渡辺賢一 【新聞が書かない中国経済】 連載第32回
ある中国人OLの選択

 「時代は変わったなぁ」と思った。広東省深センで働く中国人女性から転職の相談を受けたときのことである。


 25歳のその女性は、深センのとある日系企業でOLとして働いていた。月給は3000元(約4万5000円)。6年前に湖北省から出稼ぎにやって来て、最初に勤めた工場の月給は700元(約1万500円)だったから、3倍以上になった。ワーカーとして長時間勤務しても、生活するのがやっとの賃金しかもらえないのが嫌で、日系企業でOLとして働くべく、日本語を勉強した。たった1年で日本語能力検定の1級に合格したのだから、その根性には頭が下がる。複数の日系企業の面接を受け、いちばん条件のよかった現在の会社に就職した。だが、1年足らずで転職したいと言い出した。

 給与、待遇は申し分ない。だが、与えられるのはお茶汲みや簡単な事務作業ばかり。つまらない、社会人として成長できないというのである。これはよくわかる。実際、語学が堪能で向上心もある優秀な現地スタッフに、つまらない仕事ばかり与えてやる気をなくさせる日系企業は少なくない。


 問題は転職の条件だ。どんなに給料がよくても、通勤に時間のかかる郊外の会社はいやだ、工場ではなくオフィスに勤めたい、という。深センの日系企業は、大半が郊外に工場を構えている。工場の監督といった仕事は多いが、都心でOLという募集は限られている。「月給4000元(約6万円)を払います」といってくれた日系工場もあったが、「通勤に1時間もかかるから」という理由で断ったそうだ。おいおい、日本には通勤に2時間以上もかけているサラリーマンもざらにいるんだよ、と言い掛けて言葉を飲み込んだ。

 広東省政府によれば、2007年の省内で働くワーカーの平均賃金(年収)は2万9229元(約43万8000円)。4年前に比べて46%も上昇した。月収換算すれば2435元(約3万7000円)だから、有能(?)な彼女に出された4000元のオファーは2倍近い計算になる。それでも、「遠いから行きたくない」という理由だけで蹴ったのは、中国も豊かになり、お金だけで物事を判断しなくなったということか。(執筆者:渡辺賢一)

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