
「配信中毒」バックナンバーはこちらから
今回紹介するのは、ネットフリックスで配信されている『LEGO HOUSE HOME OF THE BRICK』である。タイトルの通り、2017年にデンマークのビルンに完成した、レゴを題材にしたテーマパークである「レゴハウス」ができるまでを追ったドキュメンタリーだ。
目指すは"究極のレゴの家"! 妥協なきレゴハウス作りが始まる
レゴハウスの発案者は、レゴ社3代目オーナーのケル・キアク・クリスチャンセンである。レゴ社は非上場の家族経営企業であり、ケルはその三代目にあたる人物だ。このケルの持っていた長年の夢である「すべての年代のレゴファンが集まり、レゴの可能性を楽しめる、"究極の家"を作りたい」という発案から、レゴハウスのプロジェクトが始まることになる。
建物の形は、レゴの基本である2×4のブロックを積み重ねたような形にすることがまず最初に決定される。しかし、そのままだと強度確保のために内部に巨大な柱が林立することになってしまうため、建築家は必死で頭を捻ることに。さらに、柱が立つのを避けるために巨大な鉄骨の橋でレゴブロック型の建物を支える構造にしたため、鉄骨の追加発注によってオープン日が一年後ろにずれ込むというアクシデントも発生する。
一方、室内の展示物はレゴの体験開発部門が中心となって確定することに。主要エリアは赤・青・黄色・緑の各ゾーンと、地下のアーカイブと最上階のギャラリーで構成されることになっている。赤のゾーンでは「創造性」をテーマにし、大量のブロックで好きなものを組み立てることができる。青のゾーンは「問題解決能力」を身につけられるような、車を整備したり街を作ったりという課題に沿った展示物を配置する。黄色のゾーンでは「感情」をテーマにし、実際に動く生き物などのモデルを作る。そして緑のゾーンは「社会性」というテーマに沿って、ミニフィグの展示で人との関係性を学び取れる……ということに決定。それぞれのゾーンで展示するものを、子供を相手にした膨大なテストによってひねり出すことになる。
とにかくまあ、レゴハウスの中身に対して全然妥協がないのがすさまじい。レゴ社はプラスチック玩具に参入し始めた頃から「最高だけが価値がある」をモットーにしているのだそうで、大型のアミューズメント施設だろうとそれは変わらない。建物の形をレゴ型にするために平気で1年も予定を後ろ倒しにするし、すべての展示物をオーナーのケルが細かく確認しているところも映される。
妥協のなさということで言えば、内部のレストランの注文方法もすごい。ボードに各メニューを指示するブロックをくっつけ、それを受け付けるとコンベアとレゴっぽいデザインのロボットが注文した料理を持って来てくれるという、絶対楽しいレストランである。しかし、このレストランのシステムも修正を受けまくる。曰く、「ロボットのデザインがダサい」「5年前の製品っぽい」。システムの一部であるロボットのデザインに鬼のダメ出しをするレゴ社の偉い人たち、やはりガチだ。
しかしまあ、レゴの一貫性ってすごいっすね、ホント
この『LEGO HOUSE』を見てつくづく思うのは、レゴという商品に対してレゴ社が持たせている一貫性の凄まじさである。とにかく彼らは「レゴとは子供や大人の創造性に対して奉仕するものだ」という意見で一枚岩になっており、それはブロック一粒からレゴハウスのような巨大なアミューズメント施設に至るまで、一貫してブレがない。
思えば、超傑作として知られる『レゴ・ムービー』シリーズもそういう話だった。レゴが製品に添えるマニュアル通りに組み立てることも、また自分の想像に任せて好き勝手にレゴを組み立てることも肯定し、斜に構えずにみんなで遊ぶことの楽しさを嫌味にならないよう笑いにくるんでプレゼンするという、神経の行き届いた神業のような映画である。
とにかく、レゴハウスの中身は一貫して客の創造性を肯定する作りになっている。ちょっと一休みできるようなベンチの脇には、レゴの部品が入った箱が添えてあるので、手持ち無沙汰なら適当に部品を組み合わせて遊ぶことができる。最上階のギャラリーに置いてあるのも、レゴ社の製品じゃなくて各地の大人のファンが作った作品だ。だから置いてあるモデルはてんでバラバラ、笑っちゃうくらい統一感がない。
だが、それでいいのである。レゴはそういうおもちゃであり、大人だろうと子供だろうと、買った人間が好きに遊べばいいのだ。裏返せば、これだけ巨大な建物を建てて声高にそれを言わないと、みんな割とマニュアル通りに遊んじゃうんだろうな……ということでもある。だからなんどでもレゴは「好きに遊んでいいよ!」というメッセージを発するし、それにあたっては細心の注意を払う。レゴハウスに展示する巨大モデルやレストランの内容を細かくチェックしてダメ出しするのは、その最たるものだろう。
また、彼らは自分たちのルーツに対してとても自覚的だ。そもそも、レゴハウスを作るにあたって創業の地であるデンマークのビルンを選ぶというのが、自分たちのやってきたことをよく把握していることの表れである。
このレゴの精神がどうやって醸成されてきたのかというのは、『LEGO HOUSE』の劇中でも一応説明される。が、もうちょっと詳しいことが知りたい人は同じネットフリックスで配信中の『ボクらを作ったオモチャたち』のシーズン2に収録されているレゴの回を見てみるのもいいだろう。こちらではより詳しくレゴの毀誉褒貶(マジで会社が傾きかけた時期もあったのである)を知り、またなぜ今の経営方針に落ち着いたのかがよくわかる内容となっている。2本とも見れば、あなたもいっぱしのレゴ通になれるはずだ

(文と作図/しげる タイトルデザイン/まつもとりえこ)