5月19日放送回では「日本ユニセフは寄付金から中抜きしている」「利益率19%っていい商売だな」というツイートを紹介。番組は港区にある日本ユニセフ協会を訪ね、広報担当者にスタッフのスマホを見せた。質問は直球だ。
スタッフ「SNSで上がっている内容ですが、これは事実ですか?」
ネットに拡散した情報をテレビが検証
番組開始は今年の4月。これまで取り上げたテーマは、「少年法は戦争孤児のために作られた」「乗り物酔いにコーラが効く」という出典不明なツイートや、「世論調査の方法」「週休二日制と完全週休二日制の違い」といった誤解されがちな情報などさまざま。
前述の日本ユニセフ協会に関するツイートも、検証によって事実ではないことがわかる。日本ユニセフ協会とユニセフ本部の違いや、募金の流れ、活動費として認められている範囲など、検証VTRではテロップや図解を交え丁寧に解説する。
そもそも『ファクトリサーチTV』が始まったきっかけは、番組MCである、いとうせいこうのツイートだった。
前にも書いた「その週バズったニュースを検証し、フェイクかどうか示し、ネタ元まで遡る週末のテレビ番組」。テレビ関係者に「やって下さいよ」と言った時はその意義が伝わってなかったけど、今なら危機感を共有出来るのでは。誰がどこでやってもいいから、ひたすら事実に忠実にオンエアして欲しい。
— いとうせいこう (@seikoito) 2018年2月11日
ただ、ネットとテレビのスピードは大きく異なる。デマツイートから番組放送まで1ヶ月近くかかることもあり、「その週バズったニュース」の検証は難しい。それでもテレビという「スローメディア」が持つ役割を、いとうせいこうは近著『ラブという薬』で語っている。

結論までのスピードを落とす
『ラブという薬』は、いとうせいこうと、精神科の主治医である星野概念による対談本。つらい気持ちを抱えた人がもっと気軽に精神科に通えるように、という動機から対談が企画され、2人の普段のカウンセリングの様子や精神科医の考え方などを語り合う。
話は転がり、3章あるうちの最後の章は「ネット時代のコミュニケーション」に及ぶ。カウンセリングには「傾聴と共感」が必要不可欠であり、小さな声に耳を傾けることが求められる。一方、ネットでは言葉のスピード感が重視され、時間をかけて考えることが難しくなっている。
いとう よく考えて十分に用意していいことを言ったときには、別の話題に世間の関心が移っているて、「そのことはもうどうでもいいんだ」みたいにされちゃう。
「本当は、スローメディアの信頼感ってものすごく必要だと思う」と、いとうせいこうは言う。答えを急ぐことは、ヘイトや不寛容なツイートにつながる。立ち止まり、結論までのスピードを落とせたらいい。そしてそれは、カウンセリングも同じ。極端な結論に飛びついてしまう患者に会話を投げかけ、思考スピードを落とすものだから。
星野 何か話題になっている問題に対して、それなりに説得力あることをコメントしなければならないっていう脅迫的な義務感が根底にあるのではないかと思います。「○○しなければならない」っていう考えって、自分に義務を課すことなので、負担ですよね。別にコメントなんてしなくても大丈夫なのに、勝手にその義務を負わされた感じになってしまう。
『ファクトリサーチTV』はワイドショーのような「断罪」をしない。発端はデマだとしても、その背景や対策を考え続けるよう作られている。安易な断罪もまた、結論までのスピードを急ぐことなのだ。
すべてがフェイクの大学!
6月2日深夜の『ファクトリサーチTV』が取り上げるのは「国際信州学院大学」。HPやサークル活動、マスコットキャラ、教職員のSNSアカウントまで緻密に作り込まれた「架空の大学」に、ネットは混乱した。その当事者に直撃取材する。
国際信州学院大学の全てがフェイクだと話題になった発端は、存在しないうどん屋の「国際信州学院大学の教職員に予約を無断キャンセルされた」というツイートがバズったことだった。
このバズも「コメントしなければ」「断罪しなければ」というスピード感を逆手に取った「罠」だったのかもしれない。
『ファクトリサーチTV』(テレビ朝日 土曜深夜0:35〜)
(井上マサキ)