
佐藤浩市演じる愛知佐一郎のモデルは、トヨタ自動車創業者の豊田喜一郎(何しろドラマにはトヨタが全面協力している)。これに対し、内野演じる山崎亘にもちゃんとモデルがいる。トヨタのお膝元・愛知県でトヨタ車の販売を担う愛知トヨタの初代社長、山口昇その人である。今回、劇中には山崎亘が支配人として勤める自動車販売店として「日の出モータース」という会社が出てくるが、山口昇はまったく同じ名前の会社でやはり支配人を務めていた。
中等学校野球のエースが夜逃げするまで
山口昇は、愛知県碧海郡新川町(現在の碧南市)の出身。ちなみに碧海郡は、昨年の大河ドラマ「真田丸」で内野聖陽の演じた徳川家康の生地・旧三河国に属する。
山口は地元の高等小学校を1910(明治43)年に卒業すると、上京して慶應義塾の事務員をしながら同義塾の夜間商業に入学、さらに1913(大正2)年の春には慶應商工本科1年に転入学している。年齢的にはいまの高校生に相当する。在学中は、慶應義塾普通部の野球部で活躍した。1916年に大阪・豊中球場で開催された第2回全国中等学校野球大会には主将にしてエースとして出場し、優勝に導いている。翌年には慶應義塾大学予科に入学したものの、実業団の台湾製糖にスカウトされ、軍隊に入るまで1年ほど、当時日本の植民地だった台湾に渡っている。いまからちょうど100年前、1917年のことだ。