藤本隆宏)との関わりも、ドラマの終盤、たたみかけけるようにわかっていく。
游子が、部屋のドアを開けたとき、彼女のアップから、カメラが上桟にあがって、天井を突き抜け、空へとあがり、家を俯瞰する。言葉ではなく画で謎が一気にわかるのはなかなかの快感であった。
「家族狩り」は当初から、映像技術を駆使して印象的に見せる場面がいくつもあって、そこも見どころのひとつであった。ここは、制作協力のROBOT(「MOZU」や3DCGの「STAND BY ME ドラえもん」を手がけている)の力によるところが大きそうだ。
そして、理想が高く厳しい父との確執を抱えた登校拒否の女子高生・芳沢亜衣(中村ゆりか)の家を訪ねる山賀。彼女が「この家族を生まれ変わらせましょう」と呼びかけるのだが、なんだかその言葉が意味深に響く。
亜衣と山賀の会話もひりひりした。
ネットを使って父の仕事上の信頼を失墜させ、荒れ具合が頂点に達している亜衣に山賀は、「あなたは認められたいのよね、あなたのすべてを受け入れてもらいたいのよね」と語りかけるが、亜衣には響かない。
「なにわかったようなこと言ってるんだよ」と歯向かう。
が、山賀は百戦錬磨。ひるまず、「だったらどうしてひとりで苦しんでいるの。
ここで、天岩戸が開くか? と思ったが、
「バカかばばあ。こんな家族になんも期待してねえよ。全員殺してやる」
と亜衣の心は一向に開かない。
亜衣は、最初から徹頭徹尾、荒んでいて、とりつくしまがなく、意外性はそんなにないのだが、そんな彼女に最も驚かされたのは「ぶっKILL YOU(ぶっ殺す)」の台詞。
「SPEC結〜爻ノ篇」で、栗山千明が言ってる台詞で、「劇場版ATARU」でも言っていた。
こんなにも真面目なドラマで、しかも、つかみではなく、クライマックスに近づいているにもかかわらず、セルフパロディ(プロデューサーが同じ)をやってしまう製作陣の心理こそ、最も深淵で理解するのが難しい(褒めています)。まあ、おもしろい造語だから、流行らせていいと思うが。
こんなふうに、人の心のわからなさや、人間関係を結ぶ難しさを描いている「家族狩り」ではあるが、駒田の娘・玲子(信太真妃)の健気さには涙が出た。自分に暴力をふるったり、経済的に困窮させたり、どうしようもない父だというのに大事に思い続け、「おとうさんを許してください」「わたしなんでもします」と施設の靴を懸命に磨いている、この決して裏切らない無償の愛情こそ、このドラマの光ではないか。
肩をすぼめた感じが哀れを誘い、この子役、かなりの強者、と思う。
前半大暴れした山口紗弥加の出番が最近ない分、後半、岡田浩暉、谷田歩、井上真樹夫、信太真妃と、(もう死んじゃったけど)実森くん役岡山天音らが印象に残る。(木俣冬)