一般人の巻き添え率が高すぎるジョジョ世界


鉄塔の中に引きこもるスタンド・スーパーフライは近寄ってきた相手だけが標的で、外の世界には迷惑をかけない。なんて善良なスタンドなんだ……と胸を打たれるぐらい、巻き添えを食う一般人が多すぎるジョジョ業界。
「ジョジョの奇妙な冒険」エニグマの「だまし絵」攻撃をアニメで完全再現
公式サイトより

口を縛られて焼却炉に入れられた犬のダニーはジョナサンの「関係者」としても、ほとんどの住人がゾンビに変えられたウィンド・ナイツ・ロットは完全なトバッチリだ。

そしてディオとジョナサンの最後の戦いとなった豪華客船は爆発炎上……吸血鬼を新大陸に渡らせないためとは言え、主人公が波紋をぶち込んだゾンビによりエンジンを暴走!

ストレイツォに襲われた第二部の若ジョセフ、トンプソン機関銃をぶっ放してオシャレなカフェは全壊。さらに手榴弾もトッピングされ、人間の犠牲者はいなかったが、罪もないカフェがかわいそう。じかに被害は描かれなかったものの、究極生物カーズを倒した火山の噴火も環境への悪影響がハンパなさそうだ。

第三部は日本からエジプトまで旅するロードムービー構成のため、「乗り物」の巻き込まれ事故が多い。航空機の中でのタワーオブグレイによる舌の連続串刺しに続く不時着、フォーエバーが乗っ取った貨物船では乗組員が皆殺し。DIOに前歯をへし折られて歩道に突っ込んだ上院議員の車に跳ねられた人が少なくて済みますように………。


街を出ない第四部は、スタンド使い以外はかなり平和だ。その分、後のシリーズ第六部では「世界に影響や与えるスタンド」が次々と出て、エライことになりますけどね。

背中を見られるのを嫌がる一級建築士


3つの事件が同時進行する「7月15日」シリーズその2。時系列がこんがらがるスタンドバトルが再び開幕だ!

7月15日(木)10時43分

「誰だ?知らない奴だな」
「こんにちは。お電話いただきました建築設計の乙です。火事の修理と改装見積もりの件で参りました」

いきなりヘブンズ・ドアー! あいさつ代わりに相手を本に変えて、用心深いにも程がある露伴先生。1970年生まれで一級建築士・乙雅三。
家の修理につき電話をした人で、スタンド使いや敵という情報は載ってない。

が、ふと目が止まる「わたしは人に背中を見られるのが嫌だ」という記述。ブツブツやキズがあるわけでも入れ墨をしてるわけでもないけど、絶対いやだ! 「彼女ができない どうしよう」の切実さも胸にグッとくる。

念のため「この露伴には攻撃できない」と書いておく露伴先生。こいつなら平気そうだと家に招き入れるが、ドアに背中を擦り付けて見せまいとするムーブがあからさまに怪しい! 漫画よりも動きの付いたアニメ版のほうが怪しさ爆発だ。

宇宙人なのにイケメン! ミキタカのかっこよさ


その頃、鉄塔にて謎の男は「鋼田一豊大」さえも偽名であり、顔もマスクだったと明かす。吉良吉影さえどこに行ったか見つけられない仗助達が、鋼田一(仮名)を逃してしまえば逃げ切られる恐れは極めて高い……。
このシーンから、唐突に顔がマスクっぽくなるのが少し笑える。

断固として鉄塔の男を逃すまいと、鉄塔に入ろうとする仗助。そのとき、ストップを掛けるミキタカの態度がカッコイイ。

「私がこの鉄塔に残ります。そもそもは私が見つけたことが始まりですし、こうなったのも自分が勝手にワイヤーに変身して上ったからです」
「『僕だって少しはやるんだぜ。ちょっとは見直したかい』って思ってもらうためにやったんです」

宇宙人なのにイケメン! ここまで男を見せられちゃ、逆に仗助さんが引っ込むわけがない。
トンズラしようとする鋼田一の前に、切断された鉄塔のロープを「直す」ことで上ってくる仗助。ここで精神のスイッチが入ったのと呼応するように、画面の色使いもカチッと切り替わってカッコいい。原作漫画は基本的にモノクロだが、心情のアツさに合わせて色指定をいじれるアニメ版の強みだ。

バカな!と驚く鋼田一に目もくれず、ミキタカに「あと10秒ほど待ってくんねーか?今この野郎をブチのめして鉄塔内に連れ戻してからおめーを治してやるからよー」と言い放つ仗助。

「今私は「バカな」と言ったけどそれは言い間違いで正しくは「バカめ」と言い直すよ。鉄塔から出るだけでよかったのに…お前らの誰も殺すつもりはなかったのに…」
「これじゃあお前をここから突き落とさなくては逃げられねぇじゃあねぇか!このバカめが〜!」

鋼田一、根はそんなに悪いやつじゃあないが、エゴイストには違いはない。
パワーもスピードも最強クラスのクレイジーD(ダイヤモンド)に生身で立ち向かうのは無謀そうだが、鉄塔は彼にとってのホームであり、仗助にはアウェイ。生身でスタンドのラッシュを避けきり、鉄塔を自由自在に登る体術はパルクールのようだ。足を滑らせて鉄骨にしがみつく仗助の上に、ヨダレをたらーり。嫌がらせ(しかも有効)の粘液表現まで力を入れてる作画スタッフ!

ふざけんな!仗助を怒らせている間に、ナイフで既に鉄塔に傷をつけていた鋼田一。反射エネルギーは避けられないスピードじゃないが、鉄塔の主はやり飽きたビリヤードのように熟知していた。ビームのように四方八方のオールレンジで飛んでくるエネルギーは、ボットアニメじみている。


両腕に傷を負った(ここに表現規制が入るのは意外)をやられた仗助、万事休すか。しかしピンチは最大のチャンスなり。「飛ばすぜ!トドメのエネルギーを」と意気込む鋼田一を見もせずに、叩き返した攻撃の数を億泰に訊ねる仗助。クレイジー・Dの能力は、破壊されたモノやエネルギーを直すこと。つまり……

「反射してくるエネルギーを直して傷をつけた場所に逆行させていた…」

ミキタカの言葉通り傷めがけて逆行し、鋼田一を切り裂くエネルギー! 「やはりおめーのセリフはよー「バカな」だったな!」とはジョセフと仗助が親子だなあ…と思わせる決め台詞だ。

この後、気絶した鋼田一から滴り落ちた血が仗助の手を濡らして転落を招き(鋼田一にそのつもりはない)、クレイジー・Dが鉄塔を殴った反射エネルギーが仗助を鉄塔にぶっ飛ばして一命を取り留める……という原作のやり取りはカット。そして鋼田一の謝罪タイム。

「写真のおやじにスタンド使いをここに一人でも閉じ込めたら外の世界で生活する面倒を見てくれるって言われて、ついその気になって…」

写真に閉じ込められた幽霊にどうやって面倒を見てもらうつもりだったんだ……それだけ孤独は心を蝕むということか。

「お願いです〜!この鉄塔に帰らせていただけないでしょうか?もう一生ここから出たくないんです〜!」

そんなわけで杜王町の観光スポットがまた誕生。「杜王町新名所・送電鉄塔に住む男。全てを自給自足で生活しているが塩とかお菓子を持っていくと喜んで写真を撮らせてくれる。恥ずかしがり屋なので仮面をかぶり本名は教えてくれない」

写真のおやじとコンタクトした鋼田一から聞き出された話は、恐るべき情報だった。

「写真のおやじは吉良吉影の居場所を見つけたようで(注:アニメオリジナルの台詞)これからは積極的にこっちから攻める番だ。既に新手のスタンド使いがコーイチというスタンド使いを始末した」ただそういったのです」

同僚の首筋に(爆破したくて)ムラムラする吉良


7月15日 10時58分

「うわ〜!このドア80万円はしますね。それにヴィクトリアンエドワード様式のデザインにイギリスで加工した建材を使ってますし…」

ヒドい焼け方をしている露伴邸、そりゃあ仗助との遺恨が残りますわ。しかし相変わらず背中を壁から離そうとしない乙マサカズに対して、まずはお茶を出してスキを伺う露伴先生の第一手…。

7月15日 11時16分


故・川尻浩作の職場ではたらく吉良吉影、やはり基本スペック高い。同僚の女性のクビに湧き上がる衝動を「押さえなければ…今はまだ」とブレーキ。もちろんセクハラ的な意味じゃあなく、首を絞めたり爆破したいムラムラだ。爪の伸び方がすごく、殺人衝動が漏れ出ている……。

ハイウェイ・スターの噴上裕也、味方として復活!


7月15日 10時20分

「コーイチ君…無事に見つかるといいですけどね…」
仗助達の身を案じる鉄塔の男……もう仲間になってる! ミキタカが居残りで、「鉄塔男と宇宙人」が仲良しになってるアニメオリジナルが微笑ましくもある。

7月15日 11時37分

「くそ〜いねぇ!家にも学校にも!どこにも!」

原作では康一くんがピンチの間に億泰が何をしていたのかが謎だったが、アニメ版ではナイスな補完がされている。康一、どこだ康一〜と路上で叫ぶ億泰の友情がアツい。

「そういうわけでよー。おめーの匂いの追跡能力で康一探すの協力してくれるならよー噴上裕也!」

つい数話ほど前に露伴先生から「だが断る」の名セリフを引き出し、バイクチェイスの末に仗助に治されてふっ飛ばされた噴上裕也、再び登場。行方不明になった康一くんを探し出すために、「臭いの追跡能力」をアテにしてのことだ。

「ケガ治してやるぜ。これは取引だぜ」
「ふざけるな〜仗助!俺を舐めるなよ。俺をこんなにしたおめーを俺は許さねぇ!」
「この噴上裕也のプライドが協力するとでも思ってんのかよ〜!」
「やはりNOかよ。最初から無駄だと思ってたけどよ。じゃあまたな。時間ねーからよー」
「そうあっさり引き下がんのかよ。待てよおい。もうちょっと駆け引きしてくれよ〜」

この2人の不良のやり取り、実にベネ(いい)! 「元々最初に事故ったのは俺の自業自得だしおめーには恨みはねぇよ。だから早い所直してくれねぇか?」と不安をあけすけにさらけ出し、遺恨はきっぱりと残さず本音を語る裕也。これはスケバンでなくっても惚れますわ。

そういうと見越していた仗助は、すでにクレイジー・Dで怪我を治してやっていた。

「ンン〜。俺ってよ〜。やっぱりかっこよくて美しくいよな〜。控えめに言ってもミケランジェロの彫刻のようによ〜」

バラをまとって(イメージ)顔や全身を鏡に映し出し、我ながら惚れ惚れする裕也。ちなみに荒木先生は独特なポージング、いわゆる「ジョジョ立ち」はミケランジェロ等イタリアの彫刻を参考にしたと公言されており、裕也の自惚れは実は正しいかもしれない。

「でもなんか前より目じりがタレ目になったような気がするが…」
「イチャモンつけてんじゃねぇ!それよりおめーの能力ってどの程度嗅げんだ?」

しょーもないやり取りが楽しい仗助と裕也。「猟犬のように頼ってもらっても困るけど」と謙遜する裕也だったが、いま取り巻きのレイコとアケミとヨシエがパチンコ屋から帰ってきていて(スカートのケツあたりが汗臭えから)景品の中からチョコを嗅ぎ分ける鋭さはそれ以上だ。

逆スパイダーウォークのアニメ化


7月15日 12時5分

(何なんだこいつは…ここまで背中を隠す理由は何だ?)

ブリッジして背中を下にして、階段を登る異様な姿を見れば、露伴先生でなくてもそう思う。この姿は映画「エクソシスト ディレクターズカット」(本編ではカット)にある、えび反りして階段を降りる少女(通称「スパイダーウォーク」)の逆パターン! 『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』の著書を持つ原作者だけのことはある。このシーンが動き付きで見られるアニメ版はなんて幸せなんだ。

「ああかゆい。かゆいなぁ。でもうまく手が届かないなぁ。初対面の人の背中かいてくださいって頼むの失礼ですかね」

ミエミエの芝居で引っ掛けようとする露伴先生には、「好奇心は猫を殺す」という言葉を贈りたい。猫に厳しい(DIOの猫バーガーとか)ジョジョ世界ですから、スタンド使いにはなおのこと厳しいのだ。

ようやく回収された「恐怖のサイン」の伏線


7月15日 12時28分

康一くんのカバンが落ちていた場所に祐也を連れてきた仗助。が、鋭い嗅覚は不気味な気配をすでに嗅ぎ取っていた。

「仗助…お前と俺の取引っつーのは俺が戦うのは入ってねーよな追跡だけだよな?」
「あの男から康一と同じ匂いがする!あいつは康一の品物を何か持っている!」

凄まじい集中線! 強者のオーラを発散してジョジョ立ちする少年につかみかかる仗助。だが、手にしていたのは母親・東方朋子だった……?

(確かに承太郎は2秒ほど時を止められると聞いたがそんなもんじゃねぇぞこれは!人間一人持ってくるなんて承太郎だって不可能だ!)

なぜ承太郎の「時を止める」能力どころか秒数まで知ってるんだ裕也! 杜王町ガイドブックに書いてるのかと心配になるが、どこでも忍び込める写真のおやじが情報を集めて共有していたのか……と勝手に補完しておきたい。

どこに行ったか裕也に訊ねる仗助。しかし、触っていた本人が分からないものが、遠くの裕也に理解できるはずがない。まだ匂いは消えてないから近くにいる……という存在感が恐ろしい。

謎の少年が仗助の母を出したのは、仗助を観察するためだった。

「観察だ…フフフ。我がスタンド「エニグマ」は観察する。広瀬康一もお前の母親もエニグマはじっくりと観察する」

7月15日 07時37分

時間はエニグマが仗助の母・朋子を「観察」した朝に遡る。前回(第31話)07時33分の続きで、静まり返った家の中に誰かの気配を感じた朋子。いつの間にか目の前には湯気を立てたコーヒー、そして布巾のように折りたたまれた布切れは「おまえのパンティーだ」と書かれたパンティー……。

「恐怖を感じない人間はいない。怖いという態度や表情を押し隠そうとしても駄目だ」

エニグマの少年はホラー的な恐怖を語ってるものの、これ変態ストーカーの恐怖じゃないですかね。いずれにしろ「恐怖」に違いないとはいえ。

気丈に包丁を構えてお金だったらあげないわよ!という朋子に対して、お金なら払いたいぐらいだ、今僕はすごく楽しんでいるのだから…という少年。恐怖であなたが注目して僕を見ていることがね。

「今見て分かったのだがあなたひょっとして怖がった時唾飲み込む癖ありますね。どんな人間でもビビった時無意識のサインを出すものなんだ」

少年が鎌倉カスターのかじり口をレロレロすると、またつばを飲み込んだ朋子。そんな「恐怖のサイン」を見つけたとき…エニグマは絶対無敵の攻撃を完了する!

エニグマの「恐怖のサインを出した相手を紙にする」攻撃は恐怖かつオシャレ。無数の朋子の像が白、エニグマの像が黒のニコイチで組み合わされ、一枚の絵になる……これはエッシャーの「昼と夜」や「空と水」のようなだまし絵を思わせるもの。原作の緻密な絵に動きをつけてアニメにしたとてつもなさ、今回も総作監の西位さん、石本さんやメイン作監がほぼ勢揃いで、力が入ってるわけですよね。

そして康一くんの恐怖のサインは「瞬きを二度」することだった。母・朋子を見た時の仗助のそれは「下唇を歯で噛む」!康一くんが虹村形兆に殺されかけたとき、ハイウェイ・スターとのバイクチェイスでコーナーを曲がるときなど、アニメ版が30話近くかけた伏線が回収された瞬間だ。

「この次に仗助が恐怖しそのサインを出した時エニグマは仗助をこの世界から始末する」

裕也の目線から、母の上着に康一くんが入ってるかもしれないと推測する仗助。

「戦うのも手伝う約束もしてねぇぜ。約束は追跡だけだ。これ以上はヤバすぎんだよ!」
「ケガを治してもらった取引なのによぉ〜。自分の身をヤバい状況にさらすのはアホのすることだぜ!そいつは不気味すぎる!悪ぃけどよぉ…」

仗助を薄情に突き放すわけではなく「怖いから」協力をためらう裕也の葛藤、本当にいいやつだ。しかし、迷ってる暇はない。確かめるしかねえ!と仗助がポケットに手を伸ばし、次回に続く!
(多根清史)