『ローマ人の心 古代帝国の実像に迫る』(講談社)著者:南川 高志Amazon |honto |その他の書店
同時代の隣人の気持ちであっても分からないことが多いのに、他の時代や地域に生きる人々の心などどうして知れようか。

この難問に毅然(きぜん)ととり組んだ本書はそれだけで傾聴に値する。
著者はローマ帝政期の政治史を専門とする歴史家であるが、政治や国家の根底にはそこで生きる人間の「心」が問題であることが気になっていたらしい。

数十年前から社会史研究の拡(ひろ)がりのなかで「心性史」が取り沙汰されていたが、著者の探りたい「心」はそれとは異なり、広大な帝国の統合を支えたものとしてのローマ人の「思い」であった。出自に縛られず社会で上昇できる見通しと希望があれば、生と死をめぐる拠(よ)り所は家族だけではなく家族外の世界にも見出(みいだ)すことができる。

最盛期のローマ帝国において、夥(おびただ)しい数の墓碑、記念碑、肖像が作られた背景には、永遠の憩いに配慮できる時代があったことは忘れるべきではない。少なくとも、「最も幸福だった時代」と人々が伝えようとしていたにちがいない。この「幸福な時代」の指摘は、広大な地域を長期にわたって安定した平和が実現するという人類の願いを考慮すれば、ひときわ重要かつ卓抜な論点を示唆してくれる。

【書き手】
本村 凌二
東京大学名誉教授。博士(文学)。1947年、熊本県生まれ。1973年一橋大学社会学部卒業、1980年東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。東京大学教養学部教授、同大学院総合文化研究科教授を経て、2014年4月~2018年3月まで早稲田大学国際教養学部特任教授。専門は古代ローマ史。
『薄闇のローマ世界』でサントリー学芸賞、『馬の世界史』でJRA賞馬事文化賞、一連の業績にて地中海学会賞を受賞。著作に『多神教と一神教』『愛欲のローマ史』『はじめて読む人のローマ史1200年』『ローマ帝国 人物列伝』『競馬の世界史』『教養としての「世界史」の読み方』『英語で読む高校世界史』『裕次郎』『教養としての「ローマ史」の読み方』など多数。

【初出メディア】
毎日新聞 2026年5月23日

【書誌情報】
ローマ人の心 古代帝国の実像に迫る著者:南川 高志
出版社:講談社
装丁:単行本(344ページ)
発売日:2026-02-12
ISBN-10:4065420652
ISBN-13:978-4065420652
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