『芝居のある風景』(白水社)著者:矢野 誠一Amazon |honto |その他の書店

◆日々の営みと舞台の思い出
演劇評論それ自体が、芸能となって読者を愉(たの)しませる。口で言うのはたやすいが、そのむずかしさはよくわかる。


戦前、戦時の暮らしを知る矢野は、かつて観(み)た舞台にまつわる思い出を、昭和の風俗とともに活写する。大言壮語や説教教訓、大嫌い。酒場やキャバレーや競馬場やストリップ劇場やデパートが顔を出し、日々のいとなみの大切さが綴(つづ)られる。劇場や寄席はその地続きにあるから、悪所通いはやめられない。

市民のための鑑賞団体、都民劇場の月報のために書かれた短文を集めた。気の向くままと思わせながら、実は巧みに仕組まれた芸である。芸能に優劣などはない。森光子の「放浪記」や伊藤一葉の奇術や中村伸郎の「授業」がいかに、お客をもてなしたかを活写する。かとおもうと文末は、直近、都民劇場が取り上げる舞台に、ひらりと着地する。

軽みのある「オチ」や「サゲ」を見せ、力まない。ひとときの気散じの大切さをよく知る矢野が、澄み切った芸境を見せた。

【書き手】
長谷部 浩
1956 年生まれ。
慶應義塾大学卒。演劇評論家、東京藝術大学名誉教授。 現代演劇から歌舞伎まで幅広く評論活動を展開。著書に『4 秒の革命 東京の演劇1982-1992』(河出書房新社)、『傷ついた性 デヴィッド・ルヴォー演出の技法』(紀伊國屋書店)、『野田秀樹論』(河出書房新社)、『権力と孤独 演出家 蜷川幸雄の時代』(岩波書店)、『天才と名人 中村勘三郎と坂東三津五郎』、『菊五郎の色気』(いずれも、文春新書)、『菊之助の礼儀』(新潮社)など。蜷川幸雄との共著に『演出術』(ちくま文庫)。また、編著に『坂東三津五郎 歌舞伎の愉しみ』、『坂東三津五郎 踊りの愉しみ』(いずれも、岩波現代文庫)などがある。紀伊國屋演劇賞審査委員。

【初出メディア】
東京新聞 2023年5月14日

【書誌情報】
芝居のある風景著者:矢野 誠一
出版社:白水社
装丁:単行本(214ページ)
発売日:2023-03-16
ISBN-10:4560094934
ISBN-13:978-4560094938
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